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1日15分の免疫学(127)免疫応答の操作⑤

腫瘍拒絶抗原の分類

本「腫瘍拒絶抗原はいくつかに分類できる」
大林「腫瘍を拒絶する抗原……T細胞が排除対象として認識する抗原ってことかな」
WEB「ヒトのメラノーマ細胞MHC上に提示され,T細胞によって認識される癌抗原の遺伝子.MAGEと名づけられ,メラノーマだけでなく各種の癌にも発現することが判明した.正常細胞ではMHCを発現しない精巣の細胞にのみ発現し,現在ではCancer-Testis抗原群として扱われている」

大林「マゲって読むの?何の略?」
WEB「melanoma antigen gene」
大林「Melanoma Antigen GEneか!インターネット検索ではMAGEの読み方がわからんなぁ……動画があれば助かるんだけど」
そのうち探してみよう

大林「で、腫瘍拒絶抗原は分類できるわけね」
本「1つ目は、厳密な意味での腫瘍特異抗原tumor-specific antigen。点突然変異により、ペプチドが新たにMHCクラスⅠ分子に結合する場合もある。正常な蛋白質が新たに抗原性を獲得することからネオエピトープと呼ばれる」
Wiki「点突然変異(てんとつぜんへんい)あるいは1塩基置換(1えんきちかん):遺伝物質DNAあるいはRNAの1ヌクレオチド塩基を別のヌクレオチド塩基に置換わる、つまりDNAやRNAのG、A、T、Cのうち一つ(一塩基)が別の塩基に置き換わってしまう突然変異のこと」
大林「がん細胞って不安定だもんな。それで変異で1塩基が置き換わって、それによってT細胞に標的として認識されるようになってしまうわけだ」

本「2つ目は、腫瘍精巣抗原cancer-testis antigen」
大林「さっきのMEGAか。精巣でのみ発現する抗原なんだよね」
本「そう。正常ならば精巣の生殖細胞のみに発現する蛋白質。男性の生殖細胞はMHC分子を発現しないのでそれらに由来する蛋白質がT 細胞に提示されることはない」
大林「がん細胞に起きた変異でその蛋白質が提示されちゃうようになったってことか」
本「腫瘍細胞では腫瘍精巣抗原をコードする遺伝子の活性化を含む広範囲な遺伝子の発現異常が起こる」
大林「本来は起きないような 遺伝子の活性化が起きて T 細胞に提示されちゃうわけだ」

本「3つ目は分化抗原differentiation antigen。特定の組織で発現する遺伝子にコードされる」
大林「これは2つ目とMEGAと話が同じでは…」

本「4つ目は 正常細胞に比べて 腫瘍細胞で高発現する抗原」
大林「ほう」

本「5つ目は異常な翻訳後修飾を受けた分子からなるもの。例えば糖鎖修飾が不十分なムチンであるMUC-1」
大林「分類多いな、なんのための分類なのさ」
本は答えない!!!

本「6つ目は悪性黒色腫で起きる遺伝子から転写されたmRNA のイントロンがスプライシングされずに残ったものにコードされる新規蛋白質」
大林「なんとなくはわかる…」
※イントロン(intron):転写はされるが最終的に機能する転写産物からスプライシング反応によって除去される塩基配列。 つまり、アミノ酸配列には翻訳されない。
※スプライシング:DNAから転写されたメッセンジャーRNA(mRNA)前駆体に含まれるタンパク質合成に不必要な部分(イントロン)を除き、必要な部分(エキソン)を連結する反応

本「7つ目はウイルスのがん遺伝子にコードされる蛋白質」
大林「へぇ」

腫瘍に対する免疫制御

本「腫瘍を免疫で制御するにはCD4T細胞CD8T細胞両方が重要である可能性が高い」
大林「直接攻撃できるのはCD8T細胞で、CD4T細胞はCD8T細胞を活性化できるもんね」
本「CD4T細胞免疫記憶の樹立に一役を担うよ」
大林「そうなんだ、それ詳しく知りたいなぁ」

本「また、CD4T細胞はTNF-αといったサイトカインで腫瘍細胞を殺すかもしれない」
大林「出たよ、CD4T細胞、実は攻撃できるかも説。萌えるわ~」

T細胞の養子移入法について

本「T細胞の養子移入法は、腫瘍特異的 T 細胞体外大量に増やして患者に注入する」
大林「養子移入法って英語では何て言うの?」
原著「adoptive T cell therapy」
大林「直球だ」

本「IL-2や抗CD3抗体で処理する等をしてin vitroで増やし、アロの抗原提示細胞を加えて補助刺激シグナルを与える。患者を免疫抑制状態にしてIL-2を全身投与すると より効果的」
大林「へぇ~」
※in vitro:試験管内 ⇔ in vivo:生体内
※アロ:同種 (例:ヒトからヒトへの移植はアロ移植)
※IL-2:インターロイキン2


本「もう一つのアプローチとして腫瘍特異的 TCR の遺伝子レトロウイルスベクターを使って患者の T 細胞に導入して患者に戻す方法」
◆復習メモ
TCR(T細胞受容体T cell receptor) :T細胞は細胞ごとに異なる受容体をもつ。未知の病原体にも対応できるよう、T細胞は遺伝子再編成により膨大なパターンを獲得できるが、その分、自己にある蛋白質に反応するTCRもできてしまう。自己反応性のT細胞の多くは、胸腺や末梢で排除される。
TCRにフィットする抗原(排除対象)と結合し、他の条件もクリアして活性化した場合は、そのT細胞はクローン増殖して抗原を排除する。

レトロウイルス:RNAウイルスの一種で,ウイルスRNAから逆転写酵素によりDNA合成し,宿主ゲノムに組み込まれる
ベクター:遺伝子の運び屋のこと。ラテン語の「運び屋 (vehere) 」に由来。

大林「本人のT細胞なら拒絶反応も少なくて安全だね」
本「他にも、本人のT細胞に遺伝子を導入する養子免疫療法があるよ。導入するのはキメラ抗原レセプターchimeric antigen receptor」
大林「きたあああ!CAR-Tだあ!」
本「CARは抗原特異的な細胞外ドメインを、活性化シグナルと補助刺激を同時に供給する細胞内ドメインにつないだ融合蛋白質。レトロウイルスベクターを介してT細胞に導入する」
大林「よくわからん」
本「これは、腫瘍化した B 細胞が急激に増殖する急性リンパ性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia:ALL)の多くの患者で 臨床的完全寛解を達成するのに有効だった」
※Acute:急性の
※Lymphoblastic:リンパ芽球性の
※Leukemia:白血病

大林「ヒューッ!CARのくっついたCD8T細胞が容赦なくB細胞を攻撃!」
本「正常な B 細胞も攻撃してしまうのでIVIGが必要になるけどね」
静注用免疫グロブリン製剤(IVIG=Intravenous Immunoglobulin)

抗体を使った治療

本「腫瘍特異抗原が腫瘍細胞表面に発現していれば、抗体を使って、キラー細胞や毒素、放射性核種の活性化の矛先を腫瘍に特異的にむけることができる」
大林「単クローン抗体ですね!待って、キラー細胞はわかるけど毒素とか放射性核種ってどういうこと?」
本「まず、腫瘍特異抗体によってNK細胞を動員してFcレセプターを介して活性化して腫瘍細胞を溶かしうる」
大林「それはわかる。毒素と放射性核種について知りたい」
本「抗体毒素を連結させ、腫瘍細胞に結合してエンドサイトーシスにより…」
大林「そういうことか!腫瘍細胞に毒素を取り込ませるわけね!」
本「抗体に毒素を連結するのは免疫毒素immunotoxinと呼ばれる。よく使われる毒素はリシンAと緑膿菌毒素」

本「抗体放射性同位元素を連結させて腫瘍細胞に結合すると、十分な放射線量が届き、近傍の腫瘍細胞にも致死量の放射線量が届く」
大林「ヒィィ〜すげぇ!」

今回はここまで!
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