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気合いだー!ではなく、ちゃんと言ってほしい【作戦タイム】No.7

昔は当たり前のようにあった、根性論や精神論、効果不明な懲罰。
今でも根強く残る中、やはりトップまで極めたアスリート達は、理論や言語化の必要性を実感している。

<スポーツ×人間社会>をつなげていくラジオ【作戦タイム】のシェア。日本学術振興会と大阪大学大学院の研究助成により、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構(ADCPA)がお届けしています。

MCは奥村武博(ADCPA代表理事)×岡田千あき(大阪大学大学院人間科学研究科・准教授)。
ゲストの立正大学法学部准教授・西谷尚徳さんは元プロ野球選手。2009年楽天を戦力外通告、トライアウトを経て阪神タイガースに育成として入団するも2010年に現役引退。引退後、大学教員へ。
時期や球団は違えど、西谷さんも奥村も、野村克也監督の指導を受けた経験があり、指導法やキャリアの考え方など幅広く語る。

プロフィールなど詳細はhttps://www.adcpa.or.jp/sakusen-time

ダイジェスト⇩

幼い頃から疑問を抱いていた指導法

西谷さん
「僕は、野球指導したいから教師、ではなくて、純粋に先生としてやりたかったんです。自分のことは棚に上げてますけど(笑)、高校生の頃からきちんと先生になった上での野球指導だと思っていて、大学にも先生になる目的で入って教職課程を取りました」

岡田先生
「プロ野球選手から大学の先生になった人は珍しいです。今はポストも少ないから研究者にはなかなかなれないのに」

西谷さん
「子どもの頃から先生という仕事に興味があって、先生って授業ヘタだなとか、気づかずにそういう目で見てました。野球チームでも、そういう指導でいいのか?って不満や疑問を持ってた。打てなかったら正座とか、気合だー!とかじゃなくて、ちゃんと言ってよって」

自分を言語化する必要性 プロに入って痛感

西谷さん
「プロに入って痛感したのは、自分の中での型とか理論がないとダメということ。カルチャーショックでした。パフォーマンスや調整方法にしても、僕は自分のトリセツがなさすぎて、他の人はすらっと出てくる。
そこから言語化と理論づくりです。天才肌の人はパッとできちゃうけど、僕は身体で覚えるというよりも、理論を知って体に落とし込むタイプだったので、自分のトリセツづくりに励みました」

奥村
「自分でやってることをひも解いて細分化して落とし込んで言語化するというのはキャリアの面でも大事で、抽象的な目標に対して細分化すると、アプローチが違ってくる

西谷さん
「身体的な動きは理論を応用できるけど、パフォーマンスは自分ならではのやり方や感覚だから、微妙な角度とか調子を修正するために自分で細かく言語化しました。そこには緻密な表現や語彙が必要。当時は野球の世界にはなかったけど、10年後には必要になるな、とも思ってました。
僕は野球の指導者にはなってないけどね(笑)」

奥村
「実は会計士の仕事でのリスクアプローチとも似ていて、様々な仕事にも応用できるし、スポーツだとパフォーマンスが上がる。細かい言語化は大事ですよね」

ロジカルで具体的な言葉が相手に届く

西谷さんは自らの経験から、書くことが苦手な人にもわかりやすく『社会で活躍するためのロジカルライティング』という本で、作文、レポート、エントリーシート、小論文などに応じたノウハウをまとめている。

西谷さん
「指導者の言葉でニュアンスが変わってしまうし、同じ言葉なのに伝わってこないこともある」

岡田先生
「伝える側の問題ですよね。この本は私も勉強になるし、わからない人に寄り添ってます」

西谷さん
「自分がそもそもできなかったしヘタだから、ヘタな人の気持ちもわかるんです。
学生によく言っているのは、抽象度を下げること。たとえば履歴書の趣味欄に「音楽鑑賞」ではなく「クラシック」を聴いてどう過ごすかまで書くと、人となりが伝わる。抽象度を下げて文章で人の心をつかむのが大切。

「野球がうまくなる」と言っても二つある。自分基準で前よりうまくなることと、自分が納得してなくても相手よりうまくて勝つこと、これは意味が全然違う。「うまくなった」だけでは足りない

奥村
「他者に伝えるには、相手にとってわかる事例や言葉を使うということですね」

ノーカット音声はSpotifyで⇩
必要に迫られたロジカルライティング #4-1
野球以外の素養を取り入れていた野村克也監督 #4-2
現役期間は限られるからこそ、引退後のイメージも描いていた #4-3
競技以外のフックを沢山持つことが応用幅を広げる #4-4

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言葉に置き換えることはメンドウだけど、
言語化はロジカルの入口

【アディショナルタイム】 配信考記 byかしわぎ

私も言葉を生業にしてきた者の一人として、
言葉選びの難しさには、ほぼ毎日直面している。
言いたいこと、表現したいことを的確に届ける言葉を探す作業は苦行に近い。これを書いている瞬間も。

言葉選びは、具体的な細分化から

正確に伝えようとすればするほど言葉数が多くなって、ややこしくなるし、簡潔に一言にしようとすると、違う意味に受け取られそうだし、表現しきれずに消化不良ぎみになったり。
それだけに、スパッとハマる言葉が見つかったときの快感も大きい。

インタビューで話された言葉を、限られた紙面と文字数で原稿にする時には、ほぼ「翻訳」的な思考
他人の話し言葉→書き言葉という校正的な作業だけでなく、話し手の「ニュアンス」(ここが肝心だったりする)を崩さずに、その微細な温度感や意味合いをどう「文字」で伝えるのかが一番難しい。
端折りすぎると味気ないし、説明しすぎるとまわりくどくてぼやけるし。

その腐心の連続の中で無意識にやっているのが、具体的な細分化。

具体的にかみ砕くと、自然とロジカルになる

私もインタビューの際、なるべく具体的な言葉やエピソードを引き出すことを心がけている。
西谷さんの話された「音楽鑑賞」ではなくて「クラシック」(抽象度を下げ→具体的)の例まさしく、
クラシックを「どんな時」に聴いて、「どんな気持ち」になるのか、クラシックの「好きなポイント」、好きになった「キッカケ」など。
とにかく「分解」「かみ砕く」作業。

かみ砕いて出てきた言葉を並べてみると、自然と流れができてくると思う。
〈このキッカケで聴くようになって→こんなところに魅力を感じて→こんな時にこんな気分になる→だからストレス解消→習慣になった〉
のように。
その先には、こちらも〈なるほど、クラシックの魅力に気づかされた〉

大づかみのままではロジカルにはなりにくい。
ロジカルに、起承転結を、と身構えなくても、まずは言葉や事象を細かく具体的に分解することによって、自然とロジカルな構成ができるし、言葉の取捨選択もしやすくなる。
私自身は、企画書を書くときも同じ要領を使っている。

オノマトペも有効な「かみ砕き」

微細な感覚を言葉にするのはもっと難しい。
その時に「パッと」「シュッと」「サッと」など、いわゆるオノマトペも私は有効だと思っている。
特にスポーツなど身体を動かす現場では、むしろオノマトペのほうが理解しやすい、とも聞く。私自身もそのタイプ。

「速く」と言われるより、「パッと」か「シュッと」か「サッと」かは、なんとなく違いがイメージしやすい。
この動作は、パッとなのか?シュッとなのか…?とか考えるだけでも、動きの分解や理屈につながる。

ロジカルって、格式ばった「型」にはめたり、感覚や感情と相反する無機質なものではなくて、人の心を動かしたり、腑に落とすための「誘導動線」だと私は思っている。

言葉を細かく置き換えていく作業は、ほとほとメンドクサイ。
でも、言葉選びが「正解かどうか」ではなく、言語化しようとする「プロセス」が自己整理につながり、結果的にロジカル思考につながっていると思う。

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