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本を読んだら 『東京ロンダリング』


1.ベストセラーは街の本屋さんで


地元に古めかしい書店がある。建物のどこかに、100年以上の歴史があると書かれていた。小さな店内には雑誌の陳列台がレジ前にあり、その裏が宗教書メインの棚になっているなど、全く独立系でない、昔ながらの新刊書店。
教科書の取扱店にもなっているようなことを話しているのを聞いたことがあるから、経営はどうにかなっているのかもしれないけれど、とにかく文芸書の回転が悪いのが気がかり。
たとえば、「〇〇賞候補作!」の帯で何ヶ月も面出ししてある単行本。その賞…取ったよね!その本!帯、出版社から来てないの…?
そういうことは往々にしてあるが、多分誰も困っていない。
私も、季節イチの帯の本を、その季節が終わってから買った。それがこの本。ちょっと前に売れたなと思う本が常にあるから、この一冊を私が買ったら、何か一冊新しい本を仕入れてくださいと祈りながら(余計なお世話である)、今日もちまっと文庫本一冊買って行く。


2.『東京ロンダリング』

https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-745148-1

『東京ロンダリング』原田ひ香作 集英社文庫

【読むのにかかった時間】1日
【再読するか】微妙。続編が読みたい
【勧める人】疲れている人、人と同じ生活リズムで暮らすのがしんどい人

タイトルが強烈だなと思いつつ、既に10年以上この本を横目に生きてきたらしい。
文庫解説を書いている故北上次郎さんが推していたと本の雑誌で知り、ようやく手にして、一気に読んでしまった。

ロンダリングと聞くとマネーロンダリング(資金洗浄)かな?と思うけれど、やや惜しい。
主人公の暮らしぶりが分かると、それを専業にする人がいるかどうかはともかく、不動産業者にはありがたい存在だろうな、と思う。

食べものを仔細に描写するお仕事小説(飲食店を舞台にした連作ものやアンソロジーなど)がこの数年ですごく増えたように思うけれど、私はそういう本が好きではない。
つるつる読めて癒される…みたいなことを本に求めていないからで、実際にはそういう本には私の分かっていないよさがあるから売れているのだと思う。
この本には美味しそうな食べ物はいろいろ出てくるけれど、描写はメリハリがあってわざとらしくない。豚汁とご飯はただの豚汁とご飯、ただし温かい。米が一粒一粒とか、珍しい具が入っているとかいうことがいちいちではないのがいい。
自分なら、昼や夜のちょっとした外食の中身をいちいち印象深く覚えていることは基本なくて、むしろ自分で作る食事のほうが、さじ加減を学習して、数日後に同じものを作って研究してみるなどして、後々まで印象に残りやすい。
そういうところの妙な盛りがないのと、短編集ではなく一編の長編なので、短いジェットコースターに何度も乗るようなうるささがなく、けれど先が気になってぐいぐい読ませる巧さみたいなものが、全体的によかった。
主人公のキャラクターが、変わった設定にノリノリではなくて、手探りしながら少しずつ変わっていくのもよかった。

北上次郎さんは複数の書評連載を持っていたからという理由も大きいだろうけれど、いつ何を読むかスケジューリングしていたらしい。私には真似できないなあ。