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「#22 このまま歩けば試供品をもらえる」


 4月8日に誕生日を迎え44歳になった。
 今まで特に年齢など気にせずに生きてきたが、歩いていてふと自分の年齢を考えた時に、44かぁ〜、えっ!44歳なんっ!?と驚いてしまうことがある。平日の昼間にスニーカーで街中をふらふらと歩いている44歳は僕だけなのではないかと辺りを窺ってしまうようになった。
 人それぞれ歩幅も歩き方も違うものだが、やはり大人としてこれからは成熟していきたいものである。その一歩として、ずっとカードのSuicaを持ち歩いていたがもう今年はモバイルSuicaに変えてやろうか。

 ていうか皆んないつの間にモバイルSuicaに変えたん?聞いてないんやけど?最初にSuicaカード出来てこんな便利な物あるよって教えて貰って、周りと同じようにSuicaカード使ってたけど、ある日を境に皆んな一斉にスマホをタッチし出したやん。それって皆んなどっかからお知らせとか来てたんかな?全然俺には届いてないんやけど。誰も何にも言ってくれへんから、未だに俺だけ一人で券売機にカード置いてチャージして、改札機でカードをタッチしてるんやけど。
 一旦ちょっと情報を集めて、今年は僕もモバイルSuicaに向けて動き出したいと思います。

 後は駅前で配られる試供品をちゃんと貰えるようになりたいな。今までの僕は、例えば真夏にエナジードリンクのサンプリングをしている時など、欲しいなら配ってるんだから自ら貰いに行けばいいのに、向こうだって貰ってくれた方が仕事が早く終わるから貰って欲しいと分かっているのに、浅ましい人間と思われるんじゃないかという気持ちから、どうしても偶然の雰囲気を装って受け取ろうとする癖があった。
 あっ何か配ってるぞと気づいたら、その15メートルほど手前から手渡される為のコース取りを始め、強引にならないように自然に試供品を配られる人の流れに合流していく。そしてそのまま知らん顔してサンプリングのお姉さんの横を通り過ぎ、「こちらどうぞ!新商品です!」と声をかけられると、「全然気づかんかったびっくりしたぁ〜」という困惑の表情でそれを受け取り、手に持ったエナジードリンクをじっと見つめ、「なんか貰ってもうたけどぉ〜」みたいな感じで首を傾げながら歩き去っていたのだ。めっちゃ欲しかったくせに。

 たまにちょうど僕の前の人が試供品を受け取り、僕の時には箱などから試供品を出そうとしているタイミングに重なることがあるが、あくまでも偶然を装うスタイルをとっている僕は、本当にそのまま試供品を受け取らずにただ通り過ぎてしまうこともあった。
 僕の後ろに頭のキレる人間がいたならば、僕のそういった行動は全て見透かされ一番恥ずかしい状態になってるに違いない。だからこれからはちゃんと欲しそうな顔をして笑顔で試供品を受け取ろう。

 試着室での店員への返事も頑張ってみようか。試着室に入った時に店員さんからの「いかがですかぁ〜?」や「どんな感じですかぁ〜」が昔から苦手で、どう答えていいか分からなくなってしまう。
 着てみて凄くいいなぁと思っても、「いい感じだと思います」なんて言うのは、「なにを鏡に映る試着した自分を自分で褒めてんねんナルシストが」、と店員に思われる気がするし、「あんまりでした」と言うのも店に失礼な気がしてしまう。
 そうなると僕は何も答えられず試着室の中で黙りこくってしまい、突然に応答の無くなった店員は、まるで試着室に入った人間がカーテンを閉めると忽然と姿が消してしまうイリュージョンを見せられた時のように、「お客様っ⁉︎お客様っ⁉︎大丈夫ですか?」とびっくりしてしまう。

 サイズが丁度いいとか、小さすぎるとか、答えようは何でもあるのだけれど、結局は店員さんの前に試着した服で姿を現したり、試着した服についてどうこう話すことにも煩わしさを感じているのだろう。それならいっそこの件に関しては試着室で姿を消すイリュージョンをマスターをした方が早いのではないかと、歳をとっても結局は阿呆なことばかりを考えている。

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