見出し画像

京極夏彦『鵼の碑』を再読した感想と考察【ネタバレあり】

9月半ばに出た京極夏彦『鵼の碑』を再読した。
なぜなら一読しただけでは面白さがよく理解できなかったからだ。

※『鵼の碑』ってなに?という方はコチラ↓

『鵼の碑』は発売日に購入し、その週末3連休を丸々つかって読破した。
ずっと楽しみにしていたシリーズ17年ぶりの新作である。連休を良いことに食事と睡眠以外の時間をほぼ読書に費やしたと言ってもよい。
まさに読み倒したと言うに相応しい。
なんせノベルスで800ページ。大作である。

恒例の鈍器本


3連休最終夜にしてようやく読み終えた。
果たしてその感想は…

「うーん…なんだかなぁ…」 


いやそんな訳ない。
17年待った結果が「うーん」な訳がない。
著者のデビュー30周年記念作でもある。
それが「なんだかなぁ」な訳がない!
私の読解力が伴わないだけ!なはず!!!


ということで、読了から1ヶ月以上経ち、改めて『鵼の碑』を読み返すことにした。
今度は一気読みをせず、およそ2週間に渡って少しずつ少しずつ読み進めていった。

やはり2度目ということで理解もしやすかったし、1度目では気づかなかった新たな発見もあった。
1度目の読了後、ネットで皆の考察を読んで参考にしたことも理解を深めるのに役立った。


ーー【ここからネタバレあり】ーー


再読してようやく理解できた。
なぜ1回目で微妙な感想を持ったのかも含めて。


いきなり身も蓋もないことを言うが、今回は結果的に何も大きな事件なんか起こっていない。
20年前の遺体の紛失事件にまつわるゴタゴタはあったとはいえ、作中の時代には殺人はおろか誰も怪我すらしない。あったのは失踪くらい。



今回は大まかに5組、それぞれが抱える謎を追いかけている人達がいる。

①久住&関口(登和子による父親殺しの告白)
②御厨&益田(寒川の行方と安否)
③長門&近藤→木場(20年前の遺体紛失事件)
④寒川→築山(隠蔽された原爆開発計画)
⑤緑川(大叔父の晩年の生き様)

それぞれが自分の抱える謎を追いかけている内に、どうやら日光の山奥にある通称「化け物屋敷」に全ての謎が行き着くことになる。


ここまではまるでシリーズ1番の大作『塗仏の宴』のようであり、今回はどのように決着を付けるのかとワクワクしていた。

謎を追っている皆の情報を総合すると、20年前に山奥の屋敷で密かに原爆を作っていたのでは…?ということになり皆で化け物屋敷へと乗り込み、そこで京極堂によりその謎がいよいよ解明されていく…

その結論はなんと!


「そんな事実はなかったよ」


……
……はぁ?

17年…17年待ってこれ?
大肩透かしもいいところじゃないの

終盤まで来て「なかなか京極堂の憑物落としのシーンが来ないな、もう残りページ少ないんだけどな…」となんとなく嫌な予感がしていたが残念ながら杞憂とはならなかった。

もちろん憑物落としのシーンはあったし、それなりに真相解明の驚きはあるといえばあるけれど、今までのシリーズと比べるとやけにアッサリしているしカタルシスは感じられない。

何も事件が起こっていないがために、隠された真犯人を暴き出すとか、真犯人が憑物落としによって改悛するというお約束がないからだろうか?


もちろん言いたいことは分かる。

お互いに関係のない事実を繋ぎ合わせても精々が陰謀論にしかならないよね、それって実体がないヌエと同じだよね、って感じだろうか。
今回も京極堂の洞察力と謎解きはいつも通り見事なものでしたよ。


それにしてもさ
それにしてもだ

17年という時間が期待感をMAXまで高めてしまったのは否めない。

これが前作『邪魅の雫』の3年後くらいに出ていたら「あ、こういう変化球もあるのね」くらいで済んでいたとは思う。

(一説には東日本大震災が起こったため原子力に触れている本書をほとぼりが冷めるまで出さなかったのでは、とも言われているがホントかね)


そんな中でも印象に残ったのは、緑川佳乃が再登場を期待したいほどの良いキャラだったことと、「蠍」とも形容された冷徹な男である公安・郷嶋のある意味可愛い一面が見られたことか。


そして再読して気になった点がいくつかある。

最初読んだ時に最も意味が分からなかったのが、ラストの桐山寛作・笹村兄妹vs京極堂達との対峙するシーン、クライマックスである。

そこでやたら京極堂は笹村兄妹の先祖のことや来歴を語っている。正直本筋にはそれほど重要とは思えないことなのに笹村の祖父やらその嫁やらさらにその養父などを具体的な名前にまで触れて語るのである。


「そんな人どこかに出てきたっけ?」と読みながらずっと考えていたが全然分からなかった。
クライマックスで今まで出てきていない人の話をされてもなぁとモヤモヤしたまま読み終えてしまった。


読了後にネットを見て自己解決したのだが、どうやら笹村兄妹は京極夏彦の別作品シリーズ『巷説百物語シリーズ』に出てくる人たちの子孫という設定らしい。

それを踏まえて『巷説〜』に出てくる先祖たちが使っていた不思議なワザ(?)をその子孫も使っているのではないか…京極ファンなら分かるよね、フフン、みたいな。

「いや知らんがな!!!」


巷説百物語シリーズはかろうじて最初の1冊だけは読んだのだが、時代設定が江戸時代なので昔過ぎて後には続かなかった。しかも読んだのは発売当時、20年も前である。ハマらなかったから当然再読もしていない。


もちろん『巷説百物語シリーズ』を全作読んでいる“良い読者”なら

「おぉー!まさかあの人の子孫が登場とは!」 「苗字が同じだけどやっぱりそうなのか!」

みたいな驚きや感動もあるのでしょうが、私には十分楽しむだけの素養が足りなかったのだ…
本当に残念である。


一応本書ではその先祖も使っていたワザ(化け物遣い)を笹村兄妹も使っていたのかどうかははっきりとは明かされていない。

笹村市雄は「もう通用する時代じゃない」と言うが、いくつかそれを示唆するシーンはある。

例えば笹村市雄と知り合った経緯を誰もはっきりとは覚えていないこと、木場が市雄とすれ違った時に目眩を起こして後を追えなかったこと、寒川や築山が笹村と遭った後に陰謀論に惑わされてしまったこととか。
妹の倫子は登和子の記憶違いのきっかけにはなっているが、その妄想の内容にまで関わっていたのかまでは判らない。


仮に彼らがワザを使って他人を惑わしたとしてもそこまでした理由がわからない。
「こちらのやり方では救えなかった」とは言っているけれど、結果的にみんな一時的にでも心を病んでいる。
築山は京極堂に、登和子は木場にそれぞれ助けてもらってはいるが寒川はそのまま山に入り失踪してしまった。 

結局笹村兄妹は何をしたかったのかが判らない。両親の死の真相を知りたいから寒川を協力者にしたのは解る。益田や郷嶋や木場など東京から来て屋敷や寛作を調べている余所者をマークしてきたのも解る。
(ちなみに益田を尾行していた女は倫子だろうがはっきりと言及されていない。そこは対峙するシーンで明示して欲しかった)

だけど笹村兄妹揃ってこそこそと動いているし、母方の祖父である寛作にも初対面のふりをしてもらっていたりとやはり胡散臭い。

最後に笹村兄妹は寛作と共に姿を消すのだが、今後も山で暮らす寛作はともかく兄妹二人は20年も前に山を降りて社会に出て生活しているのになぜ逃げるように消えたのか。化け物遣いの子孫だと知られたからだろうか?
社会に馴染もうとしたけれどやっぱり今後は化け物遣いの子孫として生きていく決断をしたということでいいのだろうか。

今後もストーリーにある意味ライバル的に関わってくるのならこのオチもまだ分かるかな。



もう一つ不思議に思ったのが、寒川が光る碑の所で緑川猪四郎のメモを見つけたと築山に語ったところ。

まず誰がいつ置いた(落とした)のか?
これについては全く明かされていない。

緑川猪四郎がその1枚だけ持って行くはずがないしそもそもそこの場所には行っていないだろう。

そこから転落した寒川の父でもないだろう。
道案内をした寛作でもないだろう。
現場検証をした警察でもないだろう。


では誰が。

私が考えるに、メモを置いたのは寒川と一緒にそこに行った笹村市雄なのではないだろうか。


初対面の振りをした寛作に寒川と一緒に碑へと案内してもらった際に診療所から1枚抜き取っておいたメモを見つかるようにこっそり置いたのかなぁ…
それとも催眠術みたいなもので寒川にそこで拾わせたと思い込ませたのかなぁ…違うかなぁ…

何のために?

先祖の化け物遣いの作法に則って寒川を追い込んだ…のかな…結果的に寒川は陰謀論にハマってしまったのだが。 
市雄は上手くいかなかった、助けてやれなかったとは言っているけれど、内心思い通りにハメてやったと思っているのかなぁ…やっぱりなんでそんなことをしたのか理由はわかんないけど。


結局京極堂が語った笹村兄妹の話も本人から聞いたことをそのまま伝えただけなので、笹村兄妹が嘘を言っていた可能性もあるしそれは京極堂も示唆している。

真実は藪の中。

正体を掴もうとしても出来上がるのは実体のないヌエばかり…ということか。


なんだかんだと書いたけれど、所詮は素人考えの読書感想文なので間違っていることも多いとは思います。気を悪くされた方がいらっしゃるならご容赦ください。

ここでは不満しか書いてないようだけど、変わらず百鬼夜行シリーズは大好きだし本書も別に悪くないですよ。読んで損したとかは全然ないです。
再読も考察も含めてたっぷり1ヶ月は楽しめたから読んで良かったです!(本気で)

次回作の『幽谷響の家(やまびこのいえ)』も超楽しみにしています!
できれば数年後にお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?