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『くれないの言』ー山県昌景ー(『決戦!設楽原 武田軍vs.織田・徳川軍』より)

『決戦!設楽原 武田軍vs.織田・徳川軍』

歴史小説作家が一堂に介し、一つのテーマ(合戦、事件など)を題材にして描く連作短編集、『決戦!』シリーズ最新作。


ブログでは、本全体と、各短編についての感想をUPした。

ただ、UPした後、短編ごとについて、もう少し感想書きたいなあ、という思いがあり、noteで短編ごとの感想を書いていく。

続いては、この単行本の短編の中で、最も泣ける作品。

執筆は武川佑さん。

デビュー作・『虎の牙』で独特の世界観を提示し、今話題の歴史小説作家だ。


『虎の牙』では

自然と知性

兄弟愛

友情

運命への足掻き

宿命のライバル


などなど、泣ける要素てんこ盛りの世界観だったのだが、こちらでも涙腺緩んでしまう、熱い人物描写がたまらない。


主人公・山県昌景には、亡き信玄の声が聞こえる(というか会話してる・・・)、という不思議な設定が堂々と物語の核になっているにも関わらず、くどさも違和感もない。

むしろ、それがあることで、今の主君・勝頼との距離の取り方に苦悩する姿に説得力が生まれてくる。


信玄を信奉していたが故に勝頼を軽んじていたのではない。

勝頼を"屋形"として認めていたからこそ、信玄と"別れ"なければならない。


信玄と勝頼、二人の主君への思いに揺れながら、己の生を全うしていく昌景の漢ぶりには、思わず応援してしまうこと間違いなし。

『落梅の賦』で描かれなかった、武川版・設楽原の戦いを読みたい方にとっても必読の一作だ。


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