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<孤立><孤独><寂しさ>の違い

アカデミーヒルズでは、哲学者の谷川嘉浩さんと、企業研修に長年携わってこられた福澤英弘さんの対談イベントを開催しました。

本の読み方から始まり、谷川さんの著書『スマホ時代の哲学』の内容を中心に、福澤さんの趣味である能のお話など、様々なトピックスで盛り上がりました。その中で一番印象的だったのは、ハンナ・アーレントの哲学に基づいた孤立・孤独・寂しさの捉え方でした。

詳しいことは、谷川さんの著書の第3章「常時接続で失われた<孤独>」で紹介されていますが、つまみ食い的に紹介すると以下になります。

アーレントは、「一人であること」を三つの様式に分けています。それが<孤立 (isolation)>、<孤独 (solitude)>、<寂しさ (loneliness)>です。
(中略)
他の人とのつながりが絶たれた状態を<孤立>と呼びました。言い換えると、<孤立>は、何らかのことを成し遂げるために必要な、誰にも邪魔をされずにいる状態を指しています。
(中略)
それに対して<孤独>は「沈黙の内に自らとともにあるという存在のあり方」だと説明されます。(中略)<孤独>とは、私が自分自身と過ごしながら、「自分に起こるすべてのことについて、自らと対話する」という「思考」を実現するものなのです。
(中略)
<寂しさ>とは、いろいろな人に囲まれているはずなのに、自分はたった一人だと感じていて、そんな自分を抱えきれずに他者を依存的に求めてしまう状態です。

『スマホ時代の哲学』(2022, 谷川嘉浩, p. 121-123)
太文字は筆者追記

<孤立>の捉え方は、私たちが通常イメージしている意味合いよりもポジティブな解釈になっていると思います。その点は谷川さんも著書の注釈にて、孤立のネガティブな捉え方について説明されています。
ポジティブな捉え方を前提にして谷川さんは、「常時接続が可能になったスマホ時代において、<孤立>することが難しくなり、その結果<孤独>も奪われてしまう。そして、<寂しさ>から逃れるためにスマホは好都合で、スマホから多くの刺激を少しずつ受けるが、ふと振返ってみると虚しさが襲ってきて、一段と<寂しさ>が増す」と説明されていると思います。
私もそうですが、皆さんも、スマホで誰かと繋がったつもりになった後に、ふと我に返って、寂しさが増したという経験があるのではないでしょうか。

この第3章には、「ちゃんと傷つくための孤独」(p. 125)、「自分の情緒を押し殺さないために」(p. 128)、「うれしい経験をしたときにも孤独は必要」(p. 131)、「スマホは感情理解を鈍らせる」(p. 137)などの章立てがあり、スマホ時代だからこそ必要な孤独について、谷川さんの考えが著されています。

ところで、感情は生き物が生きていくために身につけた機能で、重要な役割を担っていると言われます。
自分自身の感情を知ることは健康にも影響します。『健康になる技術大全』の著者の林英恵さんが、アカデミーヒルズで開催した講座で説明されていました。
そういう意味では、自分の情緒を押し殺したり、感情理解が鈍くなることは心身において問題となりますね。


ところで、今回の対談イベントを皮切りに、福澤英弘さんにファシリテーターを務めていただく『スマホ時代の哲学』の読書体験会を3回シリーズで開催します。


【第1回】(2023年10月18日)
テーマ:スマホ時代の課題を哲学の視点で考えるとは?
必読パート:『スマホ時代の哲学』第1~2章

【第2回】(2023年11月13日)
テーマ:失われた孤独、モヤモヤを抱えるネガティヴ・ケイパビリティのすすめ
必読パート:『スマホ時代の哲学』第3~4章

【第3回】(2023年12月8日)
テーマ:自己啓発や忙しさで不安を紛らわす危うさ
必読パート:『スマホ時代の哲学』第5~6章


読書体験会は通常の読書会とは異なり、参加者同士が本から触発された考えや経験談を対話・交換することで、情報を新たな「体験」に変え、それによりものの見方や価値観を広げていくことを目指します。
詳細は、下記の記事をお読みください。2022年に福澤さんが、著書『人の顔した組織』をもとに開催した読書体験会のお話です。

最後に、以前も私が『スマホ時代の哲学』を読んで触発されて書いた記事を紹介します。
何度読んでも、その時の自分の状態によって刺さる部分が違い、読めば読むほど味わいが深まる、スルメのような本です!

アカデミーヒルズ 熊田ふみ子

#アカデミーヒルズ #スマホ時代の哲学 #谷川嘉浩 #福澤英弘 #ハンナ・アーレント #孤独 #感情

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