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地下鉄に揺られて記憶を旅する

初夏の太陽が眩しい朝に
久しぶりに地下鉄に乗りました。

ガタンゴトンと
大勢の人を乗せて
走り始める車両。

連休の地下鉄は
子ども連れが多く見られます。

目の前の席に座った親子連れは
動物園にでも行くのでしょうか。
好きな動物の話で
盛り上がっています。

お姉ちゃんは
ペンギンが見たいようです。
絶対にベンガルトラが見たい!
そう目を煌めかせるのは弟です。
年の頃は
3、4歳くらいに見えます。
真ん中に座ったお母さんは
2人の顔を交互に
優しく見ています。


私はきりんかな
心の中でそっと呟きます。


私はきりんが見たかった。

幼い頃の私が
泣いて駄々をこねています。


動物園の帰りの電車。
楽しみにしていたきりんは
いなかった。

私の家には
車がありませんでした。
手軽に行ける小さな動物園には
きりんはいません。

私はきりんが見たかったのに。

友だちは
車できりんのいる動物園まで
連れて行ってもらっているのに。

泣き止まない私。
怒ったような表情の母。
おろおろする父。

後日
父は小さなきりんのぬいぐるみを買って帰ってきました。
あのぬいぐるみは
何処に
いってしまったのでしょう。

この親子連れの向かう動物園には
きりんがいるといいな。
そんな勝手な想いにとらわれます。

ガタゴトと
地下鉄は揺れます。

私は今
何処に向かっているのかしら。
そんな
不思議な感覚にとらわれます。
この地下鉄は
もしかしたら
私を夢の国に連れて行ってくれるのかもしれない。

あれ?
私の夢は何だったの。

最近、目的地を見失っている気がします。
自分自身の目的地がわからなかったら、神様だって困ってしまうに違いありません。

ガタゴトと
地下鉄は走り続けます。

揺られながら
私は夢を見ました。
きりんの背に乗って
広い草原を駆け回ります。

見晴らしがよく
遠くまで見渡すことができます。

うつらうつらと
風に吹かれて駆け回ります。

きりんが見たかった。
きりんが見たかった。
幼い私の声が聞こえる。

気づくと
親子連れはいなくなっていました。
入れ替わり乗ってきた老夫婦。
彼らは何処に行くのでしょうか。

それぞれの目的地。
それぞれの過ごし方。
それぞれの人生。

私は私のきりんを見つけたい。

地下鉄に揺られながら
記憶の中を旅しています。

まもなく
私の目的地が近づいてきます。



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