見出し画像

心に寄り添う静かな病院図書室

病院に図書館があるのをご存知だろうか。

その多くは図書館とは呼べない小学校の図書室のような小さなものと思われるが、案外少なくない数の病院に入院患者や通院患者向けに本を集めた部屋があるのを、昨年初めて知った。

昨年11月中旬に、手術のため一週間ほど入院した。

都心の大きな病院で、どのような施設があるのか興味があったので院内案内図を細かく見ていたところ、とても小さな文字で図書室と思われる部屋の名前が書かれていたのだ。
一見、子ども向けの絵本図書室かしらと思うような名前だったが、図書館(室)好きの自分としては見逃せない。

手術という大イベントを終えた数日後、自分で院内を歩けるようになった段階で見に行こうと決めていた。

院内案内図の小さな文字を頼りに、ここと思われる場所に入院患者用のパジャマ姿でカーディガンを羽織りのろのろと歩いていくと、ひっそりとした一角にそれはあった。

どこか懐かしい小学校のころを思い出すような雰囲気で、ひとつの部屋の四方の壁に本棚が並んでいるだけのこじんまりとした図書室だ。

ゆとりあるスペースの真ん中には広いテーブルがおかれ、いくつかの椅子が並んでいる。
テーブルの真ん中には、折り紙でおられた作品が並んでいた。

学校のような引き戸をそろりと開けて、こんにちはと声をかける。

正面のカウンターには三人のマダムたちがいた。
お二人は、わたしの母よりも年齢が上と思われる女性で、もうおひとりはそれより少しお若いようだった。

あまり訪問客がいないのか、少し驚いたように挨拶を返してくださり、マダムたちはおしゃべりをしながらパソコンに向かって蔵書管理の作業を続けている。

わたしの生活に本は欠かせないので、図書室に多くの本が並んでいるところを見ると、入院という特殊な世界から少し現実世界に降りてきたようでほっとした。(まだ入院患者だったけれど)

蔵書は、病気や健康に関するものも多かったが、一般の小説のほか、気軽に読めそうな漫画や雑誌なども多かった。
入院している患者によっては、重たい本など読みたくない気分のひともいるだろう。
そんなときの息抜きに、漫画や軽く読める本はちょうどいい。

入院や通院をしているひとは、おそらく人生について考えたり、命について考えたりと、けっこうヘビーなことで頭がいっぱいなはずなのだ。だからこそ、気持ちをほぐしたり、あるいは寄り添ってくれたりする本の存在は、どれほどありがたいことか。

わたし自身、軽く心を癒してくれる本を手に取り、テーブルにつくと二十分ほどで一冊読んでしまった。
お客さん(=患者さん)はわたしともう一人男性だけだった。お揃いのパジャマを着ていることだけが不思議な感じだ。

マダムたちに伺ったところ、図書館はボランティアで運営されているとのこと。

コロナ禍で一時期閉室していたが、最近再開されたそうだ。

開館と言っても、週三日の数時間ずつという限られた時間だ。
ひっそりとした場所にときどき開くなんて、何だか物語に出てくる不思議な図書館のようだ。ほっこりと温かく落ち着いた空間だった。

でも、実際その存続はボランティアの皆さんの手にかかっていると思うとなかなかに大変な仕事だと思う。

病院で入院中に出会う本は、心に寄り添う温かい本であってほしい。

退院後、わたしは似たような病気の治療・手術経験がある女性たちにアンケートを取り、自分の経験談と合わせてそれを一冊の本にまとめようとしている。
開発コンサルタントでやってきたインタビュー調査と、最近設立した雨雲出版という出版レーベルの合わせ技が使えると思ったからだ。

そして、不安と孤独を抱える誰かが手に取ってくれるような本ができれば、いずれ病院図書館に寄贈したいと思っている。

===

病院図書館については、こちらに情報がありました。

エッセイ100本プロジェクト(2023年9月start)
【14/100本】

言葉と文章が心に響いたら、サポートいただけるとうれしいです。