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有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の分析 分析の「軸」

ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、有事のビジネスインテリジェンスについて書き始めてから4本目になります。前回までは情報の収集と理解について書きましたが、今回からは情報の分析のフェーズに入ります。
分析フェーズの1回目は、分析の「軸」をどう設定するかです。

前職の航空自衛隊では、災害派遣、海外派遣、航空事故などのミッションにおいて、質量ともに限られた情報の中、確実で安全な任務遂行を第一に、情報の収集分析に従事しました。
2003年12月に開始されたイラク派遣空輸や、2016年の南スーダン法人輸送では、現地部隊と常に連携し、24時間態勢で現地の治安情勢を分析しました。また、2018年に発生した北海道胆振東部地震では、北海道全域がブラックアウトになる中、組織の責任者として、物資や資源が限られる状況下で、職員と家族の安全を確保しながら業務をいかに継続するかというBCP(業務継続計画)を実地に指揮しました。
これらの経験を通じて得た教訓は、有事という緊迫した状況でのインテリジェンスにおいては、分析の「軸」を意識しなければならないということでした。そして、それは現在従事している企業経営支援にも共通するものだと感じています。

分析の軸というのは、言い換えると「何を基準に情報を分析するか」の元となるものです。
インテリジェンスとは、任務遂行のための意思決定に必要な情報活動のことであり、分析の対象は敵や脅威を含む任務環境全般です。大雑把にいうと、自分と味方以外の全ての存在が分析対象であり、組織のあらゆる部署がインテリジェンスを渇望します。
しかしながら、インテリジェンスの資源は常に十分確保されているわけではありません。組織の任務全体を見ながら、各時点で最もインテリジェンスを必要とする活動は何かを判断し、情報資源を提供しなければなりません。その判断基準となるのが「軸」です。
有事のインテリジェンス分析の軸は、大別すると「分析対象のスコープ」「ミッションとの近接性」「ミッションの優先順位」になります。

分析対象のスコープとは、分析の範囲です。政治、経済、社会、技術の4分野に関する分析フレームワークである「PEST分析」はスコープが広く、「いつ工場への電源供給が再開するか」や「紛争地から従業員が何人退避したか」はスコープが狭いといえます。分析のスコープがミッションと一致していないと、その時点で求められる意思決定に適切なインテリジェンスが提供できません。

ミッションとの近接性とは、そのインテリジェンスがミッションとどれだけ密接に関係しているかということです。先ほどのスコープと近いように見えますが、ミッションとの近接性は、提供するインテリジェンスがタイミングの良い意思決定に繋がるかが基準になります。ある企業が地震によって工場が被災した場合を例とすると、「被害復旧」「工場の再建」「復旧資金の調達」「顧客への納期の変更」など、さまざまなミッションが同時進行しますが、インテリジェンスが各ミッションで必要とされるものであるかという視点です。

ミッションの優先順位とは、そのとおり、意思決定者がミッションにどのような優先順位をつけているかということです。先ほどの例で言えば、工場が被災した企業の経営者が、どのミッションに優先的に対応するかが分析の優先順位を規定します。当たり前のように見えますが、有事の現場ではリーダー自身が混乱していることもよくあります。リーダーの意思決定の優先順位が間違っている場合もあります。そのような場合にリーダーの優先順位が正しいものになるように「導く」のもインテリジェンスの役割になります。

次回からは、上記の3点についてそれぞれ詳しく解説します。

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