見出し画像

『私を構成する5つの漫画』を雰囲気重視で語る


影響受けた漫画って、その人の価値観とか思い出、個性などなど……深いところで血肉となってますよね。好きな漫画は沢山ありますが、自分を構成するほどの漫画となると、話は別です。それを探るために、ひたすら自己の感覚と思い出を潜っていく作業はとても快感でした。


それとこの、5つ漫画を紹介するという企画……とある方の記事を見て知ったのですが、こんな素敵な画像が作れる事に感動しました。自分を構成する漫画達が横並びに1つの画像に凝縮されてるんですよ!?(興奮)やるっきゃない!


前置きが長くなりました。本題に移ります。
画像の左側から順に紹介していきますね。



①『魔方陣グルグル』

勇者ニケと魔法使いのククリちゃんが魔王を倒すために冒険するファンタジー漫画。特筆すべきは、この作者……衛藤ヒロユキさんのギャグセンス。そしてドラクエっぽい昔ながらのRPG感と、まるで絵本のようなファンシーな世界観の融合。それから時にキラリと光る、会話のセンス。


この作者、息をするかのようにギャグをぶっこんできます。細部まで目をこらせば、たくさんの笑いの種。絵のみ、または言葉のみで笑えてしまうものが沢山ありますし、さりげなく隅っこに描かれたものでさえ秀逸です。私の笑いの価値観は、この漫画で作られました。


有名かもしれませんが、「キタキタオヤジ」というおじさんをご存知でしょうか?腰ミノをつけた半裸のおじさんで、もとは、勇者たちが立ち寄ったとある町の町長さんでした。町の乙女が減った事で廃れてしまった、町伝統のキタキタ踊りを世界中に普及させる事を人生の目標とし、勇者のパーティーに合流するのですが、このおじさんが一番目立ってまして……(彼はこの漫画とは別に、連載漫画の主人公として昇格しました)。


こんな感じで、この漫画はファンシーで可愛い絵柄とは裏腹に、おじさんとかじいちゃん、ばあちゃんがいい味出してまして、物語の中でも大活躍します。

私が驚いたのは、これまた勇者達が立ち寄ったとある村(アッチ村)の村長なのですが、当初このキャラが出た時は、冒険ものでよくある「その村が救われたら出番終わり」の人なんだと思ってました。が、見事に裏切られました。


アッチ村のダンス大会でみごと優勝した勇者達は、賞品として「村長のブロンズ像」を貰うのですが、正直、勇者達にとっては、いらないお荷物(むしろちょっと気味悪い)。ひとまず貰っておいて、村を旅立った後にそっと捨てちゃいます……が、そう簡単には終わらない。この村長さん、勇者達を追いかけ、「村長のブロンズ像」を渡そうとします。しかもこの執念がまたすごくてですね……村長は後に旅立ち、「村長のブロンズ像」を彼らに届けるべく、闇魔法結社に弟子入りして転送魔法を研究します。やべえ。

そしてストーリーは進み……読者である私もこの村長なんぞ忘れた頃、主人公達の伝説的瞬間に、彼が大活躍します。風の谷のナウシカの伝説の絵画みたいなシーンってあるじゃないですか。あんな感じの、まさに伝説的絵画になるような神々しいシーンを勇者たちが繰り広げる真っ最中に、ついに転送魔法が成功しタイミング良く「村長のブロンズ像」が彼らのもとに現れます。それは伝説で降臨する神さながらで……なんてシュール。


ちょっとおじさんについて語りすぎましたね。では、この漫画の中で私が気に入っている言葉を紹介します。

ゲソックの森
~愛・そして生きるために死ねますか~

↑物語の中で登場するゲームソフトの名前。さりげなく記載されてる。


花の王女さまへ

王女さまはすごいなあ
王女さまは花の王女だ
ぼくにはとてもできない

王女さまは世界中の
植物をつかさどっている
ぼくにはとてもできない

↑勇者ニケが花の王女に、自分の心の美しさを認めてもらうべく書いた手紙。妖精達から、「ムリヤリ書かされた読書感想文のよう」と言われてます。

(これ書いてて気付きました。私が普段書いてる詩のスタイルは同じ言葉を繰り返す傾向にあるのですが、完全にこれがルーツでした。)


余談ですがこの漫画……なぜかたまに、画家のジョルジュ・デ・キリコの世界を彷彿とさせるんですよね。ギャグ要素が強いのに、不思議な雰囲気を併せ持つ、稀有な漫画だと思います。



②『ポーの一族』

少女漫画家界の大御所、萩尾望都さん作の吸血鬼(ヴァンパネラ)漫画。かつては人間だった少年が、訳あってヴァンパネラとなり、遥かな時を生きます。少年のまま年を取らない彼らは、周りの人に不信感を抱かれぬよう、短期間でヨーロッパを転々とします。見目麗しく世慣れした彼らは、人と関わるのはお手のもの。だけど親しくなるうちに住民達も徐々に彼らに違和感を持ち……といったストーリーが1話~数話完結で描かれます。


こんな書くとありがちな設定に思えますが、この漫画のすごいところは、バラバラな時系列で時を越えて語られるところです。不老不死の彼らにとってあまりに時は長く、時系列は意味を成さないのかもしれません。読者である私達は、まるで無造作に沸き上がる彼らの思い出をなぞるかのような感覚を覚えるでしょう。


ストーリーごとにたくさんの出会いと別れを繰り返していくヴァンパネラ達。思い出の中には、すでに年老いた人や亡くなっている人がたくさんです。彼らと出会う人間たちからすれば、不思議な体験、時には恐怖体験となるでしょう。あの少年達は何者だったのか……?そんな想いを胸に秘めて、その後の人生を送るのでしょう。それは時に手記などに残され、彼らの子孫へと繋がってゆきます。やがて遠い未来……現代で彼らと出会った人や、彼らが描かれた肖像画、そして先祖からの情報で彼らの存在を伝説として知る人々が一同に介するシーンは感慨深いものがありました。


この漫画に流れる英国風の独特の雰囲気。そして不老不死である彼らの堂々とした明るさや強かさ、そして時に見せる怖さ。その裏腹に秘められた過去や思慕。何気ない日常と、時に起こるヴァンパネラへの迫害。永遠に変わらない彼らと、世代交代して受け継がれゆく人間たち。そんな様々な要素が絶妙なバランスで保たれた名作です。


③『幽☆遊☆白書』

『HUNTER×HUNTER』の作者でも有名な、冨樫義博さんの作品。私はこの作品の、力の入れ具合と適当な抜き具合の緩急に、粋な格好良さを感じます。え、その場面あっさり書いちゃうの……?ここ、コミカルな表現で良いの……?と思いきや、急に美しい絵と表現を入れてきて感動をさらったり。


ストーリー展開は『HUNTER×HUNTER』の方が断然面白いのですが、それでもこちらを選んだのは、キャラクターの魅力度と、漫画の根底に流れる雰囲気、終わり方の爽やかな格好良さが素晴らしいからです。


この漫画の連載開始は1990年で、私自身は80年代後半生まれなのでリアルタイムで読めたわけじゃないし、80年代の空気を実感出来る年齢でもありませんでした。でも、この漫画は80年代の雰囲気を感じさせて、懐かしい気持ちにさせてくれるのです。この雰囲気は憧れます。


そしてキャラクターの魅力が凄い。主役4人組は言わずもがな、女性達も魅力的なんですよね。ジーパンの似合うヤンキーな姉ちゃんとか、着物の似合うお姉さんや少女とか、暗い過去のある超強い美人の妖怪とか。


あと漫画ではないですが、アニメのオープニングやエンディング曲が素敵です。独特の雰囲気で、どの曲も妙な色気を感じます。


④『アタゴオル』シリーズ

ファンタジー漫画。作者はますむらひろしさん。彼は山形県米沢市出身らしく、彼の故郷米沢市にある愛宕山を「ヨネザアド大陸」「アタゴオル」というファンタジックな舞台に変えて、日常の物語が展開されます。自分の故郷を理想の世界に変えるって、とある作家を思い出しますね。イーハトーヴ。そう、宮沢賢治です。作者は宮沢賢治の影響を強く受けているのか、宮沢賢治の作品を漫画化している人でもあります(登場人物を猫に変えて)。


この漫画の主人公……猫のヒデヨシはワガママで自己チュー、自分の好きな事まっしぐらで欲に忠実、他人を騙し利用する事も厭わないヒドイ奴。でもなぜか憎めない性格で、周りのキャラはなんだかんだ振り回されて毒づきながらも、彼に付き合ってしまう。言うなれば、こち亀の両さんから、人情と他者への興味を抜き去った感じ(ひどい…)。でもそれで成り立つ淡々とした、それでいてシュールなファンタジー感が凄く良いんです。例えるなら、異世界のカフェで逆さまになってコーヒー読んでる感じ。ここで繰り広げられる日常は、全てが不思議。でもどこか懐かしい雰囲気なのです。あと、ギルバルスという猫のキャラクターが滅茶苦茶格好良いです。


この漫画は『アタゴオル物語』とか『アタゴオル玉手箱』とか『アタゴオルは猫の森』など様々なシリーズがありまして、私は小学生の頃に図書館で見つけたのが出会いです。初期のシリーズはおどろおどろしさもあり若干大人向けですが、基本的には子どもでも十分に楽しめる作品なのでオススメです(主人公ヒデヨシはよき反面教師となるでしょう)。


⑤『ヨコハマ買い出し紀行』

最後に大本命を紹介します。定期的に何度でも読み返したくなる、私のベストオブワン。廃墟、メカ、80年代の雰囲気、ゆったりカフェ、田舎のじーちゃんばーちゃん。人を選ぶ作品ですが、これら要素に感じるモノがある貴方はぜひ、ご一読下さいませ。きっと素敵な宝物になる事でしょう。


タイトル通り、舞台はヨコハマ近辺。主人公アルファさんは海を見渡す崖の上のカフェを一人で経営。このアルファさん(表紙になってる綺麗なお姉さん)、なんとアンドロイドなのです!髪や瞳の色がアンドロイド特有ですが、それ以外はまるで人間のよう。のんびり日常や人付き合いを楽しむその性格は、もはや人間そのものです。タイトルの『ヨコハマ買い出し紀行』とは、たまにコーヒー豆を横浜まで買いに行く事に由来してます。


しかしこの漫画、舞台はヨコハマ近辺なのに、全然都会っぽさがない。むしろ田舎。道は所々海に侵食されていて、人も少ないです。え……水没してるの?それってまさか……のんびりした絵柄と物語の中で、読者は疑問に思うでしょう。そう、ここは未来の日本。かつての大都市横浜はすでに水没し、近辺に残された土地がヨコハマと言われているのです。


一見のんびりした雰囲気なのに、実は退廃的な世界観。ゆるやかに退廃してゆく様は、長い目で見ると切ない。この雰囲気を言葉で説明するには、作者が語る説明文が一番しっくりくるので紹介します。


お祭りのようだった世の中がゆっくりとおちついてきたあのころ。のちに夕凪の時代と呼ばれるてろてろの時間、ご案内。夜の前に、あったかいコンクリートにすわって。
                                                   芦奈野  ひとし

作者の芦奈野ひとしさん、言葉のセンスが素晴らしいです……。この漫画を読んでこの説明文読むと、胸がいっぱいになって泣きそうです。そのくらい、的確な表現なんですよ。


この漫画の世界は、説明口調では決して語られません。ただ、それらは名残で物語られます。その土地の地形。廃れた文明と、残されたアンドロイド等から垣間見える、異様に進んだ技術のちぐはぐ感。栄えた世を追憶するかのような、不思議な植物の生態。そんな要素がそこここに散りばめられ、そこに私達読者は「かつて何かがあった」「暗い過去があった」というのを感じ取るだけです。考察が好きな人にもオススメな作品です。


あとは純粋に、田舎の空気感とか、間延びした会話のリアル感が凄い。特に会話のリアル感は、他の漫画と比べても段違いに秀逸です。どうやったらこんな表現出来るんだろう……こう、人と人との会話や触れ合いに、本当に空気が流れているような……本当にリアルで、それでいて理想的な……そんな感じを受けるのです。ぼーっと癒されたい人にもぜひオススメです。あと、この漫画もおじいちゃんおばあちゃんが主役級にイイ味出してて格好良いです。


旅に出たオーナーを待ちながら、カフェを営むアルファさんも、少しずつ近所の人と触れあい仲良くなり、人の輪が広まってゆきます。なかには同じようなアンドロイドと出会う事も。趣味に浸り、日々を楽しむすべを増やし、ゆっくりと、着実に日常は豊かになってゆきます。人の縁をあたため、ずっとこんな日々がゆるやかに続いていく……かのように思いたいのですが、そこは寿命のないアンドロイド。自覚はあったものの、物語の終盤、人間との差は如実となります。この感覚を、言葉を尽くして語るのは野暮かもしれません。これを表現するのは、詩でもなく小説でもなく、アニメでもない。やはり漫画という表現手段が一番でしょう。




最後に

こうして5つの漫画を振り返ると、特徴って出てきますね。本当は進撃の巨人とかキングダムとか、戦や革命、戦略、心理戦の要素があるものとかも大好きなんですが、自分を構成するものと考えると、根底はこの5つに絞られるんですね。


特徴としては、私の年齢より少し古めの漫画が多かったです(『魔方陣グルグル』のみリアルタイム)。私はきっと、80年代の雰囲気に憧れがあるんだろうなと気付きました。バブルの名残りとか、オタク文化のアングラ感とか。


あと、一筋縄じゃないファンタジー感。それから時の流れを感じさせる壮大さと、なんとも言えない感覚。近い言葉で表現するなら、時の流れへのやるせなさと諦め……でしょうか?


言葉では語られない、物語から雰囲気で読み取るしかない、その感覚が好きなのだと思います。私もそんな作品を作りたいし、そういう人でありたいです(今回滅茶苦茶語っちゃいましたが)。


ここまでの長文読んで下さった方、ありがとうございました。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?