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現代アートはビジネスパーソンに何をもたらすのか―多様なケイパビリティを融和して協働する時代に

※過去記事のアップです(2016年12月5日)

アクセンチュア・イノベーション・ハブ東京(AIT)の前身である、デジタル・ハブに現代アート作品が展示されていたことをご存知でしょうか?手がけたのは芸術部とアクセンチュア・デジタルのコラボレーションプロジェクトチーム。なぜ、オフィスにアートが必要なのでしょうか。ビジネスパーソンがアートに触れる意義とは何でしょう。今回のブログでは、参画したメンバーの座談会の様子をお届けいたします。

【座談会参加者】

○塩見 有子さん(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ [AIT / エイト] ディレクター)前列右

○大隈 理恵さん(NPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ [AIT / エイト] プログラムマネージャー)前列左

○パーク エズラ(アクセンチュア・インタラクティブ シニアマネジャー)後列左

○佐藤 守(アクセンチュア・インタラクティブ シニアマネジャー)後列右

○石村 真理絵(アクセンチュア芸術部 部長 / アクセンチュア・インタラクティブ コンサルタント)後列中央

●デジタルアートインザオフィスの取り組み 芸術部の活動から社内に展開

――デジタルハブにアート作品を展示するプロジェクト、“Digital ART IN THE OFFICE“は企業が社内にアートを取り入れるという珍しい取組みでした。どのようなきっかけで始まった企画なのでしょうか。

石村 真理絵さん(アクセンチュア芸術部 部長 / アクセンチュア・インタラクティブ コンサルタント) 今年の3月に、芸術部のイベントとして、マネックス証券の松本大会長をお招きし講演していただきました。

マネックス証券は、社会文化活動として、社内のプレスルーム(会議室)の壁面に制作する作品を、現代アートの分野で活動する新進アーティストから一般公募するプログラム「ART IN THE OFFICE」を行っています。会議室で制作活動中のアーティストと社員との間に交流が生まれるなど、双方にとってよい刺激になっていることについて、松本会長に講演頂きました。

講演には、会長の程近智さんも来てくださり、「このプログラムは非常に面白いので、うちでもやってみたら」とおっしゃってくださったことがきっかけで、デジタルハブをデザインしたエズラさん、当時、私の上司だった佐藤さんやマーケティング部長の加治慶光さんを巻き込みながら、このプロジェクトが実現しました。

――佐藤さんは、石村さんの提案のどの辺に面白みを感じて協力しようと思われたのですか?

佐藤 守さん(アクセンチュア・インタラクティブ シニアマネジャー) 芸術部員だったのと、当時石村さんのSVを担当しており、かつデジタルのメンバーということで相談を受けたのが、きっかけですね。マネックス松本さんの講演には僕も参加しており、デジタルハブもできるし、うちでもやったら楽しそうだな、と自分でも考えていたところに、転がり込んできた形になります。

そもそも芸術部に興味を持ったのは、クライアントの経営層と話す機会も増えてくる中で、いわゆる教養と呼ばれる部分をもう少し高めたいと考えたのが最初でした。実際に、経営者の方々のなかにはアートを始めとするリベラルアーツに造詣の深い方も多く、自分があまりに無知なのは恥ずかしいな、と。

一方個々の案件でもで、コミュニケーションの在り方を深く考える機会も増えています。デジタルだけではなく、人間らしい直感や感情というものへの着眼が必要になります。こういった感性を刺激させる機会と感じ、とてもワクワクしましたね。

――エズラさんはいかがですか?

パーク・エズラさん(アクセンチュア・インタラクティブ シニアマネジャー) 私はデジタルハブの設計に携わりましたが、企画当初から、“デジタル“には“アナログ“が不可欠だと考えていました。

デジタルの究極の形はアナログの具現化だからです。今回のDigital ART IN THE OFFICEプロジェクトは、聞いた瞬間から、自分の中で周波数が一致するような感覚で、タイミング的にもピッタリでした。

これまでのキャリアでクリエイティブ制作の仕事を数多くしてきましたが、クリエイティブとアートはイコールではありません。また私がやってきたことは、基本的にビジネスの文脈に沿ったクリエイティブ制作です。ですから、現代アートに関心を覚えながらも、これまでは中々触れる機会がありませんでした。どこか、「違う世界のものだ」という感覚でした。

――展示するアーティストの選定から企画、運営面でNPO法人アーツイニシアティヴトウキョウ[AIT/エイト](以下、AIT)さんのお手伝いがあったと伺いました。ご参画の経緯などをお聞かせいただけますでしょうか。

塩見 有子さん(AIT ディレクター) AITは2001年に設立をしたNPO法人で、現代アートについて考える「場」をつくり、アートへのアクセシビリティを高めるため、アーティストやキュレーター、美術館やギャラリーのほか、企業、財団、行政と連携しながら、現代アートの複雑さや多様さ、驚きや楽しみを伝えています。

事業の柱のひとつが教育プログラムで、「MAD(Making Art Different =アートを変えよう、違った角度で見てみようの意が込められている)」という学校を開講しています。

現代アートは「よくわからない」という声をよく聞きますが、その楽しみ方のコツが分かると、刺激と驚きのある世界を旅することができます。MADという学校を通じて、アートについて考える場を増やし、「こんな面白い世界がある!」と感じて、アートにはまってほしいと思っています。

MADには、金融やコンサルタント、IT、教育など様々な分野で働く方が集まってきます。生活や仕事とは全く異なるアートという分野を知り、考え、驚きの連続の体験をする。それによって、頭の中をリフレッシュされ、あるいは混乱される方は多いです(笑)。

今回は、石村さんご自身がMADに定期的に通ってくださっていたことや、私たちが運営協力を行っているART IN THE OFFICEの活動に触れていただいた経緯があり、ご自分の会社でそういったことができないか、という相談を受けたことがきっかけです。

●アクセンチュアの社員は意外とアーティスティック?ワークショップで伸び伸びと思考する

――これまでのAITと企業との取組み事例を教えてください。

塩見 マネックス証券の取組みは公募を通じて選ばれた作家が約1年間社内で作品展示をするというもの。社員との交流プログラムも活発です。

また、メルセデス・ベンツがCSRとして文化・芸術支援活動「メルセデス・ベンツ アートスコープ」プログラムを1991年から実施していて、有望な若手アーティストの育成と支援、国際交流の促進を目的としています。このプログラムでは、日独双方のアーティストが互いの国に一定期間滞在する“レジデンス“とその成果を発表する展覧会を原美術館で開催しています。AITはアートの専門集団として、コンサルティング・アドバイス兼事務局の位置づけで、一緒にプログラムを作っています。

アートと企業を結びつける上で、常に考えていることは、“誰もがアートを好きなわけではない“ということです。私たちがどれほどアートの価値を信じていても、関心が全くない人は当然いるわけで、体を動かす方が好きな人は、美術館に行くよりグラウンドに出ていたいと思うはずです。ですので、少しでも関心を持ってくれる人を増やす、あるいはもともと好きな人には、もっと好きになっていただく、というほうに注力します。

また、企業とのコラボレーションでは、“企業イメージ、ブランドイメージを尊重する“という点にも留意します。現在、日産自動車株式会社主催による「日産アートアワード」の仕事をしていますが、日産自動車の培ってきたブランドや経営の目指すものと真逆のことはできません。これは、当たり前のことのようですが、やってみると意外と難しいものです(笑)。

――今回、“デジタルの文脈による企画“という話を聞いたときに、どのような印象を持ち、実際のアーティストの選定はどのように行われたのでしょうか?

塩見 企画を伺った際、アクセンチュアさんが持っている一番の強みにフォーカスし、それを引き出していくことはできないか、と考えました。また、一方で現在のアート界に欠けていることやアーティストのニーズは何かという二点を考えました。

選定は、AITが作家の推薦を行い、作品展開の可能性を提案し、チームで議論を重ねました。アートに馴染みのない方が行き交う空間でしたので、一般的な親しみやすさとともに、観る人に疑問を投げかけ、好奇心を掻き立てる作品があうのではとも思いました。

佐藤 選定については苦労しましたが、個人の好みだけではなく、3人でそれぞれ少し違う視点を持って議論しました。エズラさんはアクセンチュア・デジタルとしては、「デジタルハブを使う方々にいかに見てもらえるかどうか」、僕は一番アクセンチュア歴が長かったので「デジタルだけではないアクセンチュアのメンバー、Techvisionなどアクセンチュアの志向性とも親和性があるか」、そして石村さんには、「芸術の好きな社員、あまり親しみがない社員の両方が興味を持てるか」という目線で見てもらいながら議論しました。

石村 AITさんからご提案いただいた候補をベースに皆で議論し、最終的に榊原澄人さんの作品を展示したいと、お願いしました。

榊原さんは、文化庁メディア芸術祭を始め、国際的なアニメーション映画祭で数々のアワードを受賞、またはノミネートされており、気鋭の映像作家、アーティストさんです。

榊原さん自身の体験をもとに制作された映像やペインティングは、膨大なスケッチと緻密な観察から物語が紡ぎだされていて、見ている人には、どこか懐かしくノスタルジーに近いあたたかな時間を感じさせる一方、世の中を俯瞰するような、社会の縮図を眺めているような感覚も呼び起こしてくれます。(榊原さんの作品がこちらでご覧になれます。)

エズラ 榊原さんが非常にマッチしていると思ったのは、デジタルコンテンツとアナログの作品をお持ちで、デジタルとアナログのバランスをうまく表現できている方だからです。

石村 抽象的すぎず、広く受け入れてもらえる作家であることも選出のポイントになりました。

大隈理恵(AIT) アナログとデジタルを意識しながら、技術的なことだけではなく、思想的なこと、哲学的なことまで幅広くデジタルに通じた作家を提案したいと思いました。

榊原さんは、「時間」という概念的なものをかたちに残せないか考えている方で、アニメーションという手法を取り入れながら、自身の世界観をかたちつくろうとしています。

映像がメインの作家ですが、今回は、絵画7点と映像3点の作品を展示しました。絵画と映像は連動していて、カンヴァスに何度も描き消され、重ねられた対象物が、アニメーション作品になっています。

ここでも榊原さんは、絵画の中に存在する対象物の時間を残したいという試みが見られます。展示では、生身の体を使って描く絵画というアナログ的表現とデジタルを使った表現を対峙して見せました。

9月16日に行われたDigital ART IN THE OFFICEのオープニングイベントには、社内外から約70名の参加があり、大盛況でした。作家の榊原さんも普段長野県の山奥で暮らしている方なので、たくさんの方々と交流ができ、作品を見てもらえたことをとても喜んでいました。

当日は榊原さんご本人によるワークショップも実施しました。前半は、榊原さんの作品手法である「アニメーション」とその考え方についてお話を伺いました。

例えば、日本古来の絵画形式の一つである絵巻物は、広げてみると1枚の絵の中に登場人物が何度も出てきて、右から左に物語が展開されますよね。これを「異時同図」といい、1枚の絵の中に異なる時間が存在するという意味なのですが、漫画も同じように1枚の紙の中にコマで分けられた登場人物が何度も出てきます。アニメーションは区切られた1コマと1コマをつなげて、その間にある時間を繋げる表現方法ですが、古来より日本人は、頭の中でその間にある時間を想像する能力に長けていたというお話を伺いました。

他にも、洞窟壁画に描かれた想像上の生き物の話や「白雪姫」に出てくる魔女が実は主人公と同一人物だとしたら、などスライドを見せながら参加者の脳を解きほぐしてくれました。

後半では、デジタルハブのホワイトボードを使って、思いついた絵をまず描き、次に絵と絵の間にある物語を想像して、その間にまた絵を書き加えるというようなことを行いました。

絵を描くという行為にあまり慣れていない方が多い印象でしたが、あっという間に壁一面に絵が広がっていき、次から次に出てくるアイデアが意外にも奇想天外で榊原さんもびっくりしていました。とてもクリエイティブで、社員の方々の“理解してアウトプットする“能力の高さやスピードを実感しました。

エズラ アートを会社に取り入れることは、社内的なメリットもあります。普段私たちは左脳を使った作業をすることが多いですが、そこに右脳的な刺激を与えることで、それまでとは違う新しい自分を発見できる良い機会になったと思います。

●アートと企業の新しい関係①人材開発:ビジュアライザーが経営層に刺さる?

――現在アートを通して地域活性化をする流れが大きくなっています。アートを通して、ビジネスパーソンとしてのスキルを高めることも可能なのでしょうか。

エズラ 最近は、概念を論理的にまとめるコンセプチュアライザーよりも、視覚的にプレゼンできるビジュアライザーが注目を浴びています。また、あくまで個人的な感覚ですが、直観的に判断する右脳型の経営層が増えているように感じます。

例えば、数十ページや100ページ以上にも及ぶ提案資料を準備していたのですが、全体像が見えにくく、なかなかクライアントからOKが出ない場合があります。ドキュメントのバージョンはもう“17“くらいになっていて(笑)、どんどん内容も細かくなっていく。すると、その分細かいところに余計突っ込みが入るんですね。一方で、イメージを視覚化することで、たった1,2ページでも一発でとおるケースもあります。

アクセンチュアのメンバーも、イメージをビジュアルで表現するスキルが必須になる時代がそこまできているのではないでしょうか。アートに触れることで、間接的とはいえ、良いトレーニングになると思います。

塩見 人材開発の視点はあると思います。AITも、ある企業の研修をお手伝いしたことがあります。自社のミッションの本質は何か、アート作品の事例を交えながら考えるワークショップです。ミッションに対し、その実現のために何ができるのか、アートの思考で検討したりします。

石村 今回のワークショップに参加された方の感想の中で、「普段は決められた目的から逆引きでストーリーを考えるばかりだが、ワークショップを体験して、初めから終わりまで好きに考えていいことに気付いた」という声もありました。

大隈 ほかにも「バラバラになった視点を整理してストーリーを組み立てるということは自分の仕事にも生かせる」いった声を聞きました。

塩見 参考になる記事として、「WIRED」誌の編集長、若林恵さんが“ビジネスパーソンにどうして現代アートが必要か“という視点で話しているので、関心がある方はぜひ読んでみてください。

前編:https://newspicks.com/news/1818106/body/
後編:https://newspicks.com/news/1821382/body/

エズラ 同じことが“デジタル“についても言えますね。デジタルが万能と思っていては見誤る。デジタルの限界を知っているプランナーでないと、良いものは創れないです。やはりデジタルとアナログの交差するところが重要なんです。

塩見 そうですね。違うものが触発しあう部分が楽しいのですよね。例えばキュレーションという言葉はもともとアートの世界の言葉ですが、今はビジネスの現場でも“編集“に近い意味で頻繁に使われるようになりました。アートの世界をビジネスの視点でのぞいたり、ビジネスの世界をアートの視点からのぞいたり。その交差するところに面白いものが立ち上がる気がします。

●アートと企業の新しい関係②マネジメント:多様なタレントを指揮し、最高の一皿を創る

――佐藤さんはどちらかというとコンサルタント寄りでアクセンチュア・デジタルに参画されていて、今はクリエイターのメンバーをまとめながらプロジェクトを進めていく立場だと思います。コンサルタントばかりのチームと、クリエイターも混ざったチーム。マネジメントのカンやコツ、方法に違いはあるのでしょうか?

座談会の風景

佐藤 個人個人で違うので、あくまで“一般的に“ですが、コンサルタイプの人は、クライアントの視点、コスト感覚、ROIから発想する傾向があります。一方でクリエイタータイプの人は「良いものとは何なのか」「今回のコミュニケーションの本質を突くためにどうすればよいのか」をどんどん深めていく傾向があります。

エズラ コンサルタントとクリエイターが組んで仕事をすると、ケンカがよく起きます(笑)。違って当たり前です。互いの個性を生かすことが重要で、合わせる必要はないと思っています。

時代は変わってきています。アクセンチュアのようなコンサルティングファームがDigital ART IN THE OFFICEの取組みを始めるなんて、数年前は考えられなかった。
コンサルファームのする提案、エージェンシーのする提案など、どんな具材が入っていようが個性が溶け合って同じ味がするシチューのような仕事の仕方の時代は終わりました。

これからは個性がはっきりしているサラダボウルのような仕事が必要です。トマトやレタスやキュウリの味がそれぞれあり、ひとつのドレッシングというビジョンによって統一され、共感できる。そんなイメージです。

こうした取り組みはまだ始まったばかりで、アクセンチュアだけでなく多くの組織がチャレンジしている段階です。多少の摩擦はポジティブにとらえ、徐々に理解しあえれば良いと思っています。

佐藤 これからコンサルタントとクリエイター双方を生かして新しい仕事をしたいと思っているビジネスパーソンは、クリエイティブの人たちの考え方、価値観、コミュニケーションの仕方を理解する必要があります。塩見さんのおっしゃる通り、そのうえでアートやアーティストに触れることは非常に良い学びの機会になると思います。

エズラさんの例えでいうと、サラダボウルを調理するシェフの感覚です。指揮者のような役割だとも言えます。入れる素材選びから調理の仕方まで、考え実践する役割です。
これまでにないチャレンジですから、そりゃ難しいですよ。コンサルタントは個々人の個性は違えど、一つの職種と言えますが、目的意識もアウトプットも全然違う人たちとの仕事ですから。でも一流のシェフが素材を生かすように、一人ひとりの個性を生かして“最高の一皿“にしないと。

アクセンチュア・インタラクティブでは、高品質なアウトプットを作ることそのものではなく、お客様のビジネスパフォーマンスを高めることが“最高の一皿“の定義です。これは私たちのミッションで、クリエイターもマーケターもコンサルタントも全員が共通で持つべき価値観として定義しています。バラバラであるからこそ、共通で信じられる価値観というものはとても重要になりますね。

塩見 アートの世界では、違うことがいいことですからね。既視感ではなく更新感が期待されます。新しいことを投げかけることで、世の中がどのような反応するか。ビジネス文脈でいえば、それによってイノベーションが生まれるのかもしれません。

エズラ 改めて思うのは、「“違い“は、“間違いではない“」。違いを求めていく作業は良いことだと感じます。

元来、“クリエイティブ“という言葉は、ラテン語の“CREARE“が語源で、無から有を創造するという意味です。

すでに在るものを“作り直す“者はレノベーター(renovator)と言います。レノベーション(renovation)は“より良くする作業“ではありますが、イノベーション(innovation)、つまり“創業“ではありません。イノベーター(innovator)とはすでに在るものを壊し、無から有を”創り上げる”者です。

●初心者向けのアート鑑賞テクニック、“頭をからっぽにして作品を5分間観る“

――興味はあっても、初心者はアートをどのように楽しんだら良いか迷うところだと思います。何かアドバイスをいただけますか。

大隈 鑑賞に“正しい“方法は無いと思いますが、私のオススメとしては、“頭をからっぽにして観る“ということです。

そして、作品の前に立って“5分間は観る“。目の前にあるものとの対話だけに集中するという時間の使い方は、非常に贅沢なひと時です。

塩見 仕事のことを頭から追い出して、作品を見ることに集中する。別に何も感じなくても、雑念がいろいろ浮かんできてもそれでいいんです。作品が鏡となって自分の今のあり様を教えてくれる。

作品とタイトルの間には何らかの因果関係が結ばれていますから、そこから作品を考えることもできます。タイトルだけではなくて、素材やサイズ、制作年なども重要な情報です。次のステップでは、解説文はこう書かれているが、自分はこう考える、というところまで到達すると、お決まりの解説ではない自分なりの解説をそこに付け加えられるようになります。

他にも、美術館の展示室に入ったときに展示作品の全てを見るのではなく、気になった1作品だけをじっくり見るのもよいと思います。

石村 その方法は自己分析にもなりますね。自分が苦手だと感じる作品や惹かれる作品を知ることで、自身の内面を探る機会になると思います。

塩見 アートには正解がありません。作品を見て、自分がそれをどう受け取って解釈するか、に尽きます。正解を性急に求めることが多い世の中で、そこから自由になれる瞬間でもあります。

同じ作品を見ても、別の人はまったく別の意見や感想を持ちまる。それもひとつの発見で、新しい考えや世界観を知り、取り入れるきっかけになる。

アートが自分に何かをもたらすだけでなく、アートを通じて人と人とが結びついたり、自分が関心を持っていることを発見したりとか、アートはモノと人、あるいは人と人を結びつける接着剤のようなものにもなりうるでしょう。

今度、私たちの学校にいらしてみてください。同じ関心を持つ人が集まっているので、一緒にいると楽しいですよ。アクセンチュアでの出張授業も面白いかもしれませんね。

石村 ぜひそれもやってみたいです! この取り組みをきっかけに活動を広げていければと思っています。

――第2弾やそれ以降の展開にも期待ですね。非常に楽しい座談会でした。皆さま、お忙しい中お集まりいただき、ありがとうございました。