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映画『激怒』感想 ディストピア町内会バイオレンス

 主人公の怒りに上手くリンク出来ませんでした。映画『激怒』感想です。

 激怒すると暴力に歯止めが効かない刑事・深間(川瀬陽太)。引きこもりから立て籠もり犯となった男を暴力で引きずり出して捕らえるが、その混乱で犯人の母親が事故死。その後、娘のように面倒をみているポールダンサーの杏奈(彩木あや)をなじられたことにも激怒し、相手を殴り殺してしまう。度重なる不祥事と犯行を揉み消す代わりに、深間は海外の医療機関で薬物治療を受ける。
 数年経ち、帰国後、刑事として復帰した深間は、町が一変していることに気付く。馴染みの猥雑な店は無くなり、可愛がっていた不良の若者たちも姿はなく、代わりに町内会の自警団が、暴力的なパトロールを続けて町を取り締まるようになっていた。「安心・安全、富士見町」というスローガンが響く中、深間の怒りは再び沸々と滾り始めていた…という物語。

 映画評論・映画ライター・デザイナーとして活動する高橋ヨシキさんによる初長編映画監督作品。高橋ヨシキさんの著作は読んでおりませんが、共同脚本で参加している園子温監督『冷たい熱帯魚』はお気に入りの作品だし、ライムスター宇多丸さんのラジオ「アト6」でも度々ゲストとして出演しているのは聴いていたので、この作品をチェックしておこうとなりました。
 
 例のごとく、あらすじなどの前情報も入れずに観たので、何となく裏社会のバイオレンスものかなとイメージしていたら、思ったよりもリアリティを捨てた、B級要素満載のディストピア映画でした。暴力描写も極端な方向に振り切っていて、痛そうと思うよりも先に「造るのが楽しそう!」と思ってしまいます。そういう意味では、高橋ヨシキさんが参加していた映画雑誌「映画秘宝」のノリを確実に再現した作品だと思います。
 
 リアリティがない分、現実への諷刺はやりたい放題入れ込んでいますね。警察の報告書が黒塗りなのとか、完全に日本政治に対する皮肉になっています。また、取り締まる体制側の悪役っぷりも、突き抜けてますね。こんなに『マッドマックス』『北斗の拳』の悪役くらいわかりやすいキャラ造形も久々に見た気がします。
 
 当然、作品テーマも監視・管理社会への反抗ということに当然なるわけで、反体制側に立つのが主人公の深間なんですけど、深間の序盤での描写も極端な方向に振り切ってしまっているので、あまり応援したくない気持ちを植え付けられてしまいました。
 せいぜい、人情はある暴力刑事という描写であれば、『犯罪都市』のマ・ドンソクのようなヒーロー像になれたかもしれませんが、序盤から暴力描写として振り切ってしまっているので、ヤバい人物がヤバい社会に振り回されているという図式にしかならず、観ていて身の置き所がなくなってしまいました。
 終盤での激怒からクライマックスの暴走が見所なわけですけど、序盤からとんでもない暴走をしていたので、今一つ盛り上がりに欠ける部分もありました。激怒を我慢しての暴発ということになっていますが、正直、あまり我慢していないですよね。
 
 「体制側に管理・監視された治安よりは、混沌でも自由な世界を!」という意見はわかりますし、自分としても管理社会はイヤですが、かといって混乱の中で殺伐とした暴力が飛び交う世界も、ちょっと遠慮したいと思ってしまいました。フィクションとしての暴力は好きですが、どこかで暴力そのものは否定して欲しいんですよね。

 とはいえ、ラストバトルでの様々な暴力バリエーションは、フィクションとしてのチープな楽しさに溢れたものでした。ここで女性が暴力に参加しているのも、現代のトレンドを取り入れた結果なのでしょうね(そうか?)。ピンヒールを眼窩にブッ刺すのは「#KuToo」のバイオレンス・バージョンでしょうか。骨折して露出した骨を凶器にするのは、漫画『無限の住人』の悪役・尸良を彷彿とさせます。

 まあ、現代日本を諷刺した映画とはいえ、かなり極端な描き方なので、四の五の言わずに色々な暴力をフィクションとして楽しめば良い作品なんでしょうね。全体的にIQの低さを売りにした作品だと思います(決して悪い意味ではありません。別に良い意味でもないけど)。作品としての楽しさよりも、製作サイドの撮影時の楽しさが伝わる映画でした。


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