見出し画像

1日15分の免疫学(113)自己免疫と移植⑥

補体沈着の弊害について

本「組織の細胞に自己抗体のIgGIgM結合すると、様々な機構によって炎症性傷害が誘導される。例えば、補体沈着
大林「前回も言ってたね。補体が沈着するとなんか都合悪いの?」
本「有核細胞補体に対する抵抗性をもつって言ったよね?」
大林「うん。補体のこと浮遊機雷みたいなイメージ持ってたんだけど、細胞たちに悪影響ないのって、ちゃんと細胞たちが防護服持ってたからってことだよね」
本「詳しく説明すると、補体による溶解への抵抗性で、細胞傷害閾値以下の量では膜侵襲複合体形成は強力な活性化刺激になる」
※閾値(しきいち):感覚や反応や興奮を起こさせるのに必要な、最小の強度や刺激などの(物理)量。

大林「んん?つまり……細胞を傷害…溶解するほどではない量の補体がくっついた場合は、警戒モードというか活性化スイッチが入って細胞がオラオラになる?」
本「細胞の種類によっては膜侵襲複合体の結合によりサイトカインの放出呼吸性バーストを引き起こしたり、プロスタグランジンロイコトリエン前駆体であるアラキドン酸の産生を誘導する」
大林「思い切り好中球と好塩基球の話じゃん」


本「多くの細胞は組織中に場所が固定されている」
大林「言われてみればそうだね。動き回る細胞の方が少ないか……免疫細胞もケモカインとかがあるからこそ誘導されてるし」
本「走化性分子と呼ぶよ。その1つに、自己抗体が結合することで活性化した補体から放出される補体フラグメントC5aがある。ロイコトリエンB4自己抗体に攻撃された細胞から放出される」
大林「へぇ」

自己抗体と自己免疫疾患

本「自己抗体が細胞表面のレセプターに結合することで起こる自己免疫疾患もある」
大林「抗体がくっつくってことは、その抗体にとっての標的細胞ってことだよね?貪食細胞に貪食されるからそりゃ自己免疫疾患だろよ」
本「抗体の標的になる=貪食の標的になるだけとは限らないよ。グレーブス病では、甲状腺細胞がその甲状腺刺激ホルモン(TSH)レセプター自己抗体によって刺激され、甲状腺ホルモンを過剰に作る。本来、甲状腺ホルモンが増えると下垂体からのTSH遊離が抑制されるが……」
※甲状腺機能亢進症:甲状腺が活発に活動し、血中に甲状腺ホルモンが多く分泌される病気で、バセドウ病やグレーブス病とも言われる。
※亢進:高い度合にまで進むこと。
※TSH:Thyroid(甲状腺)Stimulating(刺激)Hormone(ホルモン)

https://www.gifu-med.jrc.or.jp/thyroid/internal/hyperthyroidism.html
岐阜赤十字病院>甲状腺機能亢進症とは

大林「なるほど、普段は下垂体がTSH遊離させて甲状腺ホルモン作らせていて、抑制したいときは遊離させないという仕組みで、自己抗体がTSHレセプターを刺激する状態になると、下垂体によるコントロールが無意味ってことか!」

本「グレーブス病では自己抗体レセプターに対しアゴニストとして作用する。アンタゴニストとして作用する疾患もあるよ」
大林「アゴニスト……?なんでしたっけ?」
本「アゴニストagonistはレセプター刺激する。アンタゴニストantagonistはレセプターを抑制する」
大林「そうか、antはアンチか」
ant:母音かhの前で「反対」「対抗」「」の意を添える。(その他の文字の前ではanti-になる。)

Wiki「アンタゴニストは、拮抗薬(きっこうやく)、拮抗剤(きっこうざい)、拮抗物質(きっこうぶっしつ)、遮断薬(しゃだんやく)、ブロッカーとも呼ぶ」

本「細胞外マトリックス分子への抗体反応は激しい傷害を起こしうる」
大林「細胞外マトリックス分子とは…?」

細胞外マトリックス(Extracellular Matrix)とは生物において、細胞の外に存在する不溶性物質。細胞外の空間充填する物質であると同時に物理的な支持体の役割(例:動物の軟骨)、細胞-基質接着における足場の役割(例:コラーゲンフィブロネクチン)を担う。


本「グッドパスチャー症候群では、基底膜コラーゲンα3に対する自己抗体がつくられ、この抗体が腎糸球体の基底膜や肺胞基底膜に結合すると急速に死に至ることがある」
Wiki「基底膜(きていまく、basement membrane)とは、動物の組織において、上皮細胞層間質細胞層などのに存在する薄い膜状をした細胞外マトリックスのこと」

大林「抗体が基底膜に結合すると死ぬの?!一体何が起きるのさ?」
本「自己抗体基底膜結合すると、Fcγレセプターを介して単球好中球などの自然免疫系エフェクター細胞が結合して活性化し、ケモカインを放出して…」
大林「さらに単球と好中球集まってくる…」
本「そして激しい糸球体傷害が起きる。抗体は補体も活性化する」
大林「大炎上じゃん」

免疫複合体の沈着について

本「免疫複合体は、可溶性抗原に抗体が反応するとつくられる」
可溶性抗原:体液中に溶けている抗原

大林「免疫複合体も沈着が怖いよね…」
本「通常、免疫複合体は、赤血球単核貪食系細胞によって速やかに除去される」
大林「あぁ、そうか、赤血球もお掃除するんだよね。酸素と二酸化炭素の運搬だけじゃない赤血球」
本「赤血球補体レセプターをもってるからね。そして単核貪食系細胞補体レセプターFcレセプターの両方をもつ」
大林「どうして免疫複合体が沈着したりとかしてトラブル起きるのさ?」
本「通常の処理能力を超えた場合や、除去機構欠陥が生じた場合…レセプターの欠損とかね」
大林「なるほど」
本「SLEは免疫複合体の過剰産生や排除不全のどちらかまたは両方が起こることで引き起こされる」
※SLE:systemic lupus erythematosus全身性エリテマトーデス

大林「SLEって免疫複合体のトラブルが起きてたのか…」
本「SLEでは、有核細胞にある自己抗原に対するIgG抗体が持続的に産生される」
大林「人体のほとんどが有核細胞でできてるよね……」
本「主な細胞内抗原は、クロマチン構成因子ヌクレオソーム、スプライソソーム、細胞低分子リボ核蛋白質複合体」
大林「でもそれって基本的に細胞内にあるよね?」
本「傷害された組織の死細胞や死につつある細胞から放出される」
大林「なるほど。放出されたそれらに自己抗体が結合して免疫複合体が形成されて、その辺に沈着するわけか」
本「そう。SLEでは自己抗原が体内に大量にあるので、小さな免疫複合体持続的大量に形成され、腎糸球体基底膜や関節、その他の臓器の小血管に沈着する」
大林「なるほど仕組みがわかってきたぞ。沈着した免疫複合体は、くっついてる自己抗体を掴むFcレセプターをもつ貪食細胞を活性化させてサイトカインやケモカインを放出させ、更に貪食細胞が集まり…組織炎症が拡大する!」
本「それだけでなく、アポトーシス細胞や免疫複合体が排除されないと、末梢で低親和性の自己反応性リンパ球が活性化する可能性が増加する」
大林「突然の伏線回収が来た!自己反応性の推しが活性化したら組織傷害しちゃう…!そして更に細胞内の自己抗原がばらまかれて免疫複合体が増えるという悪循環!」
本「ちなみにSLEのモデル動物ではT細胞のヘルプなしではSLEは発症しない
大林「えっ……推しがSLEの要因?」
本「T細胞は2つの経路で自己免疫に関与する」

今回はここまで!
サイトでは細胞の世界を4コマやファンタジー漫画で描いています↓
現在、サイト改装と「Being」最新話作成中!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?