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恋と、性と、メルヘン 2024年4月【1】

あぎる(筆者)

「類は友を呼ぶ」とはよく言ったもので、今日はここに、私の分身のような人々が集まりました。どうも夢見る人たちばかりです。話題はいつの間にやら、恋や性に移っていきました。

A氏

中世のヨーロッパなんかを想像してください。私は貧しい木こりです。どういうわけか今日はお城から偉い人が来るようなんです。私は華やかなのが苦手ですから、遠くからそれを眺めています。

従者が馬車の扉を開けます。すると中から、真っ白なドレスを着た女性が出てきました。きっとお姫様です。遠くてお顔までは見えません。私はその人があんまり輝いているので、興味を持ったんです。こんな田舎に、あんなに輝いている人はいませんから。

私はどうやら、知らぬ間にお姫様に近づいていたようです。もっと見たい、もっと見たい、と思って、無意識に歩いていました。護衛の男がふたり、目の前に来て、長い棒を交差させ、通せんぼをしました。

その時です。お姫様と目が合いました。彼女はフッと微笑みました。白いドレスに、白い肌で、まったく太陽を見た時のようにまぶしくて、すぐに目を逸らしました。

それからまた仕事に戻りましたが、頭の中がずっと白いままなのです。何としても、もう一度お目にかかりたいものですが、無理でしょうね。貧しい木こりがお姫様に会う方法はありません。

庶民がお姫様と結婚するのは、おとぎ話だけです。実際には、もう見ることさえ叶いません。だけど私は幸せです。何しろ私は、片思いが好きなんです。あの日のお姫様の微笑みが、私を一生幸せにします。

何というか「お姫様」という言葉が好きなのです。本当のお姫様より、お姫様という言葉が好きなのです。その言葉によって思い浮かぶお姫様が好きなのであって、実在しているかどうかは、問題ではありません。むしろいないほうがいいくらいです。私の心の中にいるお姫様のほうが、本物より美しいに決まっているのですから。

B氏

A氏はお姫様がどうとか言っていますが、私は百姓仕事で汚れた子が好きです。汗ばんだ首周りと、ほつれた髪にグッときます。

美人でないのがいいんです。やせっぽちで胸の小さな子がいいんです。きっとその子は自分の体つきに悩んでいます。それがいいんです。毎日、鏡の前に立って、胸を寄せて上げて、ため息をついているんです。そういうのを想像して、愛おしくなるんです。私はその子の部屋の鏡になりたい。

C氏

私が恋したのは、同じクラスの女の子です。中学3年の頃で、季節は9月。文化祭の準備をしていました。

彼女が、机の上のハサミを取ろうとした時のことです。体を前に傾けたせいで、胸の谷間とブラジャーが見えたんです。夏ですから、ブラウスの第2ボタンまであけていたんです。

彼女は私の視線に気付いて、すぐ手で隠しました。表情も変えませんでしたし、何も言いませんでした。

私は不安になりました。彼女に嫌われたと思ったからです。でも謝るのもおかしい。私は何もできません。

その時から、彼女のことばかり考えるようになってしまいました。教室にいる時は、彼女を目で追うようになりました。

次第に奇妙な優越感を持つようにもなりました。私だけが、彼女の秘密を知っているんだと思い始めたのです。

D氏

驚きました。C氏とそっくりの経験があります。私の場合は高校生でしたし、胸ではなくてスカートの中でした。でも文化祭の準備中でしたね。

女の子たちは制服でした。膝をついて、床で作業しているんです。でも私の正面にいた女の子は、しゃがんだのです。それでスカートの中が見えました。

黄色とか茶色とか、いろいろな色が混ざっている、インディアンっぽい柄でした。今ググってみたら「ネイティブ柄」というみたいです。そうだ、近年はインディアンではなく、ネイティブアメリカンと言うのでした。

下着を見ることができて嬉しいというのは、後から来る感情ですね。その瞬間には気まずい気持ちになります。悪いことをした気持ちになり、何だか責められているような気がしてしまいます。

でも理不尽ですよ。私は見ようとしたわけじゃないんですから。しゃがんだぐらいで見えるような服を着ているほうが悪い。

いや、でも制服か。どうしたらいいんだろうな。中を見ることができたら嬉しいって気持ちが問題を複雑にしますね。というか、嬉しいどころじゃないですよね。そこから恋に発展しちゃうんだから。人生を揺るがすできごとと言っていい。

E氏

私は小中学生の頃、ふたりの女の子に恋をしました。ふたりとも「梨」という字が入っていました。だから私は、今でも果物の梨を見るだけで、あの頃の恋を思い出すんです。梨を食べる時には、性的興奮さえ覚えます。

私は彼女たちに恋をしていた当時、その名前を何度もノートに書きました。そうするたびに、性的興奮と切なさが同時に来て、胸が苦しくなるんです。その痛みを楽しんでいました。

彼女たちの名字を、自分の名字に変えて書いたりもしました。「私と結婚したら……」と夢を見るためです。でもそれは好きではありませんでした。彼女の名字が変わったら、彼女じゃないからです。自分と混ざる感じがして嫌なのです。

彼女の名字もまた、私には憧れなのです。佐藤や鈴木であっても「佐藤さん」や「鈴木さん」というのは彼女のことです。それを改変するなんてもってのほか。彼女の名前はそのままで完璧なのです。

夫婦別姓の話をしているわけではありません。だって当時はそんなこと考えもしませんでしたから。ただ感覚的に嫌だったんです。その思いは今でも変わりません。

F氏

38歳にもなって、まだ小中学生の頃の恋から逃れられないんですよ。いえ、逃れられないというのは嘘。わざとそうしているんです。なぜだかわからないけれど、大昔の片思いは、一番楽しいんです。進行形の片思いは一番苦しいのにね。

G氏

現実的なお話は嫌い。ただメルヘンだけがこの世の憂さを忘れさせてくれます。お酒で現実逃避する人がいるけど、お酒って、とても現実的。私は空想のワインがいい。むしろ、そうじゃなきゃいけません。

あぎる(筆者)

これらの話をネットで発表することについては、全員の了承を得ています。私もあれこれ話したのですが、この記事は既に長くなりすぎました。別の機会に書きます。

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著者は1985年生まれの男性。 不登校、社会不適応、人付き合いが苦手。 内向型人間。HSP。エニアグラムタイプ4。 宗教・哲学(生き方)…

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