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生活保護課担当者がベーシックインカムを語る(前編)


 皆さんこんにちは。イ キ ナ リ デ ス ガ ー(楽天カードマンの言い方)、今回は市役所で生活保護を担当している私が生活保護制度と似た趣旨であるベーシックインカム制度について考えます。

 生活保護とベーシックインカムはどう違うのか、仮に日本がベーシックインカムを導入したらどんな良いこと・悪いことがありそうか、日本での導入可能性などについて考察します。これは長くなりそうなんで前後編に分けて投稿すると思います。




1.生活保護とベーシックインカム

(1)生活保護とは

 厚生労働省によると、「資産や能力等すべてを活用してもなお生活に困窮する方に対し、困窮の程度に応じて必要な保護を行い、健康で文化的な最低限度の生活を保障し、その自立を助長する制度」だとされています。

 生活保護は、社会保障における最後のセーフティネットだとされていて、頼れるものは先に頼ってもらう必要があります。そして、それでもなお生活が困窮する場合は、足りない分だけ補足する制度です。

 なので、働ける方は働いてもらいます持っている資産は売り払って生活費の足しにしてもらいます他法他施策(年金など)で使えるものは使ってもらい親族などに援助を受けられそうであれば親族を頼ってもらいます。それでも国が定める最低限度の生活水準以下の場合、公費で足します。

 保護費は用途によって分かれており、大きくは生活扶助(生活費)、住宅扶助(家賃)、教育扶助(子の義務教育)、医療扶助(医療費)、介護扶助(介護サービス)、出産扶助(出産)、生業扶助(就労の準備)、葬祭扶助(葬式)の8つで、これ以外にも、引っ越し費用など一時的に支給が認められるものがあります。

 生活保護を受けているといっても、全員が全員生活費を支給されているというわけではなく、生活費は出せるけど医療費は出せないので医療扶助だけ受けているという方もおられます。(補足性の原理)

 このように、生活保護制度は、その人の生活の困窮度合いに応じて支給される、いわば補助金のようなものだといえます。


(2)ベーシックインカムとは

 一方のベーシックインカムは、「性別や年齢、所得水準などによって制限されることなく、すべての人が国から一定額の金額を定期的かつ継続的に受け取れる社会保障制度」だとされており、「国から国民一人ひとりに対して月々○○円支給される」イメージとのことです。

 生活保護が生活困窮者を対象としているのに対して、ベーシックインカムは全国民が対象になっているのが大きな違いです。そして、すべての国民に最低限度の生活水準を満たせる金額を支給するならば、生活保護制度を包含する制度だといえます。

 また、生活保護制度では支給されるお金には用途が決まっていましたが、ベーシックインカムで支給されるお金に用途が区別されるという記載は私が探す限り見つかりませんでした。なので、全部ひっくるめて月額〇〇万円と支給される点も生活保護と大きな違いです。

 このように、ベーシックインカムは全国民に対して支給される生活費のようなものであり、特性でいうと給付金に近いといえそうです。



2.想定されるメリット

 では、日本国にベーシックインカムが導入されるとどのようなメリットがもたらされるのでしょうか。生活保護担当者の目線から考察します。今回、生活保護に代わる制度としてベーシックインカムが導入された場合を仮定。最低限度の生活が営める水準の金額が全国民に支給されると仮定します。


(1)生活にゆとりがでる

 まず、生活にゆとりができます。生活保護制度とは違って、支給対象者が全国民であることから、その恩恵を受けられる人が格段に増えます。

 具体的には、保護を受けるほどではないものの生活がカツカツという人にとっては大変ありがたい制度になるでしょう。また、生活にそれほど困っていないという人も、生活残業など無駄な労働をする必要がなくなりますし、もっと言えば正規職員に固執する必要もなくなるでしょうから、仕事に縛られない自由な働き方・生き方ができるようになると考えられます。

 やっぱり生きていくにはお金が必要ですからね。そのお金があれば生きる自由度は上がるはずです。


(2)少子化問題が改善される

 年齢・性別に関係なく支給されるという前提であれば、世帯員数は多ければ多いほど受給額が増えるということになります。また、年齢・性別に関係ない基準となると、おそらくは成人男性を基準に算出されるでしょうから、子どもに支給される分は家計の足しにできると考えられます、たぶん。そうなれば、若者世代はこぞって結婚するし子どもも作る。育児費用の心配もなくなりますからね。少子化対策としては大きいでしょう。


(3)福祉事務所の負担が減る

 仮に生活保護制度を廃止して、ベーシックインカムに切り替えるのであれば、福祉事務所の負担は大幅に軽減されます。支給額が一律ならケースごとに保護費を算出する必要がなくなりますし、そもそもケースワークそれ自体がなくなるかもしれません。そうなると、一部の輩みたいなケースと関わる必要がなくなりますから、職員の心理的負担が軽減されるでしょう。

 また、財源を回すために他法他施策(年金や手当など)が廃止されたとすれば、こうした制度に携わる職員の手も離れることになります。ベーシックインカムを導入するなら、既存の制度のほとんどは統廃合されることになるでしょうから、福祉制度のややこしさは軽減されると考えられます。


(4)不正受給がほとんどなくなる

 ベーシックインカムの支給要件は、国内に住んでいることのみで、所得や資産による制限がないはずです。そうなると、生活保護制度における不正受給などは仕組み上起こり得なくなります。そうなると、収入の申告漏れによる返還金の支払いや不正受給による裁判沙汰などもなくなりますから、行政にとっても国民にとっても負担が軽減されます。

 とはいえ、本人はもう死んでるのにも関わらず、それを届け出ずに家族が引き続きお金をもらうなど、不正受給自体は残り続けるのでしょうけどね。


(5)都市への人口集中が緩和される

 生活保護費は、自治体や季節によって基準額が異なります。その土地の物価や気候などによって必要な費用が異なるからです。しかし、ベーシックインカムに代わってしまえばどこに住んでいようが同じ額を支給されることになるので、都市などの物価が高い場所に住むよりも物価の安い田舎へ移住したほうが、生活が楽になるという見方ができます。

 そうなると、都市への人口集中が緩和され、地方の過疎化も緩和されると思われます。それに、今ならIT技術が進歩していますから、リモートワークもできますしね。


つづく…

 このように、メリットが多そうなベーシックインカム制度ですけど、生活保護を担当している目からすると、デメリットも多いような気がします。

 今回はここら辺にしておいて、次回の記事ではベーシックインカムが生活保護に代替されることによって生じそうなデメリットと、日本における導入可能性について書いていきたいと思います。

<後編です!!>


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