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新しい時代が訪れる今、ケンゾーをどう更新するだろうか

*このテキストはサービス「AFFECTUS subscription」と「AFFECTUS letters」の有料ニュースレター「LOGICAZINE(ロジカジン)」で、2019年8月6日に配信されたタイトルです。

無料公開期間:2019年9月9日(月)まで

本文は以下から始まります。

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「ケンゾー(KENZO)」のクリエイティブ・ディレクターを8年間務めてきたキャロル・リム(Carol Lim)とウンベルト・レオン(Humberto Leon)が退任することになり、その後任には堅実な実力を備えたデザイナーが指名された。

そのデザイナーとは2010年から2018年まで「ラコステ(LACOSTE)」の前クリエイティブ・ディレクターを務め、ブランドの売上高を10億ユーロから20億ユーロにまで倍増させたフェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)。

キャロルとウンベルトは「ダサいことがカッコイイ」というトレンドを、世界でいち早く着手したと言ってもいい。二人がケンゾーのディレクターに就任した当時、現在ほどロゴや柄などのグラフィックが人気の時代ではなかった。二人によるケンゾーのコレクションがスタートしたのは2012AWシーズン。2014年ごろから装飾性が皆無のノームコアがトレンドになる時代だったが、キャロルとウンベルトはデビューコレクションから早すぎるぐらいに早い感覚を見せつける。

虎と「KENZO」のロゴを大胆にフロントの前面に刺繍したトップスは、迫力あふれるデザインで「ダサさ」をモードの舞台へと昇華させ、その早すぎる感覚に飛びついたのは、成熟した大人たちのケンゾーの従来の顧客ではなく、新しい感覚が大好きな若者たちだった。新生ケンゾーのデザインは、前任のアントニオ・マラス時代の顧客を離散させたかもしれない。しかし、それ以上に新しい顧客を引き寄せた。キャロルとウンベルトの大胆な手法によりケンゾーは一躍人気ブランドとなり、以降2桁成長を続け、売上高は3億〜4億ユーロ(約366億〜488億円)にまで達する。

ダサさがカッコイイという感覚は、その後2014年にデビューした「ヴェトモン(Vetements)」のデムナ・ヴァザリア(Demna Gvasalia)の手によってさらなる進化を遂げ、ストリートウェアがダサさを新時代の美意識としてファッション界を席巻していく。

そしてそのトレンドが、新たなる進化を見せようとしているのが今。ダサさはエレガンスをまとい始める。ストリートからフォーマルへ。トレンドを支配していたストリート発のデコラティブなデザインは、エレガントなスタイルとの融合を始める。

その時代の変わり目に、時代をリードしてきたブランドのケンゾーのディレクターに就任したのがフェリペである。フェリペの前任として「ラコステ(Lacoste)」のディレクターを務め、ブランドを飛躍させたのはフェリペの師匠でもあるクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)。ルメールが「エルメス(Hermes)」のアーティスティック・ディレクターへ就任することに伴い、フェリペは彼の後を引き継ぐ。そしてルメール以上にブランドを飛躍させ、見事な成果を出したフェリペだが、彼の名は日本では思ったほど知られていないように思う。そこで今回はラコステのコレクションをベースに、フェリペのデザインを探っていきたいと思う。

彼はラコステでどのようなデザインをし、ブランドの圧倒的成長を作り出したのだろうか。

フェリペはファッション界では注目のデザイナーだった。彼の名が知られるようになるきっかけは、2002年にイエール国際モードフェスティバルでのグランプリ獲得。新しい才能を発掘することでは世界屈指のコンペであるイエールでグランプリを獲得したことで、その名は業界に知られるようになる。

イエールでグランプリを獲得したコレクションは、フリルを多用したディテールが、カッティングに妙があるリアリティあるスカートやジャケットに侵食し融合するデザインで、不可思議な雰囲気が立ち上がっている。もし、興味のある方は下記のURLでフェリペがグランプリを獲得したコレクションの全ルックが見られるので、見て欲しい。

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