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映画「総理の夫」感想

※ネタバレありありです。

もっとコメディだと思っていました。(第一声)
 言葉が難しいのですが、これはけっして思っていたよりも重い内容だったとか、暗い内容だったとかそういう意味では無く、想像していたよりずっとずっと、私たちを励まして、前を向かせてくれる作品でした。
 相馬凛子さん(中谷美紀)と日和さん(田中圭)、最初からとっても素敵であたたかくて可愛らしくて、カップルのような甘さの中に落ち着きもあってちゃんと夫婦で、安定してる二人でしたよね。住んでいる家もおとぎ話に出てくるようなすごいお家で驚きました。日和さん、観る前は可愛らしい方だなっていう印象が強かったのですが、観てからだとそこに重なるものがすごい。まず、とても上流階級にいる方なんだなと言う雰囲気。でも普通感じてしまいそうな嫌味が全く無いんです。ファンなので言い切りますが、田中圭だから出せる日和さんの人間性です。これぞ醍醐味。これまでも愛されて育ってきて、これからも愛されてゆく人。お坊ちゃまで頼りなくてマザコンな感じもするんだけど、なんだか全部「仕方ない人だなあ」と笑えてしまえるような、とても人たらしな匂いもしました。
「凛子が総理大臣になったのは必然でしょ。でも凛子は男性じゃなかった。それはただの偶然だ。違う?」
「今日家に帰って来て、日和くんがいてくれてよかった」
 (一回しか観られていないのでセリフはたぶん違いますごめんなさい)ここのやりとりは甘くってむず痒いんだけど、キラキラしていて尊かったなあ。お互いを愛していて大切に思っているのが、言葉、仕草、眼差し全てから伝わってきて、じんわりきゅんとしました。
 凛子さんはイメージ通りで、名の通り凛としていて、強くてカッコよくて美しくて、イメージ以上に清廉であたたかい人でした。

脇を固める俳優陣が豪華すぎる。
 ほんっとに豪華すぎました。富士宮さん(貫地谷しほり)、バリバリの政界キャリアウーマンと思っていたけどまさかのシングルマザーでスカウト枠だったとは。あんなふうに声かけられたらそりゃあ凛子さんに心酔しちゃうよね。私もしちゃう。日和さんの仕事仲間もアットホームで可愛かった~! わちゃわちゃ! 日和さんに対して良い意味でフラットに接してて安心して観られました。相馬崇子さん(余貴美子)や凛子さんが来たらわかりやすくぺこぺこする所長(木下ほうか)はハマってた。日和さんの研究所メンバーの伊藤さん(松井愛莉)、幡ヶ谷さん(長田成哉)、窪塚さん(関口まなと)も豪華だったしキャラ立ちもしてたので、ドラマだったらそれぞれにもっとスポットライトが当たったのかな。これは島崎君(工藤阿須加)や相馬多和さん(片岡愛之助)もそうなんだけど。豪華すぎる故、この役をもっと深堀したシーンも観たかった~! ってなる。特に伊藤さん、どうしても同情より切り替えの早さが気になっちゃうw連ドラの中で一話まるまる伊藤さん回にして過去とかもっと詳細に描写されたら印象もだいぶ変わるなあとか。まあ映画の中でまとめるとあの形がすっきりするだろうなというのもわかるので! これは私が総理の夫をもっと観たいという欲です。脱線!w
 あ、阿部久志さん(米本学仁)の敵から味方への流れはすごく良かった! わかりやすいし、キャラが憎めなくて良い!(語彙力が無い)崇子さんもそうだと思ってたけど、ラストかっこよかったわあ。日和さんをあんなにあたたかく育てていただきありがとうございます。また脱線。

この夫婦はカッコいい
 凛子さんが総理大臣になってから、野鳥の観察ができる我が家を離れて、慣れない選挙活動を手伝って、楽しみにしていた出張にも行き辛くなった日和さん。環境が変わればそれに順応していくのが大人です。それでも不安と寂しさは抱えていたはずで。凛子さんが頑張っているのだからと弱音を吐ききれず、脅しに屈しそうになったときに凛子さんの姿を観て行動を改めて、まっすぐに頭を下げる日和さんがめちゃくちゃかっこよかった。凛子さんの記者を持ち上げて懐に入れる手腕も、女性を赦すだけでなく包み込んで掬い上げる様も、理想のリーダーの姿でめちゃくちゃかっこよかった。かっこよさの種類は違うけど、二人とも自分の中の守るべきものをしっかりと守っていて、本当に美しい夫婦だなあと感嘆です。
 凛子さんが妊娠して、それを全力で喜んだ日和さん。このシーンは泣けた。あんなふうに新しい命の芽生えを手放しで喜んでもらえたのは絶対に凛子さんの力になったはず。凛子さんが「女性リーダーの妊娠出産は世界でも珍しいことじゃない。産休もとれる。総理代理も立てられる」と言い切ったときは日和さんと同じく嬉しくて、きっと凛子さんが総理大臣になったら、今観ている私たちも理想とする世の中を作ってくれるんじゃないかなと思えました。
 だから、凛子さんが総理大臣を辞任すると決めたとき、私はとても悲しかった。やっぱり女性は妊娠したら仕事を続けられなくて、周りの人に謝って、何にも悪くないのにご迷惑をおかけしましたって頭下げて、自分の夢も諦めなきゃいけないのかなって。映画だし、ちゃんと物語がこれから展開していくってわかっているけどそれでも悲しくて、わざと凛子さんの妊娠をリークした富士宮さん(貫地谷しほり)もホントにそんなやり方しかなかったのって感じだけど切なくて、何より凛子さんが「気付いていたけど見て見ぬふりしてた」って泣くのが辛かった。
「日和くん、いつもみたいに大丈夫だよって言ってよ」と取り乱した凛子さんの剥き出しの弱さ。それを日和さんに晒している様子にほっとして、その嘆きの痛ましさに胸がぎゅうっとなりました。どれだけの重荷を背負いこんでたんだろう。どういう思いであんなに堂々と立って、胸を張って前を向けていたんだろう。国民の未来、大切な家族、自分の理想。それを追いかけて追いかけてここまできて、手が届きそうなところで立ち止まらなきゃいけないもどかしさ。お腹にいる新しい命は凛子さんにとって何よりも大切で愛おしいのは間違いないはずなのに、それを理由に諦めなきゃいけないものがあることへの葛藤と苦悩。誰を責めたらいいのかわからない中で、きっと凛子さんは自分だけを責めていました。

総理の自慢の夫です
 辞任の発表時、凛子さんの元へ駆けこんだ日和さんの言葉。
「君の決断を全力で応援する」
「君は僕に迷惑をかけたと言ったけど、僕だって君の強さに甘えてた」
「大丈夫じゃない日があったっていいんだ」
「これは次へのステップだよ」
「君は、僕たちは何度だって大空へ羽ばたくことが出来る」
「そういう未来を、君が創ったんだ!!」
 この言葉を凛子さんに伝えた日和さんのあまりのあたたかさに涙が止まりませんでした。
 日和さんが凛子さんにかけてきた「凛子なら絶対大丈夫」という言葉に、凛子さんは確かに救われていたはずなんです。だけどその言葉に縛られていた部分が少しあったのもきっと事実で。それに日和さんが気付き、信頼から伝えていたであろうその言葉を、自分を誤魔化すことなく凛子さんへの甘えだったと言いきったのって、ものすごい、ものすごいことだと思うんです。凛子さんを確かに支えていた日和さんからの言葉を、日和さん自身が受け止めて反省して、「大丈夫じゃなくていい」という言葉に変えました。あのとききっと日和さんは、「絶対大丈夫」という言葉に縋っていた凛子さんごと、その言葉で抱きしめたんですよね。そしてちゃんと、今までの凛子さんの頑張りを「未来を創った」という言葉で認めてる。なにもかもですよ。なんだこの包容力は。極めつけの日和さんの「僕がそばにいるから」は、世界の終わりに聞いたってこれ以上なく幸せになれる響きで、そりゃあ凛子さんも全国民に「私の愛する夫です」と紹介したくなるよ。見て見てしたくなるよ。自慢したくなっちゃうよ!!!
 日和さんが言った中にあった、「凛子が理想とする未来に、凛子だけ外れるのはおかしいよ」という言葉。これもまさにそうなんだよな。女性が妊娠出産を経ても働きやすく、未来に希望を持って前を向ける世界。それを掲げていた凛子さんが、自分の妊娠で諦めるものがあるのはおかしい。そう感じていた私の心も、日和さんの「これは後退じゃない、前進だ」という言葉に救われました。妊娠出産だけじゃありません。何らかの理由でやむなく休んだり立ち止まる選択をしても、また前と同じように飛べる。未来に向かっていけるんだよって、励ましてもらえた気がしました。

miwaさんありがとうございます
 しばらく後の未来で、凛子さんと日和さんがオープニングと同じような朝を愛しい我が子と迎えます。凛子さんが作った朝食を、「美味しそう」と食べる日和さんもすごくほっこり。そしてまたオープニングと同じ凛子さんのセリフ。
「もしも私がまた総理大臣になったら、何かあなたに不都合がある?」
 冒頭ではわけがわからずに戸惑うばかりだった日和さん。だけどラストでは嬉しさの滲む笑顔でした。そこからmiwaさんの「アイヲトウ」でしょ。ぐわんって手を引かれましたよ、明るい未来に。私最初ね、総理の夫の宣伝とかの印象で、曲はもっとバラードというか、ローテンポの曲の方が合うんじゃないかなと思ってたんですね。大馬鹿野郎でした。アップテンポで明るいあの曲が、凛子さんが妊娠出産子育てを経ても再び総理大臣になれる明るい未来を想像させるのと同時に、私たちの未来も明るいような錯覚さえさせてくれる、ほんとにピッタリの曲でした。総理大臣を辞任して、穏やかに暮らして終わりじゃない。新たな経験を経てさらに強く美しくなった凛子さんが、今度こそ最後まで日本を引っ張っていける未来が見える気がしました。日和さんの日常も次はきっと守られます。そういう未来を、凛子さんが創って行くんですよね。
 一緒に観に行った米寿の祖母も「ああ~よかった。良い映画だったねえ」と泣いてました。ほんと、良い映画でしたね。

蛇足
 個人的に原久郎さん(岸部一徳)を信じ切らなくなる日和さんの成長(?)もとても好きです。バスの中で「原さんて凛子の味方でしょ?」ときょとん顔したときは「そんなわけないじゃーん!」と思わずツッコみましたから(心の中で)wああいう日和さんもきっと凛子さんにとっては、愛しくて大好きな日和さんなんでしょうね。でもちょっとずつ現実を知ってちょっとずつ成長していく日和さんもまた眺めたいですね。そんな未来もあきらめない!! ありがとうございました。
 

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