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映画『グリーン・ナイト』感想 世界観を再現するハイレベルな美術

 理解し切れていないところも多いですが、作り込みは素晴らしいものでした。映画『グリーン・ナイト』感想です。

 アーサー王(ショーン・ハリス)の甥であるサー・ガウェイン(デヴ・パテル)は、まだ正式な騎士ではなく、英雄譚になる手柄も持たない怠惰な日々を過ごす若者だった。王と騎士たちが集まるクリスマスの宴の席で、異様な風貌をした緑の騎士(ラルフ・アイネソン)が現れる。緑の騎士は「自分に一撃を加えた者に、私の斧と強さを与える。その代わりに、その者は一年後の同じ日に同じ一撃を受けなければならない」と騎士たちを挑発する。手柄の欲しいガウェインは、この挑発に乗って剣を構える。跪いて首を差し出す緑の騎士を、ガウェインは一刀のもとに斬り伏せる。喝采が起こるも束の間、緑の騎士は悠々と起き上がり、斬り落とされた首を抱えて「では、一年後に待つ」と告げて去っていく。一年後、騎士として約束を果たすべく、ガウェインは緑の騎士が指定した場所を探して旅に出るが、外の世界は若者の想像を絶する不可思議な出来事が待ち受けていた…という物語。

 イングランドに伝わる作者不詳の物語『ガウェイン卿と緑の騎士』を原案として、『ア・ゴースト・ストーリー』で知られるデヴィッド・ロウリーが脚本と監督を務めた作品。『ア・ゴースト・ストーリー』の詩的でアンビエント的な映像美は好きでしたし、配給会社はA24ということで、センス間違いなしと感じて観てまいりました。
 
 まず、中世ヨーロッパを再現した美術セットが凄いですね。詳しくないのでその凄さを理解出来てはいないのですが、きちんと時代考証して検証したうえで再現をしているように感じられます。物語自体は、かなり現実離れしたファンタジー要素も多分にあるので、ともすれば入り込めないものになる可能性もあったのですが、この美術の素晴らしさで映像の世界に没入することが出来ました。
 
 そのファンタジー要素も、『ドラクエ』みたいなワクワクする大冒険的なものではなく、どちらかというと漫画『ベルセルク』のようなおどろおどろしい世界観に近いものがあります。ピーテル・ブリューゲルの絵画作品を再現したような雰囲気を感じました。
 若い騎士が冒険を通じて成長していくという筋書き自体は、RPGゲーム的なものなんですけど、このおどろおどろしい世界観でホラー的なファンタジーに感じられるようになっています。
 
 原作でのガウェイン卿という若い騎士は、もっと勇敢でいかにも主人公な設定のようですが、本作でのガウェインは、割と小物感があり、世間知らずのボンボンという雰囲気という、現代的な設定ですね。盗賊に騙されたり、不可思議な体験をして驚いたりする様は、観客が感情移入しやすいものになっています。
 何よりも、主人公の変化を感じさせるには、この設定の方がはっきりとわかりやすくなっていると思います。そういう意味では成長譚として至極真っ当な物語になっています。
 
 ただ、世間知らずのガウェインが外の世界に出て様々な経験をする物語という軸はわかりやすいものですが、映像的にはかなり不可思議でシュールな世界となっており、各々の事象も示唆的でありつつも難解で、観る人によって解釈が定まらない作品となっています。
 中世騎士の世界に詳しい人、『アーサー王物語』や、それこそ原作の物語を読み込んでいる人なら、わかるような作りにしているのかもしれません。個人的には、幽霊と思われる高貴な女性に、斬り落とされた首探しを頼まれるエピソードには、日本地方の民俗学的な怪異譚と似たものを感じました。日本に限らず、こういう話はあるものなんですね。
 
 ガウェインが死を意識して、受け入れる覚悟を持つまでの成長譚なんですけど、クライマックスでのエピローグ(と見せかけた)部分は、流石に冗長過ぎる気もしました。
原作の終わらせ方とは別物にしているようですが、騎士としての精神的な振る舞いを身に着けるという意味では、元本の意図通りの終わり方かもしれません。
 ただ、戦いによって死を意識する・受け入れる覚悟が、自分にとっては希薄なものなので、あまり現代的なメッセージには思えず、ポンコツだったころのガウェインの方に同調してしまいました。まあ、騎士物語である以上、それは致し方ないかもしれません。世界観の作り方がとにかく素晴らしい作品でした。


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