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「睡眠改善=すべての人たちが求めているサービス」に携わるやりがい。Sleep Compass開発秘話

株式会社ACCELStars(アクセルスターズ)は2023年5月に、法人向け睡眠健康測定サービス「Sleep Compass (スリープコンパス)」の提供を開始することを発表しました。「Sleep Compass」の開発において、大きな活躍をしたのがSleep Compassグループの事業責任者の飯田悠祐とプロダクトマネージャーのY*、プロダクトデザイナーの片桐進太郎です。今回はこの3人にプロダクト開発にまつわるエピソードを聞きました。

*…Yさんは記名や顔出しナシでのご登場となります。

「Sleep Compass」は三方良しのビジネス

――「Sleep Compass」のプロダクト概要について教えてください。

飯田:「Sleep Compass」では、ユーザーにウェアラブルデバイスを8日間装着してもらい、弊社独自の睡眠測定アルゴリズム「ACCEL」法を用いて睡眠の長さやリズムを把握します。加えて、Webの問診によって睡眠に影響する生活習慣やユーザー自身の主観的な睡眠の情報を収集し、健康的な睡眠がとれているかを総合的に判定・評価します。

それに加えて、睡眠リテラシー向上を促すeラーニングも提供しています。パーソナライズされた睡眠の改善が必要な場合は、睡眠衛生指導も実施します。BtoBtoE(Business to Business to Employee)のモデルになっており、企業の人事や従業員の健康管理を担う部門の方々、あるいは健康保険組合を中心とした保険者の加入者に対してサービスを提供しています。

――睡眠改善を行う他社のプロダクトと比較して、「Sleep Compass」のどのような点が優れているのでしょうか?

飯田:まずはアルゴリズムの精度です。現代の医療技術でも睡眠の状態を把握することは非常に難しく、正確な情報を得るには入院したうえで睡眠ポリグラフ検査(PSG)を用いて脳波を測定するしかありません。

既存のウェアラブルデバイスでも睡眠を測定する機能はありますが、精度に課題があります。寝ている状態を捉える精度は高いのですが、睡眠中に発生する中途覚醒を捉えることは苦手とするものが多いのです。中途覚醒は、トイレに起きるといったような本人が自覚する覚醒状態だけではなく無自覚な覚醒も多いため、ここを正しく捉えられないと、睡眠の実態を見誤ってしまうことになります。

ですがACCELStarsは、東京大学大学院医学系研究科の上田泰己教授の研究室が開発した、腕時計型で精度高く覚醒が検知できる睡眠測定アルゴリズム「ACCEL」法を取り入れています。この技術を用いることで、睡眠中の中途覚醒の状態も捉えられるようになり、眠りの質をかなり高い精度で可視化します。これが他社との競合優位性になっています。

さらに他の利点として、生活習慣と睡眠の因果関係を把握できることが挙げられます。他社のプロダクトでは「睡眠の測定」は行っているものの「その人の生活習慣や病気などが、どのように睡眠に影響しているかの測定」は行っていません。私たちはWeb問診を行うことでそうした情報を収集し、因果関係を把握します。

ACCELStarsの創業者は、先ほど述べた上田泰己教授です。上田さんは「脳と心の病気の裏側には、睡眠の課題が潜んでいる。睡眠を解明できたら、まだ人類が解決できていない、そうした病気の解決につながる」という発想で事業を始めています。弊社のビジョンである「睡眠を解明し、新たな医療を創造する」のとおりですね。

「Sleep Compass」は企業向け健康診断のオプションのように、企業や健保を通じて、従業員に提供されていきます。大勢の睡眠の状態を測定できれば、当サービスを受けた人やその人が勤める企業にも利点があります。そして医療業界にも好影響がありますし、私たちも事業が成功して睡眠に関してより多くのデータを収集できます。三方良しのビジネスとして、「Sleep Compass」を提供しています。

飯田悠祐

「正解がわからない」状態からの試行錯誤

――「Sleep Compass」の開発プロジェクトのなかで、印象深い出来事はありますか?

飯田:まずは開発の黎明期、2022年の初めごろです。最初の頃は私も多少関わっていたものの、ほぼYさんとエンジニアの2人だけで作っていました。この頃は既製品のウェアラブルデバイスを使い、最低限のWeb問診の機能があるシステムでした。出力されたデータをもとに、ユーザーに渡すレポートをYさんが手作業で作るところからスタートしています。

Y:その頃は私がACCELStarsに入社したばかりで、睡眠のことを全く知らなかったですし、プロダクトも要件は固まってはいたものの、まだ実装中で未完成でした。でも最初のプロジェクトの実施時期は決まっていたので、睡眠についての知識をがんばってキャッチアップしながら、エンジニアと一緒に優先度の高い機能から開発を進めました。

このときに取り組んでいたのは、株式会社ブリヂストンの久留米工場で交代勤務に従事する方々と、久留米市役所にお勤めの職員の方を対象に、ウェアラブルデバイスを活用して睡眠を測定するという実証実験ですね。

<参考プレスリリース>
東京大学大学院医学系研究科発スタートアップの株式会社ACCELStars
医産学官連携の「健康な睡眠」を支える最先端研究プロジェクトに参画 〜久留米市、医療機関、ブリヂストン、久留米大学、ふくおか公衆衛生推進機構と共創〜

睡眠についてまだわからないことだらけだったので、専門家から学ぶために虎の門病院の富田康弘先生と定期的に打ち合わせをして監修をしていただくなかで、いろいろなことを学び、今のSleepCompassの原型を作っていきました。

Y

飯田:その次に、医療法人桜十字とACCELStarsが、「睡眠健診」サービスの開発に加えて「睡眠衛生指導」サービスを共同開発することを2022年4月に発表したんですね。そのプロジェクトを同年の秋に実施することが決まり、そこに向けてプロダクト開発を進めていこうということになりました。この、2022年秋にリリースしたバージョンのことを、社内ではβ版と呼んでいました。

<参考プレスリリース>
医療法人桜十字 × 東大発ベンチャーACCELStars 世界最高レベルの睡眠測定技術で『健康睡眠プロジェクト』を開始 ~睡眠有所見者向けに「睡眠衛生指導」サービスの共同開発へ~

実証実験の対象人数がかなり増える見込みだったため、レポート生成の自動化やオペレーション画面の作成などを進める必要がありました。このタイミングで私はビジネス側の職務がメインになっていたので、プロダクトマネジメントをYさんに一任しました。そしてUI/UXも固める必要があったため、2022年の夏頃に片桐さんに参画してもらいました。

片桐:私が入社してから最初に取りかかったのは、自動生成されるレポートの表示方法でした。表示すべき内容として、睡眠のデータとWeb問診のデータが大量にありますし、それらが受診者の生活スタイルに応じて多種多様なバリエーションになり得ます。

情報を詳細に伝えようとするとわかりやすさが犠牲になるとか、逆にわかりやすさを重視すると伝えたいことが伝わらないといった対立が起きてしまいます。どううまくまとめてレポートの形にするか、その時期は試行錯誤をくり返していました。

数多くのハードシングスと向き合い続けた

――その後のエピソードについてもお話しください。

飯田:医療機器該当性の話が印象深いですね。「Sleep Compass」は当初から、医療機器に“非該当”であるという厚生労働省からのお墨付きを得ようと構想していました。医療機器と見なされた場合には、医薬品医療機器等法という法律の規制対象になり、早期に市場投入できなくなるためです。

ですが、もともとの仕様のままでは「医療機器に該当する」という厚生労働省からの忠告がありました。そう判断された要素はいくつかありましたが、たとえば医療機関での受診を勧めるようなコメントを出していたことなどでした。日本の場合、基本的に医療従事者しか受診勧奨をしてはならないんです。「睡眠健診」という表現にも忠告がありました。

この忠告を受けたのが、医療法人桜十字とACCELStarsの共同で推進した、熊本県UXプロジェクト事業のちょうど1カ月前くらいの時期です。ドタバタと熊本県UXプロジェクト事業を動かしながら、医療機器に該当するような機能・文言の修正もするという、大変な時期でしたね。

<参考プレスリリース>
医療法人桜十字とACCELStars共同で、熊本県UXプロジェクトの事業に採択

Y:レポートの自動化を行うために、レポート内に表示する文言のマスター情報を私が作っていたんです。そのマスター内にある文言をすべて見直して受診勧奨に該当するコメントを書き直し、かつ厚生労働省への説明資料も作っていました。さらに、レポートに表示するグラフの仕様も片桐さんと一緒に考えており、いろいろなものを並行して動かしていました。結果的に、医療機器非該当のお墨付きは2022年内にいただけましたね。

エンジニアリングの体制面においても、当初は予想していなかった事態が発生しました。そのため、他チームのエンジニアに一時的な助っ人として入ってもらったり、業務委託のエンジニアに助けてもらったりしながら、開発を進めました。

――スタートアップならではの、かなりのハードな状況を経験されたのですね。

片桐:デザイン業務でも、作るものはかなり多かったです。β版ではレポートのデザインを整備することが主でしたが、その後はWeb問診の画面や健診施設が使う管理画面の作成、レポートのさらなる改善などを私一人で対応しました。かなりの仕事量をさばいて、「Sleep Compass」の制作を進めていましたね。

片桐進太郎

――ソフトウェア以外に、ウェアラブルデバイスの検証はいかがでしたか?

Y:ウェアラブルデバイスは、プロジェクトが開始してからずっと制作を担当しているハードウェアチームに相談し、「SleepCompass」としての検証を行っていました。最初期は先ほど述べたように、既製品のウェアラブルデバイスを使っていました。そのデバイスは取得する情報の量や頻度が少ないため消費電力が抑えられたので、検証期間である8日間は充電する必要がなかったんです。

内製のデバイスである「AC1」でも「付け忘れを防ぐために、最低でも1週間は充電なしで使えるようにしたい」という話が挙がりましたが、ハードウェアチームでの検証を重ねていくうちにそれはどうがんばっても無理だということがわかってきました。そこで、寝る際にのみ着ける仕様にして、もし昼間などに仮眠した場合はWeb問診で確認する方針に切り替えました。

――デバイスの制約に合わせて、プロダクトの仕様を柔軟に変えていったわけですね。

Y:ハードウェアを担当する方から「デバイスは2022年内くらいにはできる」と聞かされていました。私は前職からずっとソフトウェア開発に携わっていたので、その感覚で考えていて「デバイスができたら、そのまますぐに使えるのかな」と思っていたんです。

でも実際には、ハードウェアができてからさらに検証や改良を続ける必要がありました。弊社では臨床研究のチームが各種のデータ測定を続けているのですが、そのデータを新しいデバイスでも収集して精度検証しなければリリースできないということを、当時の私は認識していなかったんですね。つまりデバイスができても、プロダクトで使えるのはもっと後になります。

さらに言うと、デバイスは結果的にスケジュールがかなり遅延して、最終的に物が届いたのが2023年3月末くらいでした。その後、4月のまるまる1カ月くらいはハードウェアチームと一緒に、「SleepCompass」の運用上問題ないかデバイスの検証をやっていましたね。

飯田:ウェアラブルデバイスを使ったサービスは、私やYさんも前職で経験したことがなかったんですよ。もちろん、そのデバイスをエンドユーザーに1週間近く渡してお任せするなんていう経験もない。わからないことだらけで、試行錯誤の連続でした。

私たちACCELStarsは「腕時計型ウェアラブル端末で精度高く覚醒が検出できる睡眠測定技術」とうたっていますから、質の低いプロダクトを出してはその信用がなくなってしまいます。プロダクトの品質を向上させる作業も、どの段階で事業を開始するのかというビジネス的な判断も、非常に難しいプロジェクトでした。

世の中のみんなが求めているプロダクト

――そうした数々の困難を乗り越えて2023年5月に「Sleep Compass」をリリースしたわけですが、反響はいかがでしょうか?

飯田:想像していたとおり、あるいはそれ以上に世の中から期待をされているプロダクトだという実感があります。まだまだ事業の体制を整えなければなりませんが、各企業や学会の方々と話をすると「こういうプロダクトを求めていたんだよ」という反応が数多く返ってきますね。Yさんは、医療法人桜十字と連携を取る機会が多いと思うのですが、そちらからのプロダクトの手応えはどうですか。

Y:β版の頃から使ってもらっていましたし「(プロダクトとして)大丈夫だよ」という言葉はずっといただいていたんですけど、今回リリースされたバージョンを持っていくと反応がかなり違いましたね。「(内製したウェアラブルデバイスも含め)これまでのバージョンよりも、ずっとわかりやすい」といった言葉を、現場でオペレーションに携わる方々からいただいています。それに、「Sleep Compass」での測定を担当する保健師からも、ポジティブなフィードバックが届いています。

――今後の目標についても教えてください。

飯田:まずは、事業としてきちんと成長させる状態に持っていこうと思います。まだまだ1stリリースの段階なんですよね。多くの方々からのご期待に応えられるような体制作り、プロダクト作りをこの1年しっかりとやっていきたい。2024年以降に一気に加速していくために、2023年を過ごしたいと思っています。

事業として特に実現したいことは2つあります。1つ目は良い睡眠によって人間の健康にポジティブな影響があることをさらに実証していくこと。2つ目が「Sleep Compass」を睡眠の改善に結び付けられるようにすることです。要するに、ただ睡眠の状態がわかるだけではなく「改善できる」ことが明確になれば、導入数が増えていくと考えています。

――最後に、これから「Sleep Compass」のチームに加わるであろう将来の仲間に向けて、メッセージをお願いします。

片桐:睡眠に関するサービスはまだまだ世の中に少ないですし、だからこそやれることがたくさんあります。わかりやすい正解のない領域で、サービスを0→1で作っていく環境を楽しめるような方だと、やりがいを感じてもらえると思います。

Y:「Sleep Compass」のプロジェクトを通じて、本当にいろいろな経験ができると感じています。睡眠を専門とする医療機関の方々とのディスカッション、ウェアラブルデバイスの開発・検証、アルゴリズムでのデータ解析、レポート出力。プロダクトを構成する要素がさまざまあるからこそ、いろいろなことに対して興味を持って取り組めるような方だと、ACCELStarsで働いていて楽しいはずです。

飯田:これまで、さまざまな事業開発をやってきましたが、睡眠改善は特に社会的意義があると思っているんですよ。エンドユーザーである受診者も「良い睡眠をとりたい」と思っていますし、企業や医療関係者の方々も「多くの人にきちんと寝てもらい、健康になってほしい」と願っている。本当に、みんなが求めているプロダクトなんですよ。

プロダクト作りに携わる方は、誰もが「人の役に立つものを作りたい」と思っているはずです。だからこそ、睡眠という領域において、市場の創造そのものからスタートできるという経験は、非常に意義があると感じます。

「Sleep Compass」は、ACCELStarsの商標です。


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