ジンバブエドルの取引停止(2009年4月12日)

 この年は前年からのリーマンショックで、勤めていたシンクタンクが清算されることが決まった時期にあたる。
 2度経験したことで、この頃はもう転職がどういうものなのかはわかっていた。
 その時の職場でさまざまな業界の人と出会うことができたこともあり、前回の出たとこ勝負とは違い選択肢もいろいろとあった。

 結局は無謀と周りに言われつつ3ヶ月後にWinny開発者で第一審で有罪判決を受けていた金子勇が創業したスタートアップに移る。こういう時が一番燃えるタイプで事業を転換してどの分野にチャレンジしようかと、毎日悩んだりワクワクしたりしながら考えて過ごしていた。

 ジンバブエドルは、2000年頃から壮絶なインフレに見舞われ、2005年から停止までの4年の間に4度の通貨切り替えを繰り返している。

 前年の2006年にはすでに年率220万%というすざましいインフレが起こる。10桁を切り捨てた3番目のジンバブエドルに切り替わるが、まだまだこんなもので済まない。ついに2009年1月に100兆ジンバブエドルが発行、2月に12桁切り捨てたデノミが実施される。

 この12桁の切り捨ての時の記事があるが、中央銀行のゴノ総裁のコメントがすざまじい。

「昨日までは兆単位のお金を持っていた資産家たちよ。悪いが、今日は好きな飲み物も買えないよ」

https://www.afpbb.com/articles/-/2567143

 1月にはすでにドルなどの自国通貨以外が使えるようにして、この停止に向けてさまざまな手段が講じられていたようだ。最後は軍隊や公務員の給料を米ドルで支払うということで停止が確定した。

 この通貨停止に至る一連の対応でゴノ総裁はイグノーベル賞というノーベル賞のパロディー(人々を笑わせ考えさせた研究 に与えられる賞)を授与されている。

 この受賞理由が実にユーモアとウイットにあふれている(経済賞ではなく数学賞というのもひねりが効いている)。

「1セントから100兆ジンバブエ・ドルまでの幅広い額面の中央銀行券を印刷させることによって、非常に大きな数字にも対応できるようになるための、簡単で毎日できるトレーニング法を、ジンバブエ国民に与えたことに対して」

https://ja.wikipedia.org/wiki/イグノーベル賞受賞者の一覧#2009年

 このイグノーベル賞は日本人も多く受賞している。「変人とイノベーション」というテーマにも繋がる点があり、面白いのでまたどこかで取り上げたい。

「ゴルゴ13」にこの実話に基づいた作品がある。12億円相当でゴルゴが受けた依頼が10分の1の1200万円になってしまうという話なのだが、日本が誇る最強のグローバル人材キャラのゴルゴ(デューク東郷)の美学がいかんなく発揮された秀作だ(単行本187巻収録)。

 インターネットの登場からはじまったデジタル化の波はサイバー空間だけでなく、今や社会を隅々まで変えていこうとしている。その中でこの数年でもっともわれわれの行動を変えたのはこの通貨による決済のデジタル化なんだと思う。

 極端な話だが、デジタルでは10桁の切り捨てとか、通貨の切り替えとか交換とかも、一瞬でできてしまう。

 デジタル通貨や暗号資産はますます普及していく。法定通貨のデジタル化が進めば、19世紀から続く国家を前提とした社会体制や経済活動や生活そのものも大きく変わっていくだろう。

 すでに多くの人々のマインドの中にある最優先のステークホルダーは地球環境と地域社会に変わった。

 経済的な豊かさを追い求めることよりは、家族や身近な仲間と共にどう持続可能な社会を実現していくかに日々の関心が変わりつつある。そういった観点から通貨や暗号資産のダイナミックな動きに適応していくのも良いのではないだろうか。

https://www.amazon.co.jp/.../ref=as_sl_pc_as_ss_li_til...

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?