見出し画像

2020年に読んだ本(哲学・歴史)

2020年に読んだ本をまとめ中。今回は哲学・歴史関係の本を紹介。
それでも世界の仕組みを解き明かそうとするのはラノベとかエロゲみたいで面白い。
本を紹介してくれた人の影響でやや古典が多め。発売されたばかりの本はいいかどうかわからないけど、古典は長く読まれてきて評価されたものが残っているので名著に当たる確率が高くなる
一冊を精読していても、その本が何について述べているかとか、位置づけがわからない。ものすごく広い範囲のことを書いている可能性もあるし、限定的な条件で成立することを広く一般化しすぎている可能性もある。慣れるまでは乱読した方がいいのかなと思ってとりあえず色々当たってみた。内容に関しては10%も理解していないのが大半だったり。難易度は5段階で適当に。
2020.12.30 5冊追記

人間の条件

読みやすさ★☆☆☆☆
思想家ハンナ・アーレント。超難解。人間が行っている活動を3つに分類する。生命を維持するために行う『労働』、耐久性のあるものを生み出す『仕事』、言論行為である『活動』に分け、活動>仕事>労働の順に重きを置く。古代ギリシャでは言論活動の場である『公的領域(ポリス)』と『私的領域(家)』がはっきり区別されていた。私的領域は生命に必要な場、公的領域は自由な場とされ、自由>必要とすると公的領域に重きを置く。現代では私的領域が拡大して『社会的領域』なるものが出現。私的領域と公的領域の区別が曖昧になっている。なるほどわからん(^p^)
人間の条件で重要なのは、『活動』に分類される言論行為であり、それを行う場である『公的領域』となる場の存在。

ニコマコス倫理学(上)(下)

読みやすさ★★★★☆
アリストテレスの講義。徳とは何か。勇気とは何か。愛とは何か。この本は睡眠導入剤としての効能が高かった。

社会学的想像力

読みやすさ★★☆☆☆
社会学の研究で陥りがちな2つの問題について。歴史的な物事を1つのルール(グランド・セオリー)で説明できればわかりやすいが、その『わかりやすさ』は問題である。世の中は多数の人が関わり複雑な事情で動いているにも関わらず簡単に説明できてわかった気になってしまう。また、具体的な事例を過度に一般化することも危険である。

個人は時代状況のなかに自分自身を位置付けることによってはじめて、自分固有の経験とは何かを理解し、その行く末を見定めることができるようになる。

保守の遺言

読みやすさ★★★★☆
著者は日本の保守思想家西部邁氏。アメリカから独立するため、そして他国に侵略されないため、核保有の有効性を訴えている。憲法9条の改正案も「自衛隊の存在は認める」とするのではなく「国防軍をもたねばならない」としたいとはっきり主張しており、この辺は現政府のアメリカ従属とはまったく違う。
資本主義について。規制緩和を推進して不定期雇用である状態は組織の弱体化をもたらすこと、危機への対応ができないことを指摘している。

組織が健全であるためには被雇用者の相当部分が、暗黙の契約という意味で、長期雇用されていなければならない。

資本主義の危機について。労働主義(?)や社会主義はうまくいかない。

有効なのは資本主義を中心におきつつも、それにたいして様々なレギュレーション(規制)をかけるということのみであろう

抽象的な話が多くてわからなかったが、金融工学で危機を先送りにするのとは違う。根本的な部分に突っ込んでいると思った。

フランス革命の省察

読みやすさ★★★★☆
著者はイギリスの思想家で保守主義の父と言われるエドマンド・バーク。フランス革命について意見を求められ、本書はその返答。
『保守思想』のイメージはまさにこんな感じ。

政治の技術とは、かように理屈ではどうにもならぬものであり、しかも国の存立と繁栄にかかわっている以上、経験はいくらあっても足りない。もっとも賢明で鋭敏な人間が、生涯にわたって経験を積んだとしても足りないのである。だとすれば、長年にわたって機能してきた社会システムを廃止するとか、うまくいく保証のない新しいシステムを導入・構築するとかいう場合は、「石橋を叩いて渡らない」を信条としなければならない。

人権と国家の関係はどうあるべきかについても言及している。

政府は「人間の自然な権利」、つまり自然権のうえにつくられるものではない。自然権は政府とはまったく無関係に存在するものだし、抽象概念としてはきわめてわかりやすい。しかし、だからおそ現実にはつかいものにならないのだ。

これはバランスの取れる考えだと思った。また、「私は「人間の権利」という概念を否定したいのではない。」とも述べている。しかし本書の大半では人権なんて大嫌いなことを隠せていなかった。後半に行くにつれて筆が乗ってきたのか過激になっていくのも面白い。
本題のフランス革命に対しては、大義がないこと、大きな改革を行ったことによる弊害を指摘し、軍事権力の暴走まで予言した。

7日間で突然頭がよくなる本

読みやすさ★★★★☆
タイトルが酷い。内容は哲学的思考のトレーニング。物事を多面的に見るのにどのような観点があるか解説されている。

リヴァイアサン1・2

読みやすさ★★★☆☆
著者はイングランドの思想家トマス・ホッブズ。時代は清教徒革命の少しあと。1巻では国家の存在しない自然状態では何が起こるのか人間の感覚や思考から導入し、用語の定義と論理を積み重ねて『万人の万人に対する闘争』を導出した。

世界史の構造

読みやすさ★★★☆☆
著者は日本の哲学者柄谷行人。交換様式をA『互酬』・B『略奪と再分配』・C『商品交換』に分類。マルクスが商品交換について行ったのと同様に他を考察した。歴史上、また文明によってA・B・Cは常に存在するがその比率は異なっている。原始時代から交換様式がどのように移行してきたか、論じている。また、B・Cに対抗する交換様式Dを提示。この辺よく理解していないのでまた読みたい。

中国化する日本

読みやすさ★★★★★
中国は宋の時代から(明の時代を除いて)『皇帝への集権と自由市場』という社会制度が確立され、そのまま現在に続いているという視点で書かれている。中国型だと「機会は平等にする。結果の平等なんてない。親族ネットワークの中で成功している人が一人くらいいるだろうからそこを頼れ」と自己責任である。また、日本は何度も同じように『集権と自由化』しようとする契機があったが、日本式に引き戻された。日本式の完成形が江戸時代であり『封建制』である。どちらが良いというわけでもなく一長一短であるが著者は明確に江戸時代型を嫌っている。どちらも完成形なので、いいとこどりしようと両国の特徴を混ぜて使うのは混合倫理となり支障をきたす可能性が高まる。ジェイン・ジェイコブズ『市場の倫理 統治の倫理』参照。

時間かせぎの資本主義――いつまで危機を先送りできるか

読みやすさ★☆☆☆☆
著者はドイツの人。難解。本編より訳者解説を読んだ気がする。
リーマンショック後、経済が回復してきているように見えて実際は資本主義の危機を先送りしているだけにすぎない。リーマンショックより前、1970年代から既に危機は始まっていた。

◆3つの危機 …1つを解決しようとすると他が悪化
①銀行危機
リーマンショック以後、巨額の不良債権を抱える。
②国家債務危機
国は不良債権の引き受けや資本注入を余儀なくされ、国家財政がさらに悪化した。
③成長危機 マクロ経済危機
財政再建のための緊縮が需要を縮小し景気悪化。
◆時間稼ぎ①1970年代
景気回復名目で財政緩和~インフレ放置。賃金上昇<物価上昇
労働者:(名目)賃金上昇
資本家:実質賃金は抑えられる
政府:既発の国債が減価
◆時間稼ぎ②1980年代
インフレ抑止で金利引き上げ~デフレで景気後退&失業率(それプラス年金支払い)
国債発行して民間の金融機関から前借り
(代償で?)金融市場の自由化&公共セクタの民営化
富裕層に対する減税の余裕ができる
資本家の投資先が増える
…政府債務を民間債務に移して時間を稼ぐ
◆時間稼ぎ③1990年代~2000年代
政府「国債多すぎィ」→「社会保障費削減」
労働者「しょうがねえなぁ」
金融機関「クレカ審査甘くするから購買意欲でるよね」
政府「住宅減税するから借金して家を買ってね」
…リスクを個人に取らせることで危機を先延ばし
…住宅価格が上がっている間はセーフ
◆時間稼ぎ④現在進行中
リーマンショック\(^o^)/
中央銀行「ゼロ金利で市場に資金提供」
中央銀行「危機国の国債を購入」
中央銀行「株を購入」
…危機を表面化させないように時間稼ぎ
◆危機を生み出した根本原因
国際金融のトリレンマ:
「自由な資本移動」「固定相場制」「独立した金融政策」のうち同時に実現できるのは2つまで。
1970年代「固定相場制」を解除し「自由な資本移動」が可能になった。
その後、成長停滞の克服のため新自由主義的転換。
…「解決」ではなく「先送り」

武器としての「資本論」

読みやすさ★★★★★
とっつきやすい資本論の入門書。

資本主義の起源

読みやすさ★★☆☆☆
著者はユダヤ人マルクス主義研究者。資本主義との闘争の書。

現代資本主義と対決することができるためには、対決すべき相手の正体を明確に捉えておかなければならない(訳者解説より)

資本主義の起源は産業革命より以前、17世紀のイングランド田園地帯にあったとされる。小~中規模の農業家が小商品生産者となり、それまでの商人にとって替わった。しかし、なぜこのような移行が起ったかの説明は十分なされていなかった。『資本主義はそれを妨げる封建制・未発達な交易路などの条件が取り除かれれば自然発生するものだ』というのは資本主義を前提とした循環論法である。この理由では自由市場の発達したアジアで資本主義化しなかったことや、都市部ではなく田園地帯で移行が始まったことを説明できない。著者はそれまでの説を取り上げてはほとんどがこの循環論法に陥っていると指摘している。
著者の説によると、イングランドでは、中央集権化により支配階級は脱軍事化し軍事的・政治的な力は比較的弱かったこと。また、大規模な土地を所有している大地主は土地を貸して借地農によって耕させたこと。地代は固定制ではなく変動制だったこと。これらの特殊な条件が資本主義への移行に必要だったと論じている。


資本論1~2

読みやすさ★☆☆☆☆
あらゆる哲学者に研究されている原典。これを読まないことには始まらない。いや無理。……(o_ _)o パタッ

日本はなぜ敗れるのか 敗因21ヵ条

読みやすさ★★★★★
著者は評論家山本七平。当時マレーシアに駐在していた技術者が戦争終結時に書いた手記『虜人日記』から常識的に考える人が何を見てきたか、軍がなぜ異常な意思決定をしてきたかを論述している。
本書に書かれている当時の意思決定のされ方は現在の日本にもそのまま当てはまると思えた。

キリギリスの年金

読みやすさ★★★☆☆
著者は弁護士明石順平氏。年金の歴史的経緯について。制度開始時にしてしまった支払いの約束に無理があって高齢者人口増加に対応できない。みんな支給額を減らされたくないし負担を増やしたくもない。なんなら破綻するそのときまで問題から目を逸らしたい。

金融に未来はあるか

読みやすさ★★★☆☆
著者はスコットランド出身の経済学者ジョン・ケイ。金融の虚業性について述べた本。トレードは投資先の業績を読むのではなく、他のトレーダーが株価が上がると思っているのか下がると思っているか読み合い信じ込ませるもの。参加者にはギャンブルをやらせておいて胴元は手数料で儲けるもの。

戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗

読みやすさ★★★★★
加藤陽子先生の本をたまたま今年読んでいたので学術会議の任命拒否問題で名前がでてきたことに驚愕した。

知ってはいけない1~2

読みやすさ★★★★★
なぜ米軍が日本領内で好き勝手できるか。密約。日米合同委員会。

この2冊は別の記事で紹介済み。

全体主義の克服

2020.12.30追記
読みやすさ★★★☆☆
ドイツの哲学者マルクス・ガブリエルと日本の哲学者中島隆博氏の対話。今の時代の全体主義はデジタルテクノロジーによってなされる。自宅に居ながらSNSにアクセスできる現在、公的領域と私的領域の境界が破壊されている。すべてを説明しようとする理論には疑問を持たなければならない。

良いテロリストのための教科書

2020.12.30追記
読みやすさ★★★★★
革命家 外山恒一氏による「右翼」「左翼」の解説。特に左翼思想史が詳しい。対話形式でとてもわかりやすく書いてくれているが左翼の分類がごちゃごちゃしすぎていてわかりにくいことがわかった。

靖国史観

2020.12.30追記
読みやすさ★★★★☆
著者は中国思想史研究者 小島毅氏。靖国神社は神道ではなく儒教の考えに基づいている。日本には古来から敵味方の区別なく死者を祭る思想があるが、靖国神社はそれとは異なる。天皇の為に戦ったものは祭るが、天皇に背いたものは祭らない。そのような施設である。靖国史観には日本の思想の矛盾点が現れている。

人新世の「資本論」

2020.12.30追記
読みやすさ★★★★☆
著者はマルクス主義研究者 斎藤幸平氏。資本主義による貧困化・環境破壊に真っ向から立ち向かう書。晩年のマルクスの思想を研究し、脱成長コミュニズムを提唱。

菊と刀

2020.12.30追記
読みやすさ★★★★★
アメリカの人類学者ベネディクトが分析した日本人の性質について。思考原理を紐解いていて面白い。執筆されたのは終戦直後。江戸時代の話も扱っており封建制の色が非常に濃いが、今でもよく当てはまると思う。
身分や家族内での序列に応じてあるべき姿があり、「義務」や「義理」を果たす。将軍への「忠」はそれを上回る。幼少期から振る舞いを教わり、できないと(死ぬか殺すかするほどに)「恥」だと感じるようになり、これが強制力となる。「忠」の対象は天皇に置きかえられ、更に絶対的なものとなった。どういう歴史の中でこの考え方がでてきたか分析しているので、細部で事実誤認はあっても本質を掴めたのだろう。
今は江戸時代の完成度の高い封建制から明治維新と敗戦と資本制への移行で中途半端に封建制の思想が残った状態にあると思う。統治倫理と市場倫理の混合状態が不道徳をもたらすんだと思った。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?