不逢 言哉

不逢 言哉

最近の記事

常用漢字完全パングラムプロジェクト①

はじめに パングラム、もしくは完全パングラムというものをご存じだろうか。パングラムとは、ある言語の文字をすべて使う言葉遊びであり、そのパングラムの中で、すべての文字が一度ずつしか使用されない(文字の重複がない)ものを完全パングラムという。 どんなジャンルでも先行研究へのリスペクトは重要であるので、まずは主要なパングラムの例を見ていこう。 ローマ字のパングラム ローマ字のパングラムで最も有名なものは、 The quick brown fox jumps over the

    • 文学研究と時限爆弾

      大学時代、特に印象に残っている講義がある。一般教養の英語の講義だったのだが、なぜかその日は村上春樹の短編「パン屋再襲撃」の英訳と原文が掲載されたレジュメが配られ、 と先生は言ったのである。(手元に文春文庫をお持ちの人はP17の9行目からP26の6行目までを読んで考えてみてほしい) 私は書かれた文を読み、 こんなような答えをレジュメの端にメモした。 その後、その先生は、「この問題を『国語』の問題を捉えた場合の答えはこうです。」と言って、おおよそ私がメモしたのと似たような

      • 日本文学を定義して字数を稼いで部分点もらう

        邦楽の通史に関する書籍が少し話題となっているが、そのような論考や情報を発信する際に重要になるのは「定義」である。定義とは、「この本において、『邦楽』とはここからここまでを指す言葉として使いますよ」みたいなことである。言い訳っぽくも聞こえるが侮れない。筆者が思い描いている「邦楽」と読者全員が思い描いている「邦楽」が一致するほうが奇跡なのだから。受験数学を経験した人間なら「定義」がいかに重要か知っていよう。かく言う私も変数xの定義を書き忘れて、ごっそり点数を引かれた人間である。

        • エーミールは許さないし、兵十は引き金を引く

          今回は、国語という教科の「読む」という領域について考えていこうと思う。 「読むこと」は、細分化すると「語彙・文法」「論理(文脈)」「語り」の3つと「常識」。この4つに分けられるのではないだろうか。例えば、次のような文があったとしよう。 「語彙・文法」とは、この文に出てくる「試合」「負ける」「涙」「流す」それぞれの辞書的な意味や、「私は」が主語で・・・、といった日本語のルールのことで、それらを理解し、この文に当てはめることが「読むこと」に求められる。 「論理(文脈)」とは

        常用漢字完全パングラムプロジェクト①

          美しい徒労-英訳版「雪国」再翻訳を通した言語考察

          大学4年生の頃、友達とアメリカ旅行に行った際に、ポートランドの本屋で「雪国」の英訳版(E.G.Seidensticker訳)を買った。それ以降約5年ほどずっと積まれていたのだが、ようやく読もうという気になり、そしてそこから2週間ほどかかって先日ようやく読み終えた。さすがに英訳版のみでは心許なく、日本語版、つまり原文「雪国」(新潮文庫)とも照らし合わせながら読むことにした。当初は英語だけでは理解できなかった文を確認する、程度の使い方を想定していたが、いつしか読んだ英語を自分なり

          美しい徒労-英訳版「雪国」再翻訳を通した言語考察

          BAD COMMUNICATION

          土砂降りの国道沿いの歩道。 ポツンと佇む電話ボックス。 男A、その電話ボックスの中で受話器に手をかける。 男B、その電話ボックスに入ってくる。 A「ちょっとちょっと、何入ってきてるんですか!」 B「すみません追われてるんです」 A「追われてる? 誰に?」 B「何でそんなこと初対面の相手に言わなきゃいけないんですか」 A「いや、この状況下で私を"ただの初対面の相手"にカテゴリしないでくださいよ」 B「え、どこかで会ったことありましたっけ。すみません記憶力悪くて」 A「い

          BAD COMMUNICATION

          走れメロスたち

          私は困っていた。 「いや、多すぎるんだよな!!人数がッ!!」 教員生活3年目にして初の大仕事が回ってきた。演劇の脚本である。 私が勤める紅北市立湖北小学校の3学期一大イベント「紅北市立湖北小学校文化的祭典」通称「コホコホ祭」。いわゆる学芸会で、各学年が演劇に取り組み、それを保護者の前で発表するという行事である。私の担当している3年生の演目は「走れメロス」と伝えられた。 「君、大学時代文学部だったんだってね? 脚本・・・頼んでいいかな?」 もともと演劇が好きな私は二つ返事で引

          走れメロスたち

          新釈・ぶんぶく茶釜

          「うちの大学の学祭って行ったことある?」 昔むかし、とある大学に寺山ショウという名前の男がおりました。 「まだ行ったことないんですよ。去年は自分たちの学祭で模擬店出してたから忙しくて。それに、違う大学の学祭って、知り合いがいないと行きにくくないですか?」 彼は、サークルの友人に誘われた合コンで、一人の女性と出会いました。 「本当? 全然、俺でよければいつでも案内するよ。」 名前は鎌田マミ。白いブラウスに膝下丈・グレーチェックのジャンパースカート。髪はセミロングを緩く巻

          新釈・ぶんぶく茶釜

          いい子でいてね

          月が替わり、冷蔵庫横のカレンダーをめくる。今年もとうとう最後の1枚だ。諏訪佐和子はカレンダーに描かれたサンタクロースのイラストと目を合わせ、不安げに溜息をもらした。 佐和子の息子、諏訪翔太は今年で小学6年生になるが、今まで1度もサンタクロースからプレゼントを貰えたことがないのだ。今年は果たして貰えるのだろうか…。 最初に佐和子が違和感を覚えたのは翔太が4歳のときだ。女手ひとつで幼稚園入園まで育ててきた佐和子は、「子どもはクリスマスにプレゼントをもらうものだ」というのをそれ

          いい子でいてね

          模範的な生活

          「生徒手帳」とは主に身分証明に使われるものであるが、ひとたび開いてみれば実にさまざまなことが記されている。校歌・応援歌の歌詞、校訓、年中行事、緊急連絡先、そして何よりそれぞれの学校におけるきまり、すなわち「校則」が、大抵どこの学校のものであっても記されていることだろう。 君たちは自身が普段携帯している「生徒手帳」を最初から最後まできちんと目を通しただろうか?私は道行く学生たち全員に問いたい。 「この高校、校則が緩いから選んだんだよね」と言っているコギャルも、「貴校の校訓に感銘

          模範的な生活

          距離感

          ―あの、どちら様ですか?勝手に人の家あがられてますけど。警察呼びますよ? ―神? Godってことですか? ―a god? 何で私が言ったGodに勝手に不定冠詞つけるんですか、多神教なんですか、そんな唯一神みたいなイキリ方して。というかそもそも神が私に何の用なんですか? ―権利侵害?私が神権を犯したっていうんですか?こんなに慎ましく暮らしているの、見たらわかるでしょう? ―仕事? 大学の研究者ですけど。 ―生体工学…まあ、そうですね。生物模倣(バイオミメティクス)とい

          この話を書くことは私を満足させるか。

          「どう、Gパン履くのも慣れた?」 ー松浦亜弥みたいな会話の入り方すんなや 「いや、この前さ、飲み屋街歩いてたらさ、めっちゃ中学生いて、」 ーえ、何?修学旅行か何か? 「あ、数じゃなくて、『めっちゃ中学生だなあ』って人がいて、」 ーああ、「まさに」ってこと? 「そうそう。それで、その人に話しかけられたんだよね。『お兄さん、居酒屋どうですか?』」 ーえ、キャッチ?その人中学生じゃなかったんだ。 「そう、そのことは俺にとって即座に返事するにはあまりに驚かせ過ぎたよね。」 ーああ、「

          この話を書くことは私を満足させるか。

          「答え合わせはまた明日」の答え合わせ

          「答え合わせはまた明日」 (https://note.com/absent719/n/nb189529b32c4/2020年1月2日20:58投稿)は下記の実験の下書かれたものである。 ✳︎✳︎✳︎ 【実験テーマ】 小説を書く際、直前に読んだ本に影響を受けるのか 【実験の流れ】 1. 提示された本を読む 2. 読み終わったタイミングで、何の本を読んだか知らない第3者から創作テーマを提示してもらう 3. 一旦読んだ本のことからは離れて、提示されたテーマに沿って小説を書く

          「答え合わせはまた明日」の答え合わせ

          答え合わせはまた明日

          先ほどまで同じ電車で時間を共に過ごしていた老若男女が、乗り換えのために、跨線橋の階段を一斉に駆け上がっている。無事に我々を送り届けた車両、そしてこれから定刻の出発を待つ乗り換え先の車両は、人間がこうも必死になって走っている様を見てどう思っているのだろう、といつも僕は考えてしまう。自分たち電車は人間から頼まれた通り、オンタイムで走っているだけなのに、そのシステムに人間たちがまんまと飼いならされている様子はさぞ滑稽に映っていることだろう。それとも有機生命体の謎の連帯感に対して、逆

          答え合わせはまた明日

          駄文はひとまず冷蔵庫へ

          朝起きて温かいお茶が飲みたくなったので戸棚から粉茶を出した。ジップロックを開けると、粉茶は本来の黄緑色など見る影もなく、茶色くて酸っぱい匂いの漂う粉と化していた。どうやら腐らせたらしい。粉茶は永久に腐らないと思っていた。これだけの量を朝っぱらからゴミ袋に捨てる罪悪感の重みにどうにも耐えられず、とりあえず冷蔵庫に入れた。冷蔵庫に入れれば腐った食べ物も元通りになるような気がしたからだ。そして水道水で我慢することにした。このグラス、普段水道水を飲むのにしか使わないから洗うタイミング

          駄文はひとまず冷蔵庫へ

          ウーロン茶のロン!

          「ねえ、スピッツの曲でさ、主人公がコウモリになって彼女を攫う曲って何だっけ?」 『スパイダー?』 「それは蜘蛛でしょ」 『え、コウモリ…。あ、涙がキラリ☆? あれはー、主人公ふつうに人間でしょ』 「え、どんな曲か歌ってみてよ」 『同じなーみーだがキラリ』 「いや、話の流れ的に歌うならコウモリのところでしょ」 『目覚めてすぐのコウモリが飛びはじめる夕暮れに/バレないように連れ出すから カギは開けておいてよ』 「おお~」 『いや、おお~じゃねえよ。ほら、コウモリはただの時間帯を表

          ウーロン茶のロン!