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忍者ラブレター 毎週ショートショートnote

甲賀の国の陰の名家である森尾家は、ハプスブルク家の顎ならぬ、禿頭で陰の社会にその名を轟かせている。
次代当主である歩は二十歳を過ぎた辺りから前髪が怪しくなり、若くして世継ぎを期待されていた。
ただこのご時世、確定の禿頭では嫁いで来てくれる者を見つけるのは難しい。意中の女性はいるにはいるが、すんなりいくとは思えない。
当代は息子を呼び、秘策を授けた。忍者にとって文というものはそれだけの重みがあることを告げたのである。
思案の末、歩はようやく恋文をしたためた。それを夜陰に紛れて届けるのだ。夜陰に禿頭は目立たない。
 
まだ禿げ初めし前髪が
林檎頭に見える今
前もって付き合いいたしたし
髪あるころが思い出となる
 
こうして送られた忍者ラブレターはすぐに突っ返された。
どうしてだ!
文を見て、当主は頷いた。
「おまえ、パクったらあかんわ。パクったら。禿頭がパクったら目立つんじゃ。よう覚えとけ。目立つところは一カ所にせえ」
と、たしなめられた、という話。
            410字
*作中の恋文は島崎藤村の「初恋」を下敷きにしています。

たはらかに さま
今週もよろしくお願いいたします。


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