見出し画像

穴1.0

私の耳たぶには穴が空いている。それもタバコの直径よりも大きなものがぽかりと。

ピアス自体を空けたのは20歳の頃だった。
コンタクトすら恐れる私がなぜピアスを空けたのかというと「ピアス、きっと似合うよ」と言われたからだった。

同い年の彼女は酷く自罰的な女性だった。好きな地下アイドルと同じ髪型にするんだ。と言って急に黒いロングの髪を金髪のボブにして来たこともあった。2人で酒を飲む度に私になら殺されても良い。と言って泣く酷く心の不安定な人だった。私は彼女に酷く惹かれていた。間違いなく彼女に恋をしていた。

どこで出逢ったかはもう忘れてしまった。多分私から彼女に優しくしたのが始まりだった。部屋が汚い人だった。何度も片付けた。行く度にベッド脇のコンドームの袋の切れ端を何度も拾った。

私と彼女はいわばセックスフレンドの様な間柄でお互いに行動を束縛する事はなかったが彼女は繰り返し私に「本当にこうクンだけなの。殺してほしいと思ってるのは」という様な事を嘯いた。

私は彼女の耳の形が好きだった。小ぶりな耳だった。耳たぶが小さいから。と言いつつも耳たぶには5~6個のピアスがぶら下がっていて軟骨のピアスは見る度に増えたり減ったりを繰り返していた。

生魚が食べられない割に回転寿司に行きたがる人だった。コーンマヨネーズやハンバーグや納豆巻きばかり食べていた。

体は酒に強かったが酒の味はわからない人だった。本当はリンゴジュースの方が好きだと言っていた。酔うのが好きだと言っていた。何も食べずにただひたすらにアルコールを体に流し込む様に酒を飲む人だった。

性に奔放な人だった。出会った当初、彼女には恋人がいたが私の様なセックスフレンドは何人もいるようだった。ある日大きなアザを顔に作って、死ねと言われて殴られてフラれた。と笑いながら私にそう言った。そして酒を飲んで泣いていた。

ある日私は彼女に付き合ってみないか?と尋ねられた。私は彼女と恋人同士になった。

大阪に行く予定を立てた。私の狭い車でも構わないと彼女は言っていた。水族館に行きたいと言っていた。当日、彼女は首を吊ってしまった。

約束の朝、彼女は待っても来なかった。約束の1時間後に彼女の住んでいたアパートに着くとパトカーが止まっていた。部屋の前では彼女の母らしき人が泣いていた。話しかけて恋人だと名乗ったがアンタのせいで。と半狂乱になりながら叫ばれて私は茫然としていた。それからの記憶は抜け落ちている。ただ俺は彼女を見送る事が出来なかった。後日彼女の兄から彼女の遺書の一部を見せてもらった。私のことが1文だけ書かれていた。
本当にごめんね。だけだった。

ピアスは似合わなかった。数を増やしても似合わなかった。

拡張を繰り返したら傷みたいで気持ち悪くて少しだけマシだった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?