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W.H.Oテドロス氏辞任要求の浅薄さ


 今年1月末頃から開始されたテドロス氏の辞任要求の署名活動が、目標の100万票獲得し終了した。しかし、そのテドロス氏への辞任要求内容は、理路整然としたものではなく、非常に浅薄な情動的なものである。


   SNSで多数のフォロワーを持つ美容外科医の高須氏も、批判的な一連のツイートの中で署名したと表明し、煽っている。彼の支持者やフォロワーには、妄信的に署名した人もいるのではないかと憂慮している。ネット上(特に国内の)には、非難や罵詈雑言のオンパレードだ。

 最近の報道は、WHOが中国と癒着しているという流れが定着しているように感じる。WHOはそれの火消しに躍起になっている。残念ながら、本来感染防止/収束に注力すべき機関が、米国トランプ氏をはじめとする直接、間接の誹謗中傷対応に多くの時間が割かれている。嘆かわしいことだ。


さて、テドロス氏には、本当に辞任要求されるような瑕疵があったのか?


 辞任要求の理由が、何なの確認してみた。WEB上で署名を世界から募る署名サイトchange.orgで署名活動がされていた。
https://www.change.org/p/united-nations-call-for-the-resignation-of-tedros-adhanom-ghebreyesus-who-director-general


 このサイトの事は知らなかったが、不思議なのが発起人のプロフィールがよくわからないのである。名前はカナダのOsuka Yipと記載されているが、匿名でもできそうだし、国籍もよくわからない。どんな属性なのか全くわからない。署名した人は、この署名活動の責任者が、誰なのかわからずに署名しているようだ。私が調べ方を知らないだけかも知れないが。
 現在は、目標の102万以上の署名が集まったので終了し、この後、国連とWHOに提出するという。


Chage.orgの辞任要求内容


 この署名サイトは、英語をはじめ10か国語以上に訳されており世界中から署名を募っていた。以下に掲載されている日本語訳の辞任要求理由を引用した。

2020/1/23、テドロスWHO事務局長は世界的に感染が危惧されていた中国新型コロナウィルスの緊急事態宣言を見送りました。そして今、制御不能の事態に陥る可能性を全世界が恐れています。1/24日たったの800人だった感染者は、わずか5日で10000人まで急速に膨れ上がりました。これはテドロス氏が事態をあまりにも過少評価していた事が感染拡大を防げなった原因の一つであるのは明確です。
我々はテドロス氏はWHO事務局長として全くふさわしくないと非常に強い憤りを覚えます。そして即時に事務局長職から退くことを要求します。
WHOは政治的に中立であるべきでした。ですがテドロス氏は客観的な調査や評価を全く行う事もなく、中国政府から報告されている死亡者、感染者数を鵜呑みにしています。
また台湾はWHOから排除されるべきではありませんが、WHOは依然として台湾の参加を認めておりません。台湾の持つ最新の医療技術は現在WHOに加盟している多くの国々と比べても進んでいます。
再び国際連合とWHOを信頼するに値する組織にするために、皆様の投票を切にお願いいたします。

要約すると
① 1/23に今回の新型コロナウィルスを過小評価し緊急事態宣言を見送った。それが感染防止できなかった一因である。
② 自ら調査せずに中国政府の報告の感染者数、死者数を鵜呑みしている。
③ 医療技術の進んでいる台湾をWHOから排除すべきでない。


 という3点になる。私には「えっ。何これ?」って印象だった。1つずつ見てみよう。


辞任要求理由の考察


① 過小評価して1/23日の宣言を見送った.

まずここでいう緊急事態宣言というのは、PHEIC(Public Health Emergency of
International Concern)の事を指している。これは、2005年に国際保健規則に
基づき制定され、今回以前はエボラ出血熱ジカ熱等5件指定されてる。
MERSは2013年に中東で、2015年に韓国で流行し、指定検討されたがいずれも国際的な緊急事態という要件を満たしていないとして指定されなかった。


(参考)Sustainable japan WEBサイト
https://sustainablejapan.jp/2020/01/31/who-novel-coronavirus/45939
https://ja.wikipedia.org/wiki/国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態


 今回WHOは1月23日の緊急委員会国際緊急事態宣言を見送り、30日に宣言した。23日の患者数は、全体で581人、内中国が571人で、中国以外が10人。その10人も全員が武漢からの帰国者であった。現在、世界での患者数は300万を超えましたが、23日時点での中国以外の患者数が10名の状況で国際緊急事態と宣言できただろうか?緊急委員会は招集されたが、当然見送られた。下手に宣言すると、差別偏見や製薬会社の売込み等の混乱を生じかねないのである。


 宣言した1月30日の患者数でも全体で7818人、内中国内が7736人だが、中国以外は82人の感染者で、まだ死者はゼロだった。でもこの82人の時点で国際緊急事態宣言がなされて各国に警告を発したのである。(WHO Situation Report)


② 中国のデータを鵜呑みして自ら調査していない。


これについては、私には検証できないし、真偽判断できない。ただ、この感染者データ集計は、コンビニ本部が各店舗のクレンジングされた売上データを集計するのとは、訳が違う。大きなアリの巣から湧き出るアリの大群を数えるような作業だと思う。
自ら調査していないと言っているが、WHO自身が調査できる訳がない。連携している出先機関のデータを信じるしかない。それは、他のJohns HopkinsやCDCやECDCも基本的には同じだ。だから出先機関やデータ入手元が、データを改ざんしていると言われれば否定できない。また、指数関数的に、分単位で患者が増加している中での集計だから、多少のミスは発生すると思う。以下のグラフは他のデータソースとWHOの比較であるが、多少の差はあるが大きな違いはない。
参考:Our world in DATA

Date比較0502


③ 台湾を排除している.


 そもそもWHOはUNESCOと同様に国連傘下の組織である。ご存知のように拒否権を持つ中国が台湾を国として認めていなく、台湾は国連に加盟できていない。そのため台湾にはUNESCOが選定する世界遺産も一つもない。会社勤め等の組織人なら理解できると思うが、上部組織のルールで、決まっている限りにおいては、下部組織はそのルールに従わないといけない。国連では台湾を排除しているのでなく、中国の一部と定義している。WHOはそれに従わないといけないので、従っているだけなのである。


つまり、台湾の参加はWHOましてやテドロス氏の一存で決められるような事ではない。言い方を変えると、ルール上は、台湾は中国の一部としてWHOに間接的に参加しているとも言える。その証拠に台湾は、技術的な会議には、当初から参加しているし、情報のネットワークにも初期段階から参加し、有益な情報を入手している。


 以上のように、テドロス氏の辞任要求内容を見てみると、理路整然としたものではなく、非常に浅薄な感情的なものである。
ただ、個人によって持っている情報や信条、立場が違うので署名している人を否定はしないが、このような薄っぺらい理由で、発起人もよくわからないような署名に100万人が署名したとは驚きである。日本人が少ないことを願ってやまない。


  誤解を恐れずに言うと、WHOは全世界の健康維持に貢献するために、感染症や疾病の防止や治療法を科学的にエビデンスベース検証し、各国の保健機関をサポートする組織である。そのサポートを元に、各国が自国の状況を判断し、方針を決め施策実行するのである。隔離や検査、都市封鎖するか、しないかは各国が自己の責任の元判断するべきことだ。


 WHOも何度も言っているが、アドバイスはできるが、指示する強制力を持っていないのである。コロナ禍の影響の責任を、WHOに追及すること自体がナンセンスなのである。


 3月2日の記者会見の中で、テロドス氏は、「スティグマ(偏見・差別)はウィルス以上に危険な敵です。」と述べられている。当時世界各地でアジア人というだけで、差別やいじめを受けていた時期ですが、今一番偏見を受けているのはWHOやテドロス氏なのだ。WHOの足を引っ張ることはやめてほしいと切に思う。

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