洗脳 第三章 沈黙の食卓

「黙って食べなさい!」
「ちゃんと、座りなさい」

父は普段は忙しくて
夜の帰宅は遅い事が多かった

1〜3月まで繁忙期で
夜は日付が変わる頃に帰宅して
朝は5時頃出かけていく

テーブルの上には
お弁当が置かれていた

職場ででる夜食だそうだ

冷たくなったお弁当を食べていると
(電子レンジなどない時代)
「お父さん、こんな冷たいごはんでかわいそう」と母が言った

お弁当は有名なお店のものだった

私も確かにと思った。
こんな冷たいお弁当が出る時間まで働かなくちゃいけないなんて。と。

今みたいに週休2日ではないので、
必ず休みなのは、日曜日だけ。

その日曜日が私には地獄だった。

父が休みの日は、遊びに行けなかった。
宿題も父が休みの日の前日までに終わらせておかないと行けなかった。

車を所有してる人なんてあまりいない時代。
移動は交通公共機関。
子供だからとて座らせてもらえない
疲れ切って家につく。
段々と機嫌が悪くなる父は、母にあたる。
やれ、こんな小さな皿で!とか…

我が家は食事中のおしゃべりは禁止。
父が選んだテレビを見ながら、
お通夜のような食事をする

初め、隣同士で座っていた私達姉妹は、
何かの発端で言い合いの喧嘩になった。

「静かにしろ!」

父の怒鳴り声とともに箸が飛んできた

それからというもの、私達姉妹の間に父が座るようになった。

言い合いの喧嘩は無くなったが、
足が痺れて、足を崩すと、

「食事中だろ!行儀悪い!」

と太ももに箸を突き刺す

学校での出来事を話すなんてできなかった。
父も聞いたりしなかった。

夫の実家に行って食事をご馳走になる時、
私は一言も喋らずに、綺麗に食べることに集中した。

汚い食べ方したら、
両親が笑われてしまう。
どんな育て方したのかしら?と。

義母が食事の合間に
話しかけてくる。

口の中にものが入っていたら
喋ってはいけないと言われていたので
少しずつ、口に運ぶようにした。

義両親も夫も食べながら、
楽しく会話を楽しんでいる

食事中は喋るな!

私はこの言葉のせいで
食事中は喋れなくなっていた

いつだったか
家族が集まる夕飯時は
みんなでおしゃべりしながら
楽しく食べましょう
というのを聞いたことがあり、
食事中におしゃべりしていいの?
と思った。

友達と外で食事をする時、
食事しながら喋る友達が凄いなと
感じるようになった

私はどちらかにしか出来ない

待たせるのも嫌なので
ご飯もの、麺類は避けた

そして
気づいた
おしゃべりしながら食べる方が
楽しい事を。

母は料理の上手な人だったけど
この沈黙の食卓では
美味しいと感じた記憶がなかった

生きるために
習慣だから
食べる

出されたから食べる

そんな感じだった。

数十年後
「お義母さんの料理美味しいね」と夫にいわれるまで、母の料理に関心など湧かなかった。

そういえば
あの頃の食卓は部屋の感じも暗かった気がするなぁ。

結婚して
子供ができて

お酒のんで
ちょっとだけ、ほろ酔いの夫と
子供達がふざけ合いながら
会話を楽しみながら
「これ美味しいね」とか
「どうやって作ったの」とか

たわいない話をしてるのを聞くと
「沈黙の食卓」よりも
「賑やかな食卓」の方が
食事も美味しくなる、と思うようになった。

父は、いいものを食べさせてくれていた。
だけど、「スパイス」が足りなかった。
「スパイス」の存在を知っていたら、
もっと、美味しかっただろう

食事のマナーや会話をしながらの食事ができなくて、トラウマになりかかったが、
家族以外の人達のおかげでならずに済んだのだった。

食事は楽しく食べなきゃね!

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