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【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街-

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砂漠をさまよい、砂色の街にたどり着いた〝私〟。哀しみに疲弊した〝私〟を〝街〟は優しく受け入れるが…… 見知らぬ異国での様々な人との出会い。辛い現実を生きる人たちが癒されていく物… もっと読む
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記事一覧

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 1

ヒジュラ    アラビア語で“移住”を意味し、    特に ある人間関係を断ち切り、新…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 2

 ――静寂の色は、月明かりに似ている。  真夜中ごろ、空高く上った満月は、神々しいほどに…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 3

 ――ようやく訪れた柔らかな眠りにまだ落ちきらないころ、まどろみは突然破られた。  窓ガ…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 4

 その女性は他所者で、身寄りもなく何年か前に北のほうから独りでこの街に流れてきたという。…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 5

 その街は、静けさに満ちていた――。  人の生活の営みは、高く屹立する高層建築の内側に閉…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 6

 ――夕暮れの風が吹いてくると、街は途端にその趣を変えた。  砂漠を渡ってくる風が、日中…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 7

 その日、約束の時刻に私は“闇夜”と広場の端で落ち合った。イマームの大説法の日ということで、街じゅうが公休日となっていた。普段は日干し煉瓦で埋め尽くされている広場は綺麗に片付けられ、栄えある祭典にふさわしいよう、隅々まで掃除された。膨大な数のカーペットが敷かれ、街じゅうの男たちが集まっても誰ひとり欠けることなく席を取れるように、広場からはみ出して、通りの上まで占めているほどだった。  街じゅうが、祝祭日のように何だかソワソワと落ち着かず、浮き足立っているようだった。そのせいか

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 8

 季節が変わり繁忙期になってから、街には人の出入りが多くなっていた。毎日、色々な土地から…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 9

 ――結局その日、私は百人近くの署名をもらって宿に戻った。アフマドは、やはり昨日にも増し…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 10

 ――月のさやけき夜だった。なぜか中途で目を覚ました私は、眠れなくなって、手洗いに行った…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 11

 イマームの大巡礼の随行者の名前が発表されたのは、私たちが署名と嘆願書を提出した五日後の…

【長編小説】 ヒジュラ -邂逅の街- 12 最終回

 ――日が暮れようとしていた。蟻塚のような街の背後に、今日の最後の光が射して、斜めに傾い…