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「バービー」利口ぶったヘタレ男は致命傷を負う(as well asオレ)


どうも、安部スナヲです。

「バービー」観て来ました。

主人公・定番バービー(マーゴット・ロビー)はピンクだらけの「バービーランド」で朝をむかえる。

ラブホのツインベッドみたいな寝床から起き上がり、まずは仲間の多種多様なタイプのバービーに挨拶をしたら、湯の出ないシャワーを浴びる。

オーブントースターからピョンと飛び出して来たワッフルを皿でキャッチし、ミルクの出ないミルクパックをコップに傾けて朝食を済ませたら、服を選んでお出かけ。

人形だから階下に下りるにも階段を使う必要はなく(持ち主が手で摘んでくれるから)フワリと宙を舞う。

オープンカーで街や海を行き交い、夜はパーティ。

出典:映画.com
出典:映画.com
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そんな享楽オンリーの日々を繰り返していたある日…

踊っている最中にふと「死」が頭をよぎる。

そこから寝不足、口臭、ベタ足(バービーは爪先立ち)、挙句に太腿にセルライトと、人形にあるまじき異変が次々と定番バービーを襲う。

困り果てた彼女は、バービーランドでただ1人(あ、1体か)の汚れ役であり、酸いも甘いも噛み分ける変テコバービー(ケイト・マッキノン)に相談を持ちかける。

出典:映画.com

変テコの見たてでは、それは(人形の)持ち主の負の感情が影響したのかも知れないという。

…てなワケで定番バービーは持ち主に会うべく、無理矢理着いて来たケン(ライアン・ゴズリング)と共に人間界「リアルワールド」へ向かうのだが、そこで見た数々の衝撃的光景!

出典:映画.com

序盤はそんな感じで、それからなんやかやいろいろあってバービー危うし!!みたいなハナシになって行く。

まずオープニングの過剰なまでガーリーな演出が、おバカ可愛いくて超楽しい。

一方、所詮は人工的な張りぼてでしかないバービーランドでの「毎日がパーティ」な世界は、楽しさも張りぼてっぽくて、その虚構感にゾッとさせられる側面もある。

また、ここで流れる数々の楽曲が持つ80’S的キラキラ感(たしかシンディー・ローパーの「ハイスクールはダンステリア」のイントロもインタールード的に繰り返されていた)や、LIZZOの「pink」という曲の皮肉な言葉遊びが、虚構的享楽に見事にハマっている。

とにかくチープな張りぼてたる非現実世界の構築が完璧過ぎる。

人間界に行ってからのパートも、いわゆる人形と人間のギャップで笑わせるだけではない。

持ち主のZ世代少女・サーシャ(アリアナ・グリーンブラット)からは「最後に遊んだのは5歳の時よ」「あなたはフェミニズムを50年遅らせた」などと辛辣な批判を浴びせられた挙句「このファシスト」と罵られる。

出典:映画.com

この時、口角だけで笑う定番バービーの目から流れる涙の切なさったらない。

実際問題、生身の人間には数%しか存在しない9頭身が女性のロールモデルとしてシンボル化されていたことは抑圧的だし、徹底的にドールナイズドされたマーゴッド・ロビーは、何の悪気もないのだろうが、確実に神経を逆撫でして来る。

そして人間界は男社会だとか、製造元のマテル社の大企業ならではの風通しの悪さとか、そのあたりはステロタイプな落とし込みにも見えるのだが、そこもそんなに安易ではない。

さらに、この映画に対してフェミニズムという一方向しか想像できていなかった私が面食らったのは、バービーが再びバービーランドに戻ってからのパート。

なんと、バービーの添えものとしての価値しかなかった筈のあのケンが、人間界での男性優位に触発されてバービーランドを乗っ取り「ケンダム」なるものをつくるのだ。

つまり、今度は虐げられて来たヘタレ男の理不尽さにファーカスされる。

ははーん、こうすることで男女をフェアに持って行こうとしているのだなと思ったが、甘かった。

私含め、多くのヤローどもが致命傷を負う展開はここからだった。

ケン勢によってスッカリ男社会に塗り替えられてしまったバービーランドを取り返すべく、バービーたちが反転攻勢に出るのだが、今度は家父長的支配とは別の切り口から攻めて来る。

それがマンスプレイニング。

この言葉(概念)をご存知だろうか?私は知らなかった。男が女性に対して何かと格好付けて知識をひけらかし、ウンチクしたがるアレです。

バービーたちはこれを逆手に取り、IT、映画、音楽、スポーツ、車、投資など、あらゆる分野において「わかんなぁ〜い」というフリをし、ケンたちをにかけるのだ。

これをやられた日にゃぐうの音も出んわい!苦虫を噛みつぶしながら多いに笑ったが、これは自分を笑っているに等しいと思うと撃沈。

それにしても「Photoshopってむずかしい〜」とか「ゴッドファーザーって観たことない〜」というセリフがしょーむない自尊心をくすぐる撒き餌だったとは、これまで考えたこともなかった。今、穴があったら瞬足で入る。

挙句、ギターの弾き語りに酔う様を見せられた時には「人間失格」ではないが、如何に恥の多い人生であったかという現実を突きつけられ、もうお手上げ。明日から生きていく術はない。

あと、如何にもアメリカ映画な様相だが、フィクションなのに時折現実目線のツッコミで笑わせるとこや、人形が人間界でドタバタする発想などは落語的でもあり「地獄八景亡者の戯れ」あたりを思い出した(こういうのもマンスプレイニングっぽい?)

特にバービーランドをケンに乗っ取られてスッカリ自信をなくした定番バービーが「私はもう美しくない」と言った時の「マーゴット・ロビーが言っても何の説得力もない」というナレーションはナイス!ああいうチャチャの入れ方、好っきゃわ(^○^)

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