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確率思考の意義 リスクマネジメントとインテリジェンスの視点から

前回の記事で、ベイズ的アプローチがなぜリスクマネジメントやインテリジェンスと相性がいいのかをこのあと説明すると書きましたが、その前段階として、確率思考の意義についてもう少し触れたいと思います。

物事を確率で考える「確率思考」とは、世の中の全ての物事の中で、絶対に起きること以外は、起きるか起きないか、起きるとすればどれぐらいの「もっともらしさ」で起きるかという割合や確率によって物事を判断するという考え方です。

リスクマネジメントという分野から確率思考を考える例として、高い崖の上に立つ壁の上を歩いて逃げる脱獄囚の例えがあります。ちなみに、このアイキャッチ画像は、世界で最も脱獄が難しいといわれたアメリカ・サンフランシスコのアルカトラズ刑務所です。

ある脱獄囚が刑務所の壁の上を伝って脱獄しようとしています。壁の外は断崖絶壁ですから、そちらに落ちることは死を意味します。幸いまだ看守に見つかっておらず、脱獄囚は壁の上を歩いて逃げ続けます。
しばらく歩いて行くと、崖のほうに幅1メートルほどの小径が現れました。そちらにうまく飛び降りられれば刑務所の外に出られます。しかし壁は高く、下手に飛び降りると怪我をして動けなくなる可能性があります。また、飛び降りた際に勢い余って転げると、そのまま崖下まで落ちてしまいます。
あと100メートル歩いていくと崖は終わるので、崖下まで転がり落ちて命を落とす心配はありません。しかしそこには警備が厳重なチェックポイントがあり、見つかると連れ戻されるかもしれません。あなたがこの脱獄囚だとしたら、どのような判断をするでしょうか。

「肚を決めて飛び降りる」「崖が終わるまで歩きつづける」「脱獄をあきらめる」など、さまざまな選択肢がありますが、絶対的に正しい正解はありません。理由は、脱獄が成功するための要因や要素が多い割に、成功の条件があまりにも厳しいからです。だからといって、全てをなすがままに任せておくと、そのうち看守に見つかって連れ戻されてしまいます。
ここで、ありえない仮定ですが、これまでこの小径に脱獄囚が5人飛び降りて、2人脱獄に成功したという情報をこの脱獄囚が持っていれば(多分刑務所の食堂のうわさ話で聞いたのでしょう)、少なくとも「飛び降りて必ず失敗する確率はゼロではない」と判断できます。そしてそのあと草木が生い茂っている(飛び降りた時にクッションがわりになるかもしれない)、少し道幅が広くなった(崖下に落ちるまで余裕ができた)といった情報で成功への確信を高めていくと、あとは「やるかやらないか」、すなわち脱獄成功と失敗の各リスクをどこまで受け入れるかの判断をするだけになります。

なにか当たり前のような話のようですが、こうした確率思考は、日々のビジネス上の意思決定にも非常に役立つものです。意義を目的と効果に分けて考えると、ビジネスにおける確率思考の意義は、ビジネス上のイベント(事象)の起こりやすさを見える化することが目的であり、それによってビジネス戦略の効果を見積もり、対応の優先順位を決めることができるというのが効果です。
ビジネスインテリジェンスは「ビジネス上の意思決定のための情報活動」ですから、意思決定が誤っていたり、意思決定の結果の満足度が下がるリスクを可能な限り低くし、意思決定が良い結果をもたらす精度を高めることがその意義になります。一方で、先述したとおり、ビジネスの成功や不調に関わる要素要因は限りなく存在し、その全てをコントロールすることは不可能です。そのため、確率思考で状況判断や意思決定するのです。

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