500BAR

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大学時代に住んでいた寮は季節ごとに「行事」があり(たしか「公式新歓」「花見」「寮祭」「望年会」「もちつき」「追いコン」など)、幹事はその行事・打ち上げ・二次会までを担当し、そして解散後には三次会と称し、上級生たちが数手に分かれて下級生を引き連れて飲みに行ったり遊びに行ったりする文化だった。
私は歌もボーリングも上手くなかったけれどアルコールには比較的強かったので、更なる飲みのグループについていくことが多かった。面白い話や芸やリアクションができなくても、酒を飲めさえすれば許されるような気がしたので。お分かりかと思うが、大学生の「更なる飲み」というのはもちろん、おいしいお酒をしっぽり味わってなんて訳はなく、キツいのをバカスカ飲むというやつです。そんな三次会で定番の店の一つだったのが500BARで、読み方は「ゴーバー」(正式には「ファイブハンドレッドバー」だそうだけれど、寮・大学の人たちはもっぱらゴーバーと呼んでいた)。

すすきのの中心からは少し外れた、でも十分賑やかな街並みに「500BAR」のネオンは光っている。半地下の店内はカジュアルで薄暗く落ち着いた雰囲気だけれど、私たちがたどり着く休日の深夜の時間帯には大抵騒がしく、会話するにも大きな声を出さなければいけない(悪循環だ)。飲み物はBARの名前にふさわしく様々なカクテルがメニューに並び、酒に合わせて用意される種々の格好いいグラス、シェイカーなど、大学生の私にはかなり本格的に思えた。飲み物は1杯500円でこれが店名の由来のようだ。飲み放題でも二千円くらいで、バカみたいに飲む私たちにはもってこいの飲み屋だった。
500BARのカクテルはなかなか洒落ていて、生チョコが添えられたチョコレートカクテルや、スミレの花のカクテルなどもあったけれど、先輩たちはもっぱら「サムライ」などのアルコールがきつくて大して美味しくないやつを、おそらくアルコールがきつくて大して美味しくないという理由で、飲んでいた。あの「酒に強いやつがえらい」「根性出して飲むやつがえらい」という文化は一体なんなんだろう? 寮の中で飲む時にはゲーム(山手線ゲームやたけのこにょっきなど)をして負けた人が飲むことが多かったが、店ではさすがに多分もう少し静かに飲んでいたとは思う。でも多分会話の中で急にコールが始まって誰かが飲むとか、話の流れで唐突に全員が飲むとか、とにかくそういう無茶な感じだった。そんな飲み方をして無事な訳はなく、先輩・後輩の数名は明け方に店の玄関を吐瀉物で汚し、500BARを出禁になっている。(でも料理も安いのにオシャレで美味しいし、早い時間から遅い時間まで空いているし、本当に便利なお店で、私は500BARのことが大好きです)


ちょうど私の在学期間が大学生の飲酒に対する認識の過渡期で、折しも某国立大学の部活の飲み会で新入生が飲酒を強制されて急性アルコール中毒で死亡、という事件もあった。私は入寮早々にはじめてのビールの味を知り、以来ビール党なのだけれど、そうした事件の影響もあり私が大学で上級生になる頃には「未成年には飲酒を強制してはいけない」その数年後には「寮の行事では未成年は飲酒禁止」「未成年に限らず飲酒は任意で」となった。
そもそも寮の飲み会で死者が出なかったのは今思い返せば奇跡的だ(私が知っているのはこれでもマイルドな時代で、少し前は尚のこと飲酒に関して厳しかった(=もっとアホほど飲まされていた)と聞いている)。死者が出なかった理由と思われる一つの予防策として、寮で酔い潰れた人が出た時には、部屋に返さずに食堂に布団と新聞紙を敷いて①人目のあるところで、②横を向かせて寝かせる(いわゆる回復体位、窒息を防ぐ)ということをしていた。これは酒飲み全員が知っておくべき、寮で学んだ数少ない有用な知識である。

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