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1日15分の免疫学(130)免疫応答の操作⑧

入口の防御か全体の防御か

本「理想的なワクチンは、感染源が侵入する場所防御反応を誘導するもの」
大林「侵入個所を防御出来たら感染しないもんね」
本「なので、病原体の侵入経路である粘膜の免疫を刺激するのが重要な目標となる」
大林「粘膜に直接といえば、経鼻ワクチンかな…」
本「そう。ほとんどのワクチンは注射で、痛みを伴うので接種率が減るし、人件費含む経費もかかる上に、大半の病原体の侵入ルートとは異なるので適当な免疫応答を刺激するのに最も効果的とはいえないかもしれない
大林「病原体の多くは粘膜からはいってくるからねぇ」

本「インフルエンザウイルスの弱毒化ワクチンを鼻腔内投与すると、粘膜での抗体産生が誘導される」
大林「それなら侵入経路での防御ができるよね」
本「上気道感染の制御においては、全身循環の抗体より効果的
大林「ん?含みをもたせたな?」
本「ワクチン注射で産生される全身循環の抗体はインフルエンザによる重篤化や死亡原因となる下気道の感染制御に有効」
大林「なるほど、粘膜免疫だけだとそこを突破してからの防御は不十分というわけか」
本「インフルエンザは世界的流行がありうるから、軽症の上気道感染予防よりも下気道感染を予防するデザインとなっている」
大林「ほぉ~なるほど、そういうことも盛り込んで作られてるのか」

ワクチンの効果を高めるには

本「可溶性の抗原経口で提示されるとしばしば免疫寛容が起こる」
大林「口から食べ物が入ってくるもんな」
本「それにもかかわらず、粘膜免疫は経口ルートで侵入する病原体の感染症に対応し、排除する」
大林「言われてみればたしかに。どうやって区別してるのかがわかれば、ワクチンを作るのに役立ちそう」
本「微生物由来の蛋白質で、免疫応答を刺激するものが注目されている。粘膜面で非常に免疫原性が高い蛋白質のグループがあ。たとえば、大腸菌の熱感受性蛋白質や百日咳毒素などの蛋白質には毒素活性を除いてもアジュバント(免疫賦活)活性が残ることがある」
大林「ほぉ~それを使えば免疫応答を刺激できる?」

本「他のワクチン戦略として、病原体自体を使わずT細胞が認識するエピトープペプチドを同定する方法がある」
大林「なるほど、T細胞が認識して活性化するエピトープがわかれば、それをワクチンに使えるね」
本「でも欠点もある。ヒトのMHC領域には顕著な遺伝子多型があるため、多くの人に有効なワクチンにするには、防御に働くいくつもの異なるぺプチド必要となる。また、生理的な抗原のプロセシングを経ないので、短いペプチドがMHC分子上でいくらか直接、交換反応を起こす可能性がある」
大林「よくわからん。分子レベルの話だな……」
本「必要な抗原ペプチドが樹状細胞以外の細胞のMHC分子に直接乗るとT細胞に寛容を誘導するかもしれない」
大林「補助刺激がないからか」
※T細胞の活性化には、樹状細胞による抗原提示と補助刺激の両方が必要。
本「MHCクラスⅠ分子に提示されるためには、特殊なタイプの樹状細胞の中でクロスプレゼンテーションを受ける必要がある」
大林「なんかどこかで勉強したな、それ。そもそもクロスプレゼンテーションがいまいちよくわからないんだけど、この前読んだ本の説明がわかりやすかった」

免疫をあやつる「MHCにはクラス(ッー)とクラス1(ワン)の二つがある。
細胞の外(外因性)にいる病原菌はMCクラスのお皿に乗せて、細胞の中(内因性)で生じたウイルスやがん細胞の異常な蛋白質はMCクラス1のお皿に乗せてT細胞に知らせる。樹状細胞は食べた病原体の「断片」を、もう一つのお皿であるMHCクラ1にものせて細胞表面に現わす(クロスプレゼンテーションと呼ぶ)」
大林「外因性の抗原を、クラスⅡだけでなくⅠにも載せて両方に出すからクロスプレゼンテーションなのかなぁと」

◆復習メモ
クロスプレゼンテーションcross-presentation:MHCクラスⅠ分子上への細胞抗原の提示経路のこと。

細胞傷害性T細胞初回の活性化には、樹状細胞が感染して抗原提示をするか、樹状細胞が感染して死んだ細胞をファゴサイトーシスし、クロスプレゼンテーションと呼ばれる抗原処理をして提示をする。クロスプレゼンテーションを最も効率よくできるタイプの樹状細胞がいる。

T細胞領域には、相互連結樹状細胞interdigitating dendric cellと呼ばれる骨髄由来の樹状細胞のネットワークが存在し、T細胞の集団の中に連結して織り込まれている。ここにいる樹状細胞は主に2つのサブタイプが存在する。1つはCD8のα鎖が発現し、もう1つはCD8陰性でCD18とCD11bの二量体を発現している。

本「本物の感染が免疫を活性化するのを真似るためにはワクチンにさらなる要素を加える必要がある」
大林「アジュバントですね!」
本「adjuvantは抗原の免疫原性を高める物質と定義される。動物実験ではいろいろ使われているけど、ヒトに対しては、ごくわずかの種類しか使用は許されていない」
大林「安全性の問題かな」
本「遺伝子治療で細菌のプラスミドを使ったところ、いくつかは免疫応答を刺激することがわかった。ウイルス抗原をコードする DNA をマウスに筋肉内注射すると抗体産生細胞傷害性 T 細胞が誘導され、ウイルスの感染から守られることがわかった。筋肉を傷害することも感染が起こることもない。この免疫法は DNA ワクチンと呼ばれる」
大林「おいおい なんかすごい聞いたことある話なんだけど」
本「私の原著は2016年出版だよ」
大林「その6年後ぐらいに RNA ワクチンが大規模に接種される展開がきたんだよ!タイムラグがつらい!」

免疫が病原体を排除できない慢性感染症について

本「免疫系が病原体を排除できず感染が続く慢性感染症がたくさんあり、二つに分けることができる」
大林「ほぉ」
本「一つは免疫応答が起きているのに排除できないもの。もう一つは,免疫応答がほとんど起きないもの」
大林「1つ目のは敵が手ごわいってことかな」
本「2つ目のは、ほとんどがウイルスによるもの。病原体が見えていなくて駆逐できない」
大林「見えないの?!」
本「例として性感染症の単純ヘルペス2型。神経に潜伏感染して陰部ヘルペスを再発する。ウイルス蛋白質であるICP-47がTAP複合体に結合し、感染細胞内でペプチドが小胞体に送られるのを阻害する」
大林「あぁ~!なるほど、それで抗原ペプチドが感染細胞表面のMHCクラスI分子で提示することができないから、CD8T細胞に伝えられない、だから見えないってことか!」

これまでのまとめ

・ワクチンは免疫系の特異性と誘導性を活かし、いくつかの疾患を根絶、実質的に排除した。
・まだ有効なワクチンのない感染症もある。
・最も効果的なワクチンは弱毒化ワクチンだが、感染のリスクがある。
・新たな技術として病原体の遺伝子改変ワクチンが開発されつつある。
・ワクチンの免疫原性はアジュバントに依存することが多い。
・経口ワクチンの開発は病原体の主な侵入経路である粘膜免疫を刺激するので重要。

第16章まとめ

免疫学の最も大きな課題は、望ましくない免疫応答は抑え、有益な反応は起こすようにコントロールできること。
現在の方法では全体を抑える薬剤を使うため,副作用が大きい。
・免疫系の抑制の仕組みを解明して特定の反応だけを操作することが可能になってきた。
腫瘍や感染性微生物への理解を進めることで、がんや感染症で免疫系をよりよく動員する戦略も可能になってきた。
・免疫誘導や免疫系生物学についてもっと学んでヒトの病気に応用する必要がある
「Janeway's免疫生物学原著第9版」完

大林「マイペースに読んでたら130週かかったってことか」
???「ようやく私の順番が来たね……」

次回からは「1日20分の免疫学」を始めます。

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