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まほろばはずっと心の中にある

音もなく
夕べから降り積もった雪が
南天の赤い実を隠している

立ち込める灰色の雲は
まるで
朝が永遠にこないようにと
遮っているみたい


今、楽しいですか?


手に握られた学級通信「まほろば」

中学3年のときの担任の写真が
笑いかけてくる
中学校時代
毎日出された学級通信は
思春期のでこぼこした心を
少しだけ平らに近づけてくれた

「まほろば」は
素晴らしい場所
住みやすい環境のことだと
そのときに知った

あれから5年

成人式で
担任の先生から手渡されたのは
まほろば最新号

はっとした

先生の写真の隣りには
私たちの卒業式に写した
全員の集合写真

満面の笑顔で写る私
あの頃
怖いものは何もなかった
自分の未来に想いを馳せては
眩しさに目を細めた

今、楽しいですか?


5年前の私が
無邪気に語りかけてくる
あの頃の私が見ていたのは
遠い明日ばかり
今の私が見ているのは
足元の砂利道ばかり

ハタチ

特別な意味をもつ年齢

20歳のつどいで
夢を叶えた友だちが
きらきらと話す様子に
私は視線を落とした

私は何をしているの?


友達と自分を比べて
その場から逃げ出したくなった


合唱コンクールで歌った
「初心のうた」覚えていますか?
学級通信の文字が目に入る
ああ
覚えている

どこをとおろうと
ほしをみあげ
ひとつひとつまきなおそう
まちやむらではぐるまを
かくれたかぎをさがしあて
夢を動かす歯車を

初心のうた より一部抜粋

この歌詞が好きだった
何処にいても星は見える
歯車は
いつでも巻き直せる
夢を動かす歯車の鍵は
きっと見つかる

今、幸せですか?

「みんなが元気でいてくれればなんでもいい。いろいろな道があるし、ゴールはひとつじゃない。今、みんなが確かにここにいて、それは一歩一歩ちゃんと歩いてきたからで。だから今のところ思ったとおりに歩めていないと感じている人も
胸をはって。ちゃんと二十歳になった自分を祝ってあげて。」

読み終えて顔を上げる
学級通信の懐かしい言葉は
二十歳の憂える心に
少しだけ光を与えた

幸せになるよ
私が私を幸せにするよ


5年後
また会おうと友だちと約束した
そのとき私は
きらきらと
自分を語れるように
きっとなる

「まほろば」の言葉を胸に
今日からまたはじめの一歩が始まる


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