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嵐の日に

すごい!すごいよ!

私は母の手を引っ張った

あれは
小学生の頃

大きな台風が近づいていた

教室から見えた空は灰色
窓ガラスが風で揺れる

窓の隙間から雨が入らないように
だったかな
窓が割れないように
だったかな

雑巾を窓のサッシに詰めて
窓から離れた

「台風が近づいているので、今日はこれで下校になります。ただ風が強くなっているので
おうちの方に連絡してお迎えにきてもらいますから、そのまま、待っていてください」

教室にゴーゴー響き渡る風の音
同級生の興奮する声

先生は声を張り上げて叫んだ。

それから、数分後、
チラリチラリと同級生の保護者が現れ、帰っていく

風は強くなって来た
(大丈夫かな、ちゃんと帰れるかな)


私の子供の頃はスマホなどない
先生たちは連絡取るのが大変だったと思う。

今なら
スマホに一斉メール
車でお迎えに

となるのがほとんど。

だけど
車を持ってるうちなんて
そうそうない

雨風の中、
保護者は迎えに来ていた

ずぶ濡れできて
子供と一緒に
またずぶ濡れで帰っていく

何人か見送った後
母が来た

うん?

ふと、母が変わった格好している事に気づいた。
傘を持っていないのだ

「お母さん、傘は?」
私が言うと
「いいから、これ着て」

渡されたのはゴミ袋
底に穴が開いており、かぶれるようになっていた。
それを被り着て、もう一枚のゴミ袋を帽子のようにしてかぶる

クラスの同級生が不思議そうに
こちらをみて笑った

ちょっと恥ずかしくて俯くと
母が言った

「絶対、傘より役に立つから」

そう言って、先生に挨拶して
私の手を取り歩き出した。

同じタイミングで迎えがきた
同級生の女の子と一緒に外に出る

風は益々強くなり、
雨が痛い

ゴミ袋の帽子をしっかり握り
母と腕を組み、歩き出す

「きゃっ」

声が聞こえて、立ちどまり
振り返る

一緒に帰宅した同級生の親子が
飛んだ!

一瞬信じられなかったが
確かに後方に数メートル。

彼女達は傘を刺していた

「ほら、傘は役に立たないでしょ?
寧ろ、危ない。ゴミ袋のカッパで良かったでしょ」

母は言った。

もう一度、振り返ると

彼女たちの傘は無くずぶ濡れで
立ち上がり歩き出していた
怪我は無さそうだったので
私達も歩き出した。

学校からお迎えの連絡を受けたとき
母は
(この雨風では傘は役に立たない。ならば、どうする?そうだ!)
と思い、咄嗟に作ったという

母は元々、人と同じ物を持つのが嫌いな人で自分で作ってしまう人だから、
日頃の感性で作ってしまえたのだろう。

そのゴミ袋カッパが、何年後かに
ライフハックとして使われるようになるとは
この時の私が知るはずもない

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