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アニメ映画『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』感想 元版の広告のための劇場版

  元版の全13話が素晴らしいアニメです、という話をしています。アニメ映画『オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』感想です。

  偏屈で無口な個人タクシーの運転手・小戸川(声:花江夏樹)。他人と関わろうとしない天涯孤独の身だったが、彼の周辺がにわかに騒がしくなっていく。女子高生失踪事件以降、小戸川の関与を疑う警察官の大門兄弟(声:ミキ・昂生、亜生)、何故か小戸川のタクシーのドライブレコーダーを求めるアイドルマネージャーの山本(声:古川慎)、小戸川に取引を持ち掛けるチンピラのドブ(声:浜田賢二)などなど。事件は小戸川だけではなく、周囲の友人や、お笑い芸人、大学生YouTuberなど様々な人間を巻き込んでいき、事件の全容と共に、小戸川の秘められた過去も次第に明かされていく…という物語。

 『セトウツミ』などで知られる漫画家の此元和津也が脚本を手掛け、テレビ東京系列で2021年に放送、及び配信され、話題となったアニメ『オッドタクシー』を、再編集・新規カットを加えて劇場版映画とした作品。
 放送時、スカートとPUNPEEのコラボ曲が主題歌という情報だけで第1話を観たところ、ドハマりしたアニメでした。2020年が『映像研には手を出すな!』なら、2021年のアニメは間違いなく『オッドタクシー』だったと思います。
 
 登場キャラが全て可愛らしい動物のデザインでありつつ、東京を舞台にしたサスペンスで、割とエグい描写もあるというコントラストが斬新だったんですけど、そのサスペンス脚本と同時にキャラクター同士で交わされる無駄話が絶妙な笑いになっている作品なんですよね。この辺りは『セトウツミ』の原作漫画や映画、ドラマを鑑賞した人なら、此元加津也さんの脚本によるものと一発でわかるものだと思います。
 
 TV版の全13話をまとめた劇場版ということで、各キャラクターのインタビュー証言を軸に話が進んでいく方式となっており、当然のことながら、物語の大部分はダイジェストになっています。あれほど複雑なサスペンス物語を、劇場版という時間内にまとめるには、致し方ない方法だとは思います。
 
 ただ結果として、此元加津也脚本の特徴である、無駄話の応酬から生まれるグルーヴ感みたいなものが、大幅に激減してしまっているんですよね。この辺りが非常に残念でした。
 それでいて、事件の全容がわかりやすいかというと、そうでもないようにも思えます。TV版を観ている自分のような観客には、整理しやすく観ることは出来たかもしれませんが、初見のお客さんにとっては、「随分と複雑な話だなぁ」以上の感想は出てこないと思うんですよね。
 
 『オッドタクシー』の魅力が、全体の複雑怪奇なサスペンス事件にあることは確かなんですけど、それがキャラクターの無駄話と並行して語られているという部分に大きな特徴があるとも思うんですよね。だからお笑い芸人の会話のような笑いのやり取りの中でも、実はいつ事件の伏線が登場するかわからないので、その緊張と緩和の繰り返しを楽しむ物語だったんですよ。
 それが、この劇場版ではただの事件の「説明」のための物語になってしまっているんですよね。それぞれのキャラの行動動機も漠然とした印象となり、まるで適当に事件の真相をまとめたワイドショー番組みたいな構成になってしまっていました。
 
 一応、一番の引きとして、TV版では描かれなかったその後の結末というのが新作カットとなっていますが、これもそこまで新鮮なものかというとそうでもなかったんですよね。少なくとも劇場版の物語の結末としては、やはりただの事実として起こった出来事でしかありませんでした。
 
 ただ、お客さんの入りは結構なものだったんですよね。新宿だったんですけど、満席の映画館で観るのは本当に久々でした(普段観ているジャンルのせいかもしれないけど)。
 『鬼滅の刃』『呪術廻戦』もそうですけど、今更ながらアニメ産業の勢いみたいなものを感じさせられました。観終えた若い人たちが口々に「こういう真相なんだ~」「あれが犯人とはね~」と感想を話していましたが、それを聞くとやはりサスペンス部分のみを味わっているように思えました。そうではなく、もっと会話劇の妙を楽しむ作品のはずなのに、という思いが湧いてきてしまいました。
 
 正直、作品としての「感動」よりは、コンテンツの「消費」という印象が強い作品になってしまったのが残念でなりません。感想書きに入れませんでしたが、昨年の『呪術廻戦0』も同じ印象で、自分としては全く評価出来ないものだったんですよね。

 ただ、これをきっかけに配信で『オッドタクシー』全13話を観る方も多いとは思うので、それはそれで出会いとしては良いのかもしれません。劇場版はド派手な広告としての役割だったと考えるべきなんでしょうね、良いか悪いかは別として。


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