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「いだてん」第2部が初っ端にぶちまけた昭和改元と田畑政治という男

大河ドラマ「いだてん」、第2部がスタートした。まさに怒涛のスタートとしか言いようのない第25話だった。

第2部の主人公、阿部サダヲ演じる田畑政治は、頭で考える前に口が動いてしまう超スピード男。会話の節々で、一旦「そう」といった直後に「違う!」と言い直すしゃべり方がそれを裏付ける。“いだてん”と呼ばれながら性格は割とひょうひょうとしていた第1部の主人公・金栗四三とは真逆の性格だ。

だが、この田畑という男、よほどのオリンピック通でもその名を知らなかったのではないか?かく言う自分もその一人だ。最終的に、この男が1964年の東京オリンピック開催になくてはならない男になっていくらしいが、勢いこそその器にふさわしいかもしれないものの、今回の放送回を見る限りそこまでの想像は及ばなかった。

実際、この時点で、彼の頭の中にあるのは日本の水泳の実力を世界に轟かせること、その一点のみと言えた。朝日新聞の政治記者に望んでなったものの、明治大正の政界における大物・三浦梧楼のこともまともに知らなかったというのだから、なんで政治記者を目指したのか全然わからない(そのうちわかる時が来るとは思うが)。かろうじて、当時の大蔵大臣・高橋是清の存在は知っていたわけだが。

そんな変わり者の田畑だが、見たところ彼は、激しく動く歴史の傍聴者として時代に関わっていくことになる。その片鱗が見えたのが、大正から昭和へ移り変わる間で繰り広げられた、新元号を巡るスクープ合戦だった。

田畑の上司はリリー・フランキー演じる緒方竹虎。朝日が誇る当時の敏腕記者だった。その緒方の名を轟かせたのは、明治天皇崩御の際の新元号「大正」をスッパ抜いたことだった。その逸話を田畑は、緒方が行きつけのバーのママ(演:薬師丸ひろ子)から聞かされ「じゃあおれも」とばかりに、かつて緒方に新元号のネタをリークした三浦梧楼に会うぞと息巻く。

しかし、三浦はこの1年近く前に他界している。政治部の記者がそんな事も知らないのかというツッコミを入れたくなるところだが、「じゃあ新元号は?」と田畑はママに突っかかると「さっきそこで日日(現在の毎日新聞)の記者が書いてたわよ」と教えてくれた。その記者も、そんな大事なことこんなところでやり取りするなよとも言いたくなるが、田畑は、その記者が走り書きした紙の下敷きに使ったコースターを見つけ、鉛筆で浮き立たせてその文字をついに見つけ出した。

そこに書いてあった文字は「光文」。「これだ!」と歓喜した田畑は社に戻ろうとする。しかし、占いで不吉を悟ったママは、田畑を引き止める。そして、無理やり手相を見せられた田畑は、自分が早死にする相が出たことを知らされ、強烈なショックを受ける。

田畑が落ち込んだまま社へ戻ると、新元号スクープをめぐり殺気立っていた。田畑は、日日の記者がスクープを掴んだことだけは覚えていたものの、占いのショックでさっき見つけたはずの肝心の新元号の2文字が思い出せない。なんとか思い出そうと部長の緒方に語りかけようとした瞬間、「次の元号は『光文』」との日日の号外な中身が判明する。しかしここで緒方は、「うちは正確さで勝負する。裏を取れ」と焦る記者たちに言い聞かせた。結局、新元号は「昭和」と発表され、「光文」は結果として誤報となった。こののち、戦後の政界に身を転じ吉田茂の懐刀となりやがて自由民主党結党の立役者となったおがたのそつのなさをうかがえるエピソードとも言える。

この、いわゆる光文誤報事件については、さきの平成から令和への改元の際に、過去のエピソードとして度々紹介されたこともあり、知っている人も少なくないだろう。宮藤官九郎も、それを念頭にこの脚本を書いたのは間違いあるまい。

それにしても、田畑政治という世にもまれなるおもしろキャラクターを道化役に仕立て、はからずも実際の改元とほぼ時を同じくしたこの時期に、改元にまつわる歴史をこれほど巧みに描いた例など空前絶後であろう。しかも舞台はリアルタイムで放送中の大河ドラマだ。

第1部は明治大正だったが、第2部はまさしく昭和の大河ドラマだ。その昭和の幕開けがこれほどドラマチックに描かれるとは、先週まで全く想像すらしていなかった。そしてこの先、5.15事件も2.26事件も、1940年の東京五輪返上も(おそらく東京万博中止も)、第2次世界大戦も待ち受けている。第1部終盤の関東大震災を上回る悲劇を、クドカンはどう対処していくのか、その時時で田畑政治という男はどんないだてんぶりを発揮するのか、期待で胸がいっぱいである。


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