【長編小説】 初夏の追想 16
――やがて、季節は本格的な夏の到来を迎えた。
毎日蒸せ返るような暑さが続いた。平地と違って、自動車の排気ガスやエアコンの室外機による弊害としか思えないあの気違いじみた暑さに比べれば遙かにましだったが、やはりこの山中の森にも、それなりの暑気というものはあった。木陰にいれば涼しかったが、それ以外の場所では草いきれによって濃縮された空気が匂い立ち、標高の高い土地に特有の射るような強い陽射しが照りつけた。そのため、ちょっと戸外に出ているだけでも汗が噴き出し、肌がジリジリと焼かれる