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1日15分の免疫学(117)自己免疫と移植⑩

臓器移植と適応免疫

本「臓器移植での障害の1つに適応免疫応答がある」
大林「T細胞が移植片を攻撃しちゃうんだよね、自己ではないから

◆復習メモ
T細胞自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。MHC分子抗原ペプチド複合体を認識する。
細胞表面分子CD4を発現するT細胞は、CD4T細胞とも呼ばれ(ヘルパーT細胞や制御性T細胞に分化する)、MHCクラスⅡ分子を認識する。
CD8を発現するT細胞はCD8T細胞とも呼ばれ(細胞傷害性T細胞に分化する)、MHCクラスⅠ分子を認識する。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。

MHC分子主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complex。ほとんどの脊椎動物の細胞にあり、細胞表面に存在する細胞膜貫通型の糖タンパク分子。ヒトのMHCはHLAと呼ばれる(ヒト主要組織適合遺伝子複合体Human Leukocyte Antigen)。
MHC分子は2種類あり、クラスⅠ分子はほとんどすべての細胞に発現しているが、分子はプロフェッショナル抗原提示細胞(樹状細胞、マクロファージ、B細胞)といった限られた細胞にしか発現していない。

本「この拒絶反応は、移植片上の同種異系(アロ)抗原に対する免疫応答
大林「英単語のイメージがしっくりこないからアロってなんだっけ?になる。アロは非自己、アロは非自己…」
allo:非自己

本「アロ抗原とは、同種の異なる個体間構造が異なる蛋白質。有核細胞のある組織が移植されると、高度な多型性をもつMHC分子を認識するT細胞によって免疫応答が惹起される」
大林「その多型性っていうのもいまいちわからない」
※多型性(たけいせい):同一種の生物でありながら性質が多様性を示すこと。

Wiki「生物において、本来同一であるはずのものが不連続的に異なった形態を示すことを指す。たとえば同一種の個体間で形態が異なる場合や、個体の中に複数の同一の器官があって、それらの間に差異がある場合など。多型は表現型多型と遺伝的多型に分けられ、遺伝的多型とは同じ生物種の集団のうちに遺伝子型の異なる個体が存在する…」

大林「ふーむ、なんとなくわかった」

大林「それで、同種……つまりヒト同士でも、MHCは異なるから移植片が攻撃されてしまうわけだよね。だからMHC(ヒトの場合はHLAと呼ぶ)が完全一致してない限り攻撃されてしまう」
本「MHC分子が兄弟姉妹等で完全一致していてもそれ以外の遺伝子座の違いによって拒絶反応は惹起される」
大林「判定が厳しい…流石は推し!そこにしびれるあこがれるぅ!」

本「最もよく行われている移植である輸血では、赤血球血小板がMHCクラスⅠ少量しか発現しておらず…」
大林「待…?!発現しとるんかい!発現してないって習ったぞ?!」
本「クラスⅡはまったく発現してないよ」
大林「簡易な教科書では省かれてる情報かぁ。Ⅱはなくて、Ⅰも少ないから大丈夫ってこと?」
本「まぁ、血小板を繰り返し投与する場合、血小板のMHCクラスⅠに対してつくられる抗体は問題になりうる」
大林「そうなんだ。大変だ」

本「臓器移植の基本はマウスの皮膚移植で明らかにされた。同一個体で皮膚を異なる場所に移植(自家移植autograft)と、遺伝子に同一の異なる個体への移植(同種同系移植syngeneic graft)は100%成功するが、同種異系(アロ)allogeneicの個体間での移植(同種異系移植allowgraft)は、約10~13日後には拒絶される」
大林「移植された皮膚片が非自己とみなされて攻撃されてしまうわけだ」
本「この反応は急性拒絶acute rejectionと呼ばれる。T細胞のないヌードマウスでは…」
大林「起こらないんだよね」
本「そう。だから移植を受けたヌードマウスにT細胞を移入すると拒絶が起きる」
大林「そういう実験もしたんだ……いや必要な実験だけど」

本「移植片に拒絶をしたレシピエントに同じドナーからの皮膚を再び移植するとより速く6~8日拒絶が起きる。これを急速拒絶accelerated rejectionと呼ぶ」
大林「まさに適応免疫の反応じゃん!二度目は速い!」
本「第三者の皮膚であれば初回と同じく10~13日かかって拒絶される」
大林「だろうね」

本「同種の異なる個体間で異なる抗原はアロ抗原alloantigen、これに対する免疫応答をアロ反応alloreactive responseと呼ばれ、アロ免疫応答は移植片上の非自己のアロMHCに対して起こる」
大林「MHCクラスⅠはほとんどの有核細胞に発現してるから、移植への拒絶は不可避…」
本「MHCは移植拒絶での中心的役割を担うのでそう名付けられた」
大林「そうなんだ?!えぇと、主要組織適合遺伝子複合体major histocompatibility complexでしょ、組織適合に関係する主要な遺伝子でコードされる複合体…みたいな感じかな???」

移植治療と免疫抑制

大林「MHCが一致する確率はすごく低いから、免疫を抑制する方法が色々進化してきたんだよね」
本「そうだね。免疫抑制が進化して、ほとんどのアロ移植片はMHCを一致させる重要度は下がった。でも骨髄移植では重要なままだね、MHC遺伝座が完全一致していても拒絶を防ぐことができない」
大林「MHC以外の何かが異なるからか…」
本「一卵性双生児を除く兄弟姉妹では、MHCが一致していても必ず拒絶反応が起こる。これはMHC以外の蛋白質抗原の違いに起因している」
大林「一卵性双生児は大丈夫?一覧双生児はお互いが自己?」
本「一卵性双生児間の骨髄移植なら大丈夫。そうでないなら免疫抑制剤がずっと必要」
大林「それは大変……免疫抑制剤がきれたら拒絶反応が起きてしまう」
本「ただ、MHCが一致する兄弟姉妹間での移植片への拒絶反応緩慢だよ」
大林「緩慢?」
本「ゆっくりと移植片が拒絶される」
大林「ゆっくりと……それはどんな感じで進行するの?」
本「MHCクラスⅠ分子やⅡ分子は、細胞内でつくられる自己蛋白質由来のペプチドを提示する」
大林「そうだね、もしその細胞が感染していたり、異常な状態なら、その提示するペプチドにそれが表れるから、排除対象となる」
本「もし、この蛋白質が多型性を示すなら、同種の異なる個体では異なるペプチドになるよね?」
大林「なるほどそういうことか!」
本「そのような蛋白質をマイナー組織適合抗原minor histocompatibility antigenと呼ばれる」
大林「ほぉ」
本「そのような抗原の一揃いはY染色体にコードされていて、H-Yと総称される」
大林「Y染色体って男性にしかないやつじゃん。女性はXX、男性はXY」
本「そう。雌にY染色体遺伝子は発現しないので、雌は雄に反応するが、雄は雌に反応しない」
大林「ふむ…?」
本「移植組織片の細胞の多くはマイナー組織適合抗原を発現しているので、これらの抗原に対して反応が起きて破壊されてしまう」
大林「え?雌には発現しないのではないの?女性からの移植なら大丈夫ってことにならないの?よくわからんよ」
KAKEN「Y染色体特異的マイナー組織適合抗原であるH-Yペプチド男性にのみ発現し(略)HLA一致からの同種骨髄移植後に慢性骨髄性白血病リンパ性急性転化を来した男性患者(HLA-A2陽性)を対象に…」

大林「えぇ、女性から男性への移植だから、移植編にはH-Yは発現してないんでしょ?わからん……えぇと、まず、この症例は、治療のために骨髄移植したら慢性骨髄性白血病リンパ性急性転化になったって話だよね、そもそも急性転化って?」
愛知県がんセンター「慢性骨髄性白血病は、ゆっくり病気が進行する「慢性期」が続いてから、「移行期」を経て「急性転化」という状態になる。急性転化になると、機能をもたない若い白血病細胞が無制限に増え続け、急性白血病のような状態になります。」

大林「急性転化云々はわかった。なんでそれが治療である骨髄移植後に起きちゃったんだ?男性にしか発現しないっていうのはH-Yというペプチドだけで、他にもマイナー組織適合抗原があるってことか?」

本「自己蛋白質は通常、細胞質のプロテアソームで分解されてペプチドとなり、MHCクラスⅠ分子と結合して細胞表面に提示される」
大林「ふむ」
本「多型性を有する蛋白質がドナーとレシピエントで異なっていると、レシピエントのT細胞が非自己と認識して免疫応答が起こる。このような抗原をマイナー組織適合抗原と呼ぶ」
大林「……つまり、なるほど、そしてマイナー組織適合抗原のひとつとしてH-Yがある、という理解でよろしいかな?書き方がわかりにくいよ」

J-stage「マイナー組織適合性抗原とは, 患者細胞表面のHLA上に提示される細胞内タンパク由来のペプチドのうち, 遺伝子多型により患者とドナー間で異なるアミノ酸配列をもち,非自己のTリンパ球に認識されるもの」

大林「すげぇ、組織適合性の学会あるんだ…」

今回はここまで!
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