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トランプ𓃠との出会い

吾輩はトランプ 8歳の猫である。
ご主人の家にやってきたのは6年前
保護施設とやらに前の飼い主に入れられた。

当時2歳だった吾輩は誰も引き取ろうとはしない。
まぁ目つきも悪ければ愛想もなく、体重も6kgあったから仕方ない。

そう思っていたある日のこと。
多くの人間が施設にやってきた。

何やら譲渡会というものをやっているらしい。

人間の男と目が合う。
何故だろう?吾輩この男にもらわれる直感がした。

直感は正しかったようだ。
何日かした後、施設の人間が慌ただしく我輩をゲージから小さな箱の中へ入れようとする。
『やめろ。吾輩狭いとことは嫌なんだ』
抵抗むなしく吾輩は小さな箱に入れられた。

『吾輩どこに連れて行かれるのだろう。』と思いながらも箱から出ることはできなかった。
入口から外を眺めると、部屋へ入っていくのが見えた。
部屋の中にはこの間の男がいるではないか。
男は一人ではなかった。
男の隣りにいる女が奥さんで小さいのがその子供であろう。
『吾輩、この家族と一緒になるのか。』
嬉しい気持ちもあるが、早くこの箱から出して欲しい。

吾輩は男に連れられ、どこかの部屋へ入っていった。
その部屋はとても揺れる。
地震と思っていたが、外を眺めてみると人間は驚いた様子はない。
外の景色がどんどん変わっていくのが見えた。
これは車というものだな。
車に乗るのは何ヶ月振りだろう。
あの時は、前の飼い主が吾輩と他の者達の面倒を見れなくなったから施設に行くために乗った。
だが今回は違う。

どれだけ揺られたろう。
そのせいで少し気分が悪い。

車が停まった。
ドアを開け閉めする音が聞こえ吾輩の入った箱が持ち上げられた。
外を眺めるとドアが見えてきた。
男がドアの前で何かをしている。
「カチャッ」という音の後ドアを開けた。
部屋の中へ入ったところで吾輩が入った箱が降ろされ入口が開いた。

恐る恐る外に出てみると、いきなり男に抱き上げられた。
『やめろ。吾輩抱っこされるの好きじゃない。』
そう訴えかけても人間には吾輩の言っていることは伝わらない。
男は吾輩を抱きかかえながら笑顔を向けてくる。
抱っこは嫌いだが、この男の笑顔は嫌いじゃない。
男がなんと言っているのかはわからないが、たぶん吾輩の名前を言っているのだろう。

吾輩の名は〈トランプ〉である。

あの時の事は昨日のように思える。
吾輩がこの家族のもとに来れて良かった事と思う。
何より自由だ。

最後までお読みいただき誠にありがとうございます。

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