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幻みたいな曖昧さ

この記事は、わたしが友人と配信しているポッドキャスト「たるいといつかのとりあえずまあ」内で行っている好きな短歌を紹介し詠み合うコーナーを書き起こし、要約したものです。今回は千種創一さんの短歌を取り上げさせていただきました。

「たるいといつかのとりあえずまあ」3月上旬のラジオ「森見登美彦の新作にまつわる話」

今回の歌 1
夕暮れのような暗さのアパートの、あなたは脱衣所を褒める


たるい)なんかこう、部屋の狭さがわかるのがすごいいいなあと思って。

いつか)わかるな〜。

たるい)部屋の狭さから、付き合いたての20代を想像しちゃった。まだ2人の関係っていうのは温かくてさ。

いつか)絶対2DKとかじゃないもんな。

たるい)じゃない。なんなら共同の洗濯機まであり得るアパートだよ、これは。

いつか)そうだね。

たるい)「あなたは脱衣所を褒める」って言ったときの、「そういうあなたが好き」というニュアンスがいいなと思うのと、「夕暮れのような暗さ」っていう言い方が好き。「夕暮れ」っていう単語には長くは続かないきらめきみたいなイメージがあって、あなたとの関係に若さを感じるって言うか、続かなそうな感じがする。

いつか)なるほどね。そうね。あなたの他のセンスも気になってる。というかさ、あなたに対する好きなところの一つって感じがする。「お前は脱衣所を褒めるよな」みたいな。「やっぱそういうところがお前だよな」っていう、周りの肉付きが想像できるというか、関係性が見えるよね。

たるい)確かに。「あ、脱衣所褒めるんだ」じゃないよね。

いつか)そうそうそう。「そういうあなただよね」っていう。

たるい)「そうよな」っていう。

いつか)そうそうそう。

今回の歌2
蛍、千年後も光ってて 終電に向けてあなたの手を曳いている


たるい)蛍が千年後も光っている、という現象が、世の中の無情として伝わってきたというか、「そういう摂理が働いていて、否応なくあなたは行ってしまう」っていう感じがする。美しい情景なんだけど、寂しい。
千種さんの歌の「美しさ」に僕はすごく惹かれていて。「夕暮れのような暗さのアパートの」という言い方もそうだけど、言葉が美しいんだよね、しかも過剰じゃなく。しかもその美しさっていうものに全体重を乗っけてしまって意味が伝わらなくなったりとか、意味が個人的なものになってるわけではないっていう。意味が伝わる窓口の広さがありながら、しっかりと美しいというバランス感覚に惹かれている。

いつか)いっちゃん良いやつだ。

たるい)ラヴェルだね、ラヴェル。

いつか)わかる。なんか「蛍、千年後も光ってて」という時の蛍の淡さ、曖昧さ。蛍を俺は手で捕まえたことがないからさ、光でしか認識したことなくって。ただ光としてしか認識してない蛍と、1000年とかいう時間。どちらも曖昧で、想像できない、それとこのリズムの不安定さが絡まってこう、幻みたいな曖昧さが印象派っぽいよね(ラヴェルは印象派を代表する作曲家)。

たるい)確かに。ラヴェルだなあ。


今回の歌
夕暮れのような暗さのアパートの、あなたは脱衣所を褒める
蛍、千年後も光ってて 終電に向けてあなたの手を曳いている


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