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イクイノックスは“才能だけ”で天皇賞・秋を勝ってしまったのかもしれない

天皇賞・秋はクリストフ・ルメール騎手が騎乗した1番人気イクイノックスが優勝。イクイノックス号、ルメール騎手、木村調教師はじめ厩舎スタッフ、牧場スタッフ、オーナー関係者の皆さま、本当におめでとうございました。

■あの頃のあの馬を思い出して……

それにしても面白いレースでしたね。テンからしまいまでドキドキしっぱなし。もちろん、これを演出した主役の1頭が道中大逃げを打って2着に粘ったパンサラッサです。

近走は二の脚のダッシュがつかず、札幌記念でもどうにかハナという競馬。しかも今回は外に強力な先行馬が揃っていたこともあって、内枠からダッシュが利かなかった場合はどうなることか……と注目していましたが、吉田豊騎手が巧みに促して先手を主張することができた。

こうなると内枠が生きてくる。

ハナを取り切った後の向こう正面からは宣言通りの大逃げ。吉田豊騎手がやりたいことを余すところなく全部やりましたという競馬だったと思うし、本当に見ていて気持ち良くなる逃げだった。そして、週中にはサイレンススズカにまつわる天皇賞・秋記事が多く配信されていたこともあって、どうしてもあの頃のあのレースを思い出してしまう。

「このまま無事に1着でゴールして、なんだったら天皇賞・秋の伝説となってほしいなぁ……」

なんて、自分の馬券を度外視にしてパンサラッサに肩入れしてしまい、なんだかもう、テレビ越しではあったけど自分の目で現実を見ているのか、昔の思い出の何かを見ているのか、よく分からない感覚になった。

この気持ち、オールドファンならば分かっていただけます?

■上がり32秒台の脚を使ったのは3歳馬2頭だけ

だが、そんなノスタルジックなモヤモヤを切り裂いて僕を現実に引き戻したのが、このレースもう1頭の、そして真の主役であるイクイノックスだった。

外からグンと加速に入った青鹿毛を見て、「あぁ、これは差してくる」と思ったのはもちろん僕だけではないでしょう。残り100mではまだ届くかどうか分からない。でも、残り50mではもう差し切れるところまで勢いを増し、ゴールしたときには逆に1馬身突き放していた。

文句なしの素晴らしい末脚、そして物凄い加速力。

天皇賞・秋全体の上がり時計はほぼパンサラッサのものなので、数字としては3F36秒7。これだけを見れば上がりのかかった競馬にも思えるけど、イクイノックスが使った脚はなんと32秒7。3着に突っ込んだ同じく3歳ダノンベルーガが32秒8だったから、レース全体の数字とはまったく真逆の、究極の上がり勝負だったというわけだ。

そして、そんな極限の勝負の中で差してきた3歳の2頭は本当に強い。斤量差があったとはいえ32秒台の脚を使ったのはこの2頭だけだったし、3番目に速い上がりがカデナの33秒2だったから、その差は歴然の0秒4~0秒5。イクイノックス、ダノンベルーガがいかにすさまじい末脚を繰り出したかということが分かるというものだろう。

■ルメール騎手の冷静な判断、心臓はどうなってるの?

また、これは僕なんかが言うべきことではないのだけど、ルメール騎手の冷静な判断も素晴らしかった。レース後のインタビューで「パンサラッサがかなり前にいたのでちょっと心配した」とは語っていたものの、直線に入っても慌てるそぶりは一切なく、進路をしっかりと確保できる外に持ち出し、ゆっくり、ゆっくりと追い出しにかかった。

それだけイクイノックスの脚を信頼していたからだろうと思うけど、これだけ落ち着いた騎乗ができるというのはさすが、百戦錬磨の名手です。いったい、どんな心臓をしているんでしょうね。

いや、裏を返せば、それだけルメール騎手を冷静にさせるほどの能力をイクイノックスが持っている、ということにもなるか。

まだキャリア4戦。僕は昨日の予想でイクイノックスを△評価というまるで見る目のない印を打ってしまったわけだけど、その理由の一つにこのキャリアの少なさがあった。もちろん、デビューからの過程というのはその馬自身の体質や成長曲線もあるだろうから、キャリアが少ないことは悪いことではない。でも、歴戦の古馬が揃ったGI級のレースともなれば、流れが厳しくなるのは当たり前で、才能だけで通用する3歳限定レースとは違う、と。

でも、イクイノックスはその“才能だけ”で、この天皇賞・秋を突き抜けてしまったように思う。それは「このGIがこの馬にとっての最後ではありません」と断言したルメール騎手の言葉が示す通りだし、父キタサンブラックという血統からして、イクイノックスが本格化するのはまだまだこれから先のことだろう。木村調教師いわく“天才”が完成したあかつきには、どれほどの馬となっているのだろうか。僕にはまるで想像がつかない分、よりこれからが楽しみで仕方ない。

■ロマンを感じる父キタサンブラック×母父キングヘイロー

そして、血統で見ると、父キタサンブラック×母父キングヘイローというのも、なんだかロマンを感じてしまう。見た目は父譲りのグッドルッキングホースだけど、差しの脚質はキングヘイロー譲りだろうか、それともさらにその父ダンシングブレーヴからの遺伝だろうか。いや、母系にはトニービンもいるから、もしかしたら凱旋門賞のロンシャンもいけるのでは……なんて、夢が広がるばかり。

次は早ければJCか、それとも有馬か――と、気ばかりがはやってしまうけど、まずはイクイノックス自身のコンディションが第一。まだまだ成長途上な分、春は体調管理に苦労した面もあるようなので、僕らファンとしても慌てず焦らず、再び万全の状態でターフに帰ってくるのを待ちましょう。

ちなみに、我が本命シャフリヤールはどうしてしまったのか。位置取りは絶好だったのに、ペースが上がったところでモタモタしてしまい、直線も弾けきれず。休み明けが原因か、はたまた上がりが速すぎたのか。次はJCだと思うので、巻き返しに期待ですね。

はぁ……これも昨日の予想に書いたことだけど、やはり馬券は思い切ってパンサラッサから買うべきでした。シャフリヤールの単勝オッズに惑わされてしまった。無念。

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