見出し画像

蟻の行列  (t)

蟻が歩いている。
炎天下を。
フェンスの真っ黒い影を縁取るように行列をなしている。力持ちが自分の何倍もある蝉の羽根を振り回す。鼓舞するように。

巣の在り処が分かった。
銀杏の根元が少し明るい土色で盛り上がり、蟻の姿が見え隠れしている。

帰巣部隊の行く手には、交通安全の看板が作る大きな影が横たわるが、先頭は当然のようにそれを迂回した。

巣穴からはいよいよ本格的な出陣部隊が現れた。彼らも迂回すると、帰巣部隊とぶつかることになるだろう。
ところが、こちらは影などお構いなしに横切って行く。彼らの姿はその黒い影に飲み込まれ見えなくなった。ジッと目を凝らしても彼らの姿はない。

その影に手を差し入れると、手は何の抵抗もなく深い闇へ落ちて行った。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?