「A little dough」 第４章　支出して生活する　🅂23　教育にかけるお金

　前回から教育費の考え方について記載しています。

➤パーソナル・ファイナンスと教育費
　さて記載した通り「新米の親」として、その未熟さを踏まえた上で、パーソナルファイナンスにおける教育費について考えてみたいと思います。
　「教育費」というテーマになるとよく耳にする「公立vs私立」という対比がありますが、これもまた🅂16「相対性の罠」で記載したように、多くの人にとってはほぼ不要なフレーミングだと思います。「〇〇vs✕✕」的な構図は、個々の比較事象そのものは別にして、全体の答えとしては単純すぎるか曖昧になるかであまり意味はないようです。
　実際、日本の全国レベルの公立私立のシェアを見ると、公立に通う小学生は全体の約99％、中学生は約93％、高校生は約70％、そして大学生になるとこれが逆転して私立が全体の約80％を占めるという状況にあります。その結果私自身もそうですが、高校までは公立に通い大学で私立に進むという「公・公・公・私（小学校～大学）」のパターンが圧倒的に多いと想定されることになります。
　一方で首都圏に限った中学受験の状況をみると、2023年の受験者数（私立＋国立）は、5万2600人で17％程度となっており、わずかですが増加傾向にあります。都市部においては有名私立などの選択肢があるため、近年では中学受験がやや過熱気味の地域もあるようです。

　こうした状況を踏まえて、パーソナル・ファイナンスの視点から教育資金を検討すると、圧倒的なシェアである「公・公・公・私（小学校～大学）を前提とした資金準備を行い、念のため高校での私立選択に備えて予備費を用意する」という考えが基本になると思います。具体的には大学と高校７年間の学費と入学金、それに塾費用などを含めると一人につき約１千万円程度の金額になります。
　学校の良し悪しや子供の希望を前提にしたい気持ちは理解できますが、小学校から私立の場合の就学費用は年間百万円程度必要ですから、一般の家庭でこれを前提に資金手当（子供一人につき２千万円強）をすることはかなりの困難を伴います。現在実施されている国や都道府県の補助金制度も活用できますが、原則として私立の小学校は対象外あり、中高の場合も所得制限などの条件によって大きく変わってきます。何らかの理由で私立を希望する場合は、こうした補助金の内容もしっかり検討して資金手当てしていく必要があります。また大学には奨学金制度もありますが、返済免除でない限りは「借入金」となるため、あくまで最後の策として考える方が賢明です。
　尚、「公立vs私立」などのキーワードでネットを検索いただければ詳細な情報がわかりますが、そもそもそうした記事自体が見事にフレーミングされていることもありますので注意が必要です。

➤より良い環境の選択とは
　私たちがこうした教育環境の選択を検討する理由は「子供たちをより良い環境で育てたい」と思うからですが、であれば「良い環境」とはどんな環境なのかという問いに対して、答えを持っている必要があります。そこで子供の教育環境に相応しい条件をいくつか例示してみます。

＜より良い教育環境の例＞
・物理的精神的安全性：事故やケガ、犯罪などへの対策がしっかりと講じられおり物理的に安全であり精神的に安心できる環境
・刺激的な教材やアクティビティ：子供の好奇心、探求心を刺激する科学や芸術やスポーツなどの広範な分野の情報や体験環境など
・社会的な対話と交流：友人との学びや遊びの体験、共感をベースにした様々な集団活動に参加する機会の提供
・心身の健康と親の関与：子供一人一人の心身の健康が図られる制度やルールつくりが行われており、一定範囲の親の関与が可能であること　など

　やや抽象的になってしまいましたが、仮に上記の内容の多くを満たしている学校があるとすれば、それは魅力的であると思います。実際こうした環境の多くを備えるためには、人・物・情報が必要であり、結果として一部の国立系を除くと、資金力のある有名私立の学校が必然的に優位になるのかもしれません。その結果親たちは出費が嵩んだとしても、早いうちから良い環境で学習できる「有名私立」に通わせたいと思うようになり、その意を酌んだ子供たちが中学受験を選択する、といった現象が都市部で見られるのもわかるような気がします。
　しかし当然のことですが、子供の教育費といえども家計収支を損なうような極端な対応は避けるべきです。家計管理とは、私たちの家族全員の生活を健全で安定的なものにすることを優先し計画的に進める必要があります。そのため、臨時で且つ多額の支出は家計を不安定にし、一つの綻びから連鎖的に生活基盤が揺らぐような事態を引き起こしかねません。
　むしろ「健全な教育環境を維持する」ための家計管理には一定の余裕があることこそ重要です。家庭のありふれた日常においても小さな工夫で「楽しさ」を演出できれば、それは「感動・共感・尊敬」など様々な形での情操教育に役立ちます。そしてそうした時間を極力親と共有することが、何よりも子供の精神的な成長の原動力になっていくのです。子供が育つ環境とは家庭と学校の両方を中心とした世界であり、どちらにもバランスを取りながら資金を使っていく必要があります。

➤ズレているのは誰か
　ところで記載したとおり「子供たちをより良い環境で育てたい」というところから出発している「学校の選択」ですが、一方で「有名私立」という選択肢にはその学費の高さからもわかるように、「地位財」としての要素が加わっている点も見逃せません。特に小学校から有名私立に通うという選択は、全体の１％程度に限られたものであることからも、地位財としての価値を存分に発揮してくれそうです。
　確かに子供の進学は「学歴」や「資格」などの社会的評価を得ますので、子供本人にとっては地位財であり、🅂17で述べた地位財の持つ「必要価値」という重要な要素を含んでいます。
　しかしこれを自らの地位財と勘違いする親がいるのも事実のようです。子供の成果は親にとって誇らしいものですが、それはその子供やパートナーと共有すべきものです。これを自らの地位財と勘違いしてしまうと、自分の虚栄心の為に子供に受験させるということになりかねません。これは教育のNGの一つ「趣味や活動の強制（親の意思の押し付け）」に該当します。無自覚のままこうした事態に陥り、子供の意志を無視してしまうことがないよう、しっかりと心掛ける必要があります。