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横光利一
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青空文庫より、
横光利一の「妻」
を読みました。

《ふわっとあらすじ》

雨上がり、
私は家の庭の小道を
倒れた花を踏まないように歩いた。
すると不意に足が滑って
仰向けにひっくり返った。

私はいつもここで滑るのだ。

長らく病に伏している妻は、
そんな私を床の中から見て、
声を出して笑った。

新婚の頃は、私が滑ると
妻も大変慌てていたが、
次第に平気になり、
今では楽しんでいる様子だ。
夫婦の形態というものは
次第に変化するものだ。

翌日、庭の葡萄の葉に
褐色のカマキリを見つけた。
それは雌のカマキリで、よく見ると
もう一匹の青い雄のカマキリを
半分ほど食べているところだった。

雄のカマキリは頭をゆるく振り
落ち着いているようにみえた。

これが夫婦の次の形態かと思った。

家で、一人雇っている婆やがいる。
いちじくの木の方から
歩いてくる婆やを呼びとめて
このカマキリを見せた。

婆やは夫が妻に食われていると分かると
非常に腹を立てた。
そして雄を全て食べたのを見届けると
雌のカマキリを殺してしまった。

女に食われたら男は喜ぶさ
と私が言うと、婆やはどうやら
下品な意味にとったらしかった。

雄のカマキリの表情からは確かに、
恍惚とした歓喜を感じたのだった。

私は「いちじくはいらないか」
と床にいる妻に声をかけた。

《語句解説》

小路:幅の狭い道。
茫々:草・髪などが伸びて乱れているさま。
格子: 細い角材や竹などを、碁盤の目のように
   組み合わせて作った建具。戸・窓などに用いる。
咳く(しわぶく):せきをする。
まるで新感覺よ:利一が新感覚派だったことによる洒落か。
新感覚派:大正末期〜昭和初期、文芸同人雑誌『文芸時代』
    (1924年創刊)に拠った同人たちとその傾向をいう
     横光利一・川端康成・今東光・片岡鉄兵・
     中河与一らが中心。自然主義的リアリズムを排し、
     感覚・印象の豊富な内容を表現する技法や
     文体に新生面を開いた。
興趣:味わいの深いおもしろみ。
哄笑:大口をあけて笑うこと。どっと大声で笑うこと。
一條:ひと筋。1本。
満腔:からだじゅう。満身。
べテレヘム:ベツレヘムはイエス・キリストの
      生誕の地とされている。
汝の髪は紫の~:旧約聖書の中の文の一部を引用し、
        言い換えているようです。
汝は汝の床もて~:こちらも旧約聖書の引用か。
         愛する妻への言葉のように思えます。
口がとれる:ほっぺたが落ちると同じ意味か。
悠長:動作や態度などが落ち着いていて気の長いこと。
恍惚:心を奪われてうっとりするさま。
草玉:風にそよぐような丈のある植物の実のことか。

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音声配信アプリstand.fmにて、
「しんいち情報局(仮)」の
「朗読しんいち」を
担当させていただいています。

しんいち情報局(仮)
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