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三日月の夜はあたらしい靴で旅をする


西日を受けて
ひらひらと栴檀(せんだん)の葉が舞っている
赤い実が揺れる
徐々に街に灯りがともり始めた

三日月がうっすらと空を飾る

美しい言葉たちに逢いたい
どきっとするような
単語の結びつきに出逢いたい

日々の喧騒が
感覚を鈍らせている

言葉に触れたい
感覚をくすぐる言葉に出逢いたい

そんなときは
詩の中を旅する

名詞 動詞 形容詞
     感動詞 疑問詞

熊はもう眠りました
栗鼠もうつらうつら
土も樹木も
大きな休息に入りました
ふっと思い出したように
声のない子守唄 それは粉雪ぼたん雪

「十二月のうた」より抜粋

茨木のりこの
ふわりと重い言葉たち
心にさざ波がおきる
声のない子守唄に耳を傾ける

きょうがもう帰ってこないために
きょうが地球の上にもうなくなり
ほかの無くなった日にまぎれこんで
なんでもない日になっていくからだ
茫々何千年の歳月に連れ込まれるのだ

「きょうという日」より抜粋

室生犀星の
洋々とした世界に引き込まれる
ちっぽけで二度とかえらぬ
きょうという日を噛みしめる

言葉
言葉
言葉たち

詩の中の
思いがけない言葉同士の出逢い
想像もつかない結びつきが
私を励ましている

どこかであたらしい山がゆっくり起きあがったような、、、
どこかであたらしい川がひとすじ流れだしたような、、、(中略)
とこかであたらしい歌がうたわれようとして世界のくちびるから「あ」と洩れかかったような、、、

「元旦」より抜粋

新川和江の新鮮な声が聞こえる
「あ」
私のくちびるからも洩れだす声

石垣りんが
「世界中どこにいても太陽のほとり」
と希望の光を灯している
そうだ
私は太陽のほとりにいる

そして

万有引力とは
引き合う孤独のちからである
宇宙はひずんでいる
(中略)
宇宙はどんどん膨らんでいく
それゆえみんなはふあんである

「二十億光年の孤独」より抜粋

ああ
谷川俊太郎のいうように
人はみんな孤独だ
だから
互いを求め
互いに刺激し合い
互いに支え合う

二十億光年の孤独の深さに戦慄する
それゆえに
ときに人は
涙が止まらなくなるのだ


あたらしい靴を買おう
言葉に逢いに行こう
あたらしい黄色の靴は
三日月に似ている

詩の中に溢れる言葉たち
新しい靴を買おう
人の心に触れるように 
言葉の世界を旅しよう

名詞 動詞 形容詞
    感動詞 疑問詞

優しい修飾語で心を満たそう
躍動する述語で駆け回ろう
主語はいらない
ときに
誰でもない自分を楽しむのだ

あたらしい靴を買おう
三日月のような靴を買おう
まだ見ぬ世界を旅するように
美しい言葉はこの世に溢れている

言葉言葉言葉に飢えて旅をする
   あたらしき靴三日月の如し

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