「A little dough」 第４章　支出して生活する　🅂１

➤支出しないと生活できない…
　前章の「働いて自立する」から、第４章では「支出」と「生活」にテーマを移していきます。「労働による経済的自立」を前提にすれば、そもそも私たちの行動は「働いて収入を得、その収入の一部を生活用品の購入にあて生活をする」というものです。現代社会ではどう転んでもお金なしに生きていくのは難しいでしょう。お金を使って雨風を防ぎ、お金を使って食料を得ます。つまりこの章のタイトルである「支出して生活する」ということになってくるわけです。
　第２章の🅂７で「行動が資金の必要性を生む」という順序を、あえて記載しました。私たちは「自立して生活していく」という意思を持ちこれを実現するために、生活基盤を支える資金が必要になってきます。そしてその資金の一部を必要なものに変えていく支出は、一見簡単そうですが実はそれなりに難しいと私は思います。価値観が多様化し情報が複雑に影響しあう現代社会においては、私たちの好奇心や刺激を求める感情が、こうした状況に敏感に反応してしまいます。またマーケティングの進化によって人間の行動心理を予測した販売活動の結果、私たちは自分の意思で買ったつもりでも実際は買わされているということが数多く起こっています。

➤自分を過信せず、自分を信じる
　とは言え支出には「楽しみ」があることも事実です。特に若い頃は、流行を追いかけたりブランド品を身に着けたりすることで、全く別の自分になれたような錯覚を楽しめたりします。物を買う行為には個性が表れますので、そこで自己主張したくなるのはもっともなことだと思います。こうした買い物の楽しみ方も、結局全体の収支のバランスの中に納まっていればいいわけですし、我慢比べのような生活は正直おすすめできません。せっかく一度きりの人生ですから、年代に応じて数多くのことを経験しながら年を重ねることが、いい人生に繋がっていくように思います。
　支出には多少の勉強代も必要ですし、やみくもに倹約生活を試みても、たいていは長続きしません。大事なことは、私たちが重要な選択を誤らないように、対処する術を学ぶことです。どんな選択にも困難はつきものですが、乗り越えていく道は必ずと言っていいほどあるものです。そのためには「金融リテラシーを身に着け自己管理能力を磨く」、そして自分を過信せず自分を信じて、ゆっくりと実践していくほかありません。

➤まずは自然体で支出を把握する
　パーソナルファイナンスの知識を持つと、例えば第２章のファイナンシャル・プランで記載した人生の三大資金といった、将来の人生設計を豊かで輝かしいものにするための対策に手を付けたくなります。しかし最初からこうした言葉に捉われてしまうと、かえって選択肢を狭めてしまいかねません。フィナンシャル・プランの全体を俯瞰することは大事ですが、初めの一歩はまずシンプルに、毎日の生活が継続できるような支出から始めてみるべきです。条件は赤字にしないこと、つまり収入の範囲内でこれを実行することです。当面はそれ一点に拘っておけばいいと思います。
　前章で記載したように、支出にはプライオリティー（優先順位付け）が必要です。そして収支がプラスであることが条件ですから、全体の生活費予算の範囲内に収めるという条件が付きます。そのうえでこの優先順位付けを考えるのですが、これにもいくつかの重要な要素があります。

➤　「必要性」のプライオリティー（優先順位付け）
　一般的に考えられるのは①生活のために必要であること（重要性や価値など）や②比較的リーズナブルに手に入ること（価格や流通性）などがあげられます。またそのほかにも③緊急性といった要素が最上位に入ることもありますが、日常生活ではまず①と②のマトリクスを考えておけばいいように思います。
＜優先順位の付け方＞
(1)必要性が高く入手しやすい　（〇）
(2)必要性が高く入手しにくい　（△）
(3)必要性が低く入手しやすい　（✕）
(4)必要性が低く入手しにくい　（✕）
　検討が必要なものは(1)(2)になります。(3)(4)については、必要性がないのですから検討しません。(1)が最優先であり(2)は全体の予算の範囲内であることが前提です。またこの必要性の尺度となるのは、マズローの５段階の欲求の第１段階から第３段階まで、生理的欲求と安全の欲求、そして所属と愛の欲求を満たすことに使われるもの、ということになります。
　また長期的なキャリア・デザインの為の自己投資が必要な場合は、給与の5～10％といった枠を設けて実行することをお勧めします。

➤一番に確保すべき「食」による健康
　ところがです、支出のプライオリティーは「必要性と価格」と頭で理解しても、これを実生活の中で実行するのはかなりの困難を伴います。それは必要性にしても価格にしても、私たちの判断はあくまで主観的なものにすぎないからです。つまり「主観の緩さ」もしっかり計算にいれて、「毎月の支出枠」を「毎日の支出枠」へとブレイクダウンしていくのが賢明ということになります。因みに「主観」を司る私たちの脳は、驚くほど簡単に欲しいものを必要なものにすり替えてしまうので、注意が必要です。
 　価値観が違えばプライオリティーも様々です。それを踏まえてあえて記載しますが、初めて自活するということを想定した場合、まず固定費をできる限り抑えて食費にゆとりを持たせることが大切です。もちろん自炊してバランスを取ることも重要ですが、フルに仕事をして疲れている状態で食費に神経を使うようでは、身体的にも精神的にも参ってしまいます。ありがちな話ですが、くれぐれも「高い家賃の便利で優雅な居住空間」を想定してはいけません。日本の初任給は高くありませんから、ドラマのようにはいきません。社会人生活の初めは、質素でも食事に余裕のある生活を優先し、意欲的に仕事にチャレンジできる生活環境を整えることです。スタート地点では大抵のことが低いレベルから始まりますが、その方が徐々にステップアップできていい結果を生みます。高いのはせいぜい「モチベーションと目標」くらいにしておきましょう。これも高すぎてはいけませんが…。