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どれでも全部並べられた白のパンダを買い取ったら、

あくびが出る。

大学を卒業したものの進路が決まらなかった私は、小銭稼ぎに雑貨屋でアルバイトをしていた。
友達もいなく特にやることもないので、社員のようにシフトを入れているが、寂れた町のはじっこにあるような店だから、毎日あくびを噛み殺しながらレジ前に立っていた。


「ごめんください」

ある日、いつも業者が来る時間でない時間に、見覚えのない人がやってきた。
聴いてみると、新しく商品を卸してくれる業者らしい。店長さんから聞いてませんか?と言われた。聞いてないけど。
ともかくその業者が持ってきたパンダを、お店に置くことになった。

「このパンダあたらしく入荷したんですか?」

ある日、たまにやってくる女子高生がパンダについて聞いてきた。
店の一角に大量に並べられているパンダたち。いや並べられているというより、積まれていると言った方がいい。
外から見るとでかい白と黒の塊があるように見えるそれを指差して、そのまま一つ購入して行った。
会計を終えた彼女は、めっちゃかわいい〜、と言いながらそのパンダをカバンにつけて帰っていった。

それからどうやら様子がおかしい。

あの女子高生がパンダを購入した日から、同じような女子高生や、休みの日の中学生、下北にいそうな美大生、合コンに行く出立ちの女子大生など、ありとあらゆるジャンルの女の子がパンダを買っていく。
そしてそれを分かったかのように当日売れる数の分だけきっちりやってくる新しく発注されたパンダ。
今日10個入荷したら10個売れる、というようないささか気持ちの悪い売れ方で、パンダは毎日完売して行った。

「店長、なんでこのパンダ仕入れたんすか?」
「ああ、それ?僕の知り合いの友人が卸してるんだけどね」

どうやらその店長の遠い知り合い曰く、何故か入荷した分だけ売れるパンダらしいのだ。
その知り合いの人もなぜそこまでして売れるのかはわからないらしい。

「……なんか薄気味悪いですね」
「まあね。でも売れるならいいかと思って。しかもまさか本当だとは思っていなかったし。」

店長はあっけらかんと言い放ち、笑いながら店の奥に引っ込んでいった。


その日もいつも通りパンダを品出ししようとして、箱を開けたが、いつも通りのパンダはいなかった。

ぜんぶ、真っ白だったのだ。

「……あれじゃん、あの、えーっと。北京ベルリンなんとかかんとかってやつ……」
「何言ってんの?」
「うわっ!……なにしてんすか」
「いや、お客さん来たのかなって思ったらパンダだったからさ」
「あの店長、また新しいパンダ入荷したんですか?」
「いや?いつも通りのパンダだよ?」

そう言って箱から白のパンダを取り出す。
店長が手に取ったパンダも、箱の中にいるパンダも、私を見つめているパンダは全て、真っ白だった。
そしてそれが異常であると思っているのは、どうやら私だけだった。

それから、くる日もくる日も、白のパンダがやってきた。
パンダを手に取ってレジまでやってくるお客さんも、特に何も言わずに白のパンダを購入していく。
そんな毎日を過ごしているからか、パンダは白と黒の生き物だと思っている私の頭がついにおかしくなってきたのかと思うようになった。

真っ白のパンダを店頭に置くようになってしばらくした頃、
パンダを初めて入荷した日にやってきた女子高生がやってきた。
彼女はお店をふらっとしたあと、パンダ売り場の前で立ち止まり、しばらくした後レジまでやってきた。パンダを持たずに。

「お姉さん」
「はい、何かお探しで?」
「パンダの次はしろくま売り出したの?」
「え?」

白だけの塊を指差してそう言うと、こちらに向き直って、カバンを見せてきた。

「だって、前までこのパンダ、そこに置いてたよね?」

彼女のカバンには、以前購入してくれた白と黒のパンダがぶら下がっていた。
あれがパンダではないと思っているのは、彼女も同じだったのだ。

「やっぱり、そう思うよね?」
「え、そりゃそうでしょ。パンダは白黒だよ。」

何言ってんの?と言いたそうな彼女にこれまでのことを話すと、飛び出るほどまんまるに目を見開いた後、そんなことあんの?と言って帰ってしまった。

やっぱりこのパンダ問題は一生このままなのね……と思っていた翌日、また例の女子高生がやってきた。

「お姉さん!これ!」

息を切らして駆け込んできた彼女が見せてきたのは、白と黒のパンダの画像だった。

「昨日インスタ見てたら、一個だけあったの、白と黒の頃のパンダの投稿。」

どうやら昨日徹夜してパンダについて調べていたらしい。
そのパンダの投稿者のアカウントを見ると、白と黒のパンダの投稿の前に、真っ白なパンダが山盛り積まれた画像が投稿されていた。

「これ、なんて書いてある?」
「えっとねー、『お金かかったけど明日には戻るよね?』てあるね。」
「お金かかった……?」
「どういうことかは書いてないみたい。」

有効な手掛かりかもしれないが、その投稿はヒントが少なすぎた。
どうすることもできないまま私たちの間に沈黙が流れ、その日はそれで終わった。

(お金がかかる、かあ)
彼女が店を出た後もずっと考えていた。
お金をかけたら黒くできるって一体どう言うことなのだろう。
全部染めるか?縫うか?
でもそんなことしたとして、パンダは白と黒が当たり前の世界に戻るとは限らない。
下手したら「新色のパンダですか?」なんてことを言われかねない。
いやなにそれって感じだがほんとにそういう世界線にきてしまったのだ。

なにも思いつくことができず、帰ってからもぼーっとテレビを見つめていた。
『あなたこれ、端から端まで全部くださる?』
某お金持ちの夫人が買い物をしているバラエティ番組で、お金持ちらしい「全部購入」をしているのを見て、世界が違うわと思いながら笑い、その日は眠りについた。

今日も白のパンダを品出ししていた。
相変わらずお金がかかるの答えを考えていた時、昨日の夫人を思い出した。

「店長。このパンダ、あるだけ全部ください。」
「ええ?本気で言ってる?」
「本気です。全部買い取らせてください。買い取ったら帰ります、体調悪いので」

そんなにパンダ好きだったっけぇ?と呑気に喋る店長をどうにか説得して、あるだけのパンダを購入して袋につめた。
お大事にね〜と言う店長の声を背にして裏から出ると、例の女子高生が通りすがった。

「お姉さんなにしてんの?」
「あ、」
「え、白いパンダじゃん。これから品出し?」
「いや、これ全部買ったの。」
「は?全部?」
「うん、全部」
「なにしてんの?頭おかしくなった?」
「ううん、お金かかったけどね。」
「え、そういうこと?」

納得した顔をした彼女と二人で、袋いっぱいの白いパンダを袋ごと抱きしめて、写真を撮る。

「いい感じに盛れてるわ!これでいい?」
「うん、なんでもいい。あれ忘れないでね。」
「はいはい。『#お金かかったけど』と。」
「ありがと。明日またお店来てよ。」

彼女とまた明日会う約束をして、その日はそのまま帰った。


今日も業者から段ボールを受け取った。
不思議なことに、白のパンダを大量に購入し1日を過ごして迎えた朝、中身がパンパンだった袋は家中探しても見当たらなかった。
開店を待っていた例の女子高生と一緒に待っていた業者は、いつもパンダを持ってくる業者ではなく、
この店に前々から商品を卸している馴染みの業者さんだった。

「じゃ、開けていい?」
「うん。」

二人の間に緊張が走ったことを確認して、段ボールを開ける。


そこには、白と黒のパンダがいた。


「……よかったぁ。」
「戻ったね。」

二人して安堵した後、目を合わせてなんだかおかしくて笑ってしまった。
その笑い声につられて、店の奥から店長が出てきた。

「どうしたの?」
「いえ、どうもしてないです。……店長、パンダの大量発注やめたんですか?」
「え?なにそれ?パンダはいつもちょっとしか発注してないでしょ?」
「え?入荷した分だけ売れるってお友達が言ってたんじゃ」
「なにそのミラクルパンダ。」

それだけ言って笑いながら、店長は店の奥に戻って行った。
私は女子高生と目を合わせて再び笑った。
箱にいるパンダも心なしか笑っていたような気がした。


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