【エッセイ】 パトリック

パトリック。
私の記憶が正しければ、彼はEnglish201というESL(English as a Second Languageと言う留学生向けの英語に特化したクラスのこと)を終わって初めに受けるカレッジのイングリッシュクラスの先生だった。

その前に私が10代の頃、ワシントン州のカレッジに留学していたことを一応述べておく。
ワシントン州の位置は下記を参照してください。
カリフォルニア州の上のオレゴン州の上。カナダのヴァンクーヴァー州の下。

このクラスは1時間を週4回受けるクラスで、ランチ直後の眠気マックスの時間帯に設けられていた。居眠りしている生徒もちらほらいる中、彼は放任的で注意もしないし、起こしもしない。何なら余談を始めたりする。ただ、唐突にグループワークを与えられたりする。

私はこのクラスで扱っているテキスト外の読み物とそれに付随する課題のライティングが好きだった。クラス自体も好きだったので、いつも教壇の右斜め前の席を陣取ってクラスを受けていた。そのおかげか、彼にすぐ名前と顔を覚えてもらえ、カレッジ内ですれ違うたびに挨拶を交わしていたし、タームが終わる頃にはちょっとした立ち話をすることもあった。

しかし、1タームは3ヶ月間というとてつも無く短い期間で過ぎ去り、ファイナルが終わると2週間程度のブレイクに突入してしまう。そして次のタームが始まるのだが、そうすると何が起きるかと言うと、クラススケジュールが変わり全く彼と合わなくなってしまったのだ。次のタームで取れるレベルのクラスの中には彼が担当するクラスが無く、geographyで2時間半のクラスを取るようになったため、すれ違うこともなくなってしまった。とても悲しかったし、寂しかった。しかも、geographyを受けるクラスは敷地の外れにある建物で、クラス前後のタイミングで人とすれ違うことは皆無だった。

そんなある時、取っていたモーニングクラスが突然のキャンセルになってしまった。アメリカンカレッジあるあるで、担当教師の都合でクラスは割とキャンセルされる。その時、住んでいた家から学校まで1時間弱掛かっていたので、キャンセルの連絡を受けたのはバスに揺られている最中だった。仕方なく、時間を潰そうとホールのロビーの机で予習をしたりYouTubeを見たりして朝活していると、エントランスに彼の姿が近づいてくる。見間違いかと思ったけど彼に間違いないようだったので、さっとイヤホンを外して万が一話しかけられてもいいように待機する。すると彼も私に気づいてくれたようで、笑って手を振りながら近づいてきてくれた。その時の心臓の高鳴りは凄まじかった。心の中でガッツポーズを決めた。これは恋だと思った。そして、クラスをキャンセルしてくれた先生に心から感謝した。

その時話した内容は本当に他愛も無いことで、久しぶり〜、新しいクラス慣れた?勉強大変?頑張ってね!ぐらいの事だったのだけれど、もう何年も経っているのに唐突に思い出しては心躍らせている。ときめきと言うやつです。別れ際にしてくれた握手の感触も今だに覚えている気がする。凄く強く、ギュっと握られた。

ちなみに、彼は所謂イケメンでは無かったですし、ご結婚もされていて、お子さんもいらっしゃいます。どこに恋したのかと言われると、さぁ?って感じなのです。強いて言うなら、ユーモアかしら。でも、決して若く無く、髪も少なく、マッチョでも無い、その感じも好きだったかもしれない。恋している状態は頭が悪くなっているので、今となっては思い出せませんが。

あれから、私は病気が見つかってカレッジを中退し帰国して治療しながら働き始めて早数年。年齢だけはいい大人になってしまって、心だけあの2年間に取り残されたままです。大変な事も本当に沢山あったけど、輝いていたし、何より毎日が充実していたのです。事あるごとに、帰りたい…と、現実逃避しています。日々の充実もときめきも取り戻したい。まずは何か勉強を始めよう。カラーコーディネーターとかどうだろう。若しくは三日坊主を繰り返し続けている文章を書こう。アウトラインだけの物語が沢山眠っている。そして、ときめきを見つけよう。取り戻そう。それは恋である必要はなくて、それがあるだけで胸が躍るような何か。Timotheeにもっと夢中になってみよう。ネイルをもっと凝ってみよう。


うとうとしてたら、唐突にパトリックの事を思い出したので。うわぁー!っと書いてみた。結局はあの頃に戻りたくて、今の現実がつまらない。と言う事。

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