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『人間の建設』No.50「近代数学と情緒」 №1〈三つの数学〉

小林 岡さんの数学は幾何学でなくて、何学というのですか。
岡 解析学、アナリシスというのです。数学は大きく分けて幾何学と代数学と解析学とあります。
小林 解析学はいつごろから始まった学問ですか。
岡 解析学が一番古いのです。
小林 アナリシスというのはどういう概念なんですか。
岡 アナリシスというのは分析するという意味ですね。主体になっているものは函数かんすうでして、函数というのは、二つの数の間の関係をいうのです……。

小林秀雄・岡潔著『人間の建設』

 本書では「函数」表記していますが、私の場合をいえば学校で「関数」と習ったと記憶しています。実は、両方の表記が流通しており、片方の表記が誤りというわけではないようです。

 過去から「どっちやねん論争」もあったようですが、ここでは本書に従い「函数」と記させていただきます。それで、数学には三つあって「幾何学」「代数学」「解析学」なんですね。

 古代ギリシャのピタゴラスの幾何学が最も古くからあったように私はイメージしていましたが、正解は「解析学」だと。函数とは二つの数の関係を言い、学校で習いました。よくは覚えていませんが……(あれ?)。

岡 ……昔、エジプトあたりで作地の面積を測ったりする時に、たとえば三角法が使われた。直角三角形の角と二辺の比、それを角の函数といって、サイン函数とかコサイン函数とかいいますね。そういうものが考えられていた。二数の関係はエジプトですでに考えられていました。そのいろいろな函数を広めていったものが解析学という学問なのです。

 ああ、そうかエジプトが出てきた。私は、ピラミッドの高さをどうやって測るのかというクイズめかした問題があたまにまっさきに浮かびました。何となく幾何学の問題かなと思っていたのですが、解析学でしたか。

 未知の数値を割り出すために、既知の数値を利用する。そのために二数の関係を調べる。そんなことが発端となったわけでしょうか。岡さんが作地面積を求めるため、とおっしゃっています。

 為政者の必要から知る必要があったのでしょうね。たとえば平等に土地を割り振るとか、恩賞に応じて土地を与えるとか。もちろんピラミッドの高さを知りたかったという、わがままな話もあったかもしれません。

岡 ……二数の関係で、一数を変数と呼び、独立変数といいますが、そのXが決まればYも決まる。Xを先に決めると、Yが決まるというとき、YはXの函数だというのです。函数というのは、ファンクション、つまり機能という言葉なのですが、それをハコとカズという漢字を書いて函数と訳したのはたぶんソロバンのことを函数と思ったのでしょう。

 このあたりは岡さんの専門分野なので、岡さんが喋り小林さんは聞き役です。小林さんは該博ですし対談のために勉強もされたでしょう。ここでは、読者のために岡さんの講義を聴く機会をおつくりになったと解釈します。

 上のお話を数式で表現すると、y=f(x)でしたね。ちょっと思いだしてきました。「函数」の語源的なことも仰っています。ソロバンが起源だと。対談のあった60年代は小学校でソロバンの時間がありました!

〈三つの数学〉と私は標題に書きました。幾何学、代数学、解析学。小学校で算数から習いだして、中学・高校の数学。その後理系へ進んだ私は大学も合わせると、6+3+3+4=実に16年間も関わりましたか(人ごとかい!)。


ーーつづく――

※最初の引用部分に当初記述の誤りがあり失礼しました。本日(6/6)修正しました。

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