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中編小説第七回 東京少年少女 球技大会

 透の衝撃の告白から一週間。何となくという体を装って生活しているものの、美咲は透のことが気になって気になって仕方がなかった。もっと話をしてみたいと思ったもののいかんせん二人だけの時間が取れない。透は相変わらず不真面目に授業を受けそそくさと帰宅していくし、美咲も部活に勉強にと忙しくそんな時間を取れる余裕がなかった。そうこうするうちに定期テストも終わり、我が校では春のクラスマッチを迎えることとなった。1年生はバレーボールである。美咲は運動、特に球技のセンスが皆無なのでこの時間はそれ程待ち遠しいものではなかったのだけどクラス一丸となっての行事は初めてなのでクラスメートのそのほとんどが思い思いに当日を楽しみにしていたのだった。

 果たしてすぐにその日は来た。美咲のチームにはすごくバレーの上手い女の子がいて彼女がリーダーとしてどんどんチームを引っ張っていってくれたので準決勝まで勝ち残ることが出来た。彼女は本当に気持ちの良い人間で美咲がどんなドジをしても怒らず、変な緊張を与えたりせず試合を進めていった。だから美咲自身が驚くようなファインプレーも随所に飛び出し終始楽しい時間となったのである。

 準決勝で敢え無く大差で負けた美咲たちは今度はチーム全員で男子の決勝を観に行くことにした。コートをひと目見て美咲は高鳴る心臓を抑えられなかった。透くんだ。決勝には透のチームが残っていたのである。試合が始まる。透の役割はセッターである。見ていて思ったことは透が素人目に見ても存外上手いことである。セッターって確か物凄く難しいポジションじゃなかったっけ。どんな球にも瞬時に反応して的確なトスを上げなければならないのだから。気づけば無我夢中で透の姿を追っていた。結局透のチームが大差で勝ち優勝を決めた。いつもは無愛想でクラスの中でも浮いた存在だった透はこの件で一目置かれるようになったのである。チームメートに囲われながら、無邪気な笑顔を見せる透。あんな顔も出来るんだ。透の新たな一面を発見してやはり美咲はどうにも胸の鼓動を抑えることが出来なかった。

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